外伝1-13 八十葉家当主 八十葉光(後編1)
八十葉家の内乱については、すぐに全国に知られることになった。
しかし、不思議と光と八十葉家の評価が下がることはなかった。
内乱の後、宗一がすぐに本家を後にしたところをみると、恐らく宗一が裏で何かをしたのだろうと、光は予想していたが、その真実は決して光の耳に届くことはなかった。
そういうわけで、宗一は本家に留まることはなかった。
光はせめてたびたび本家に姿を見せてほしいと願ったが、宗一はあくまで自分はもう八十葉家にはいられない存在だという主張を通していた。
「俺にはまだやるべきことがある。八十葉家ではできないことだ。俺が人間の街で独立魔装部隊をつくった目的を、俺はまだ果たせていないからな」
「兄上……やはりそうですか……」
「なあに、俺が居なくても大丈夫だ。お前は聡明なのだからな」
「聡明って、兄上に比べれば……」
「ははは、謙遜することはないぞ。可愛いなぁお前はー」
内乱が終わった後、妹と一晩だけの久しぶりの会話の様子を見た部下の和幸は、その日の宗一を、とんでもないシスコンだった、と評していたそうだ。
その日から光は当主として、その振る舞いが変わったという。兄の宗一によからぬことを吹き込まれたといううわさがあるとかないとか。
八十葉家は内乱を経て、大きな変化をすることになった。
内乱から1週間後。
本家があった領地は残念ながら光は綺麗にお掃除してしまったため、まだ復興の目途は経っていない。
そのため、先の話通り、七星家の本家を臨時の本家として使うことになっている。
そして本日は内乱後初めて、八十葉家の幹部と各地の傘下の当主を迎えての会議の日となっている。
「光様……いよいよですね」
「ええ。緊張してる?」
「その……まあ」
「大丈夫よ。この日のためにあなたにも、他の近衛にもいっぱい働いてもらったでしょう?」
「それはそうですが……」
鈴が緊張を隠せない理由は多い。
今回の会議は、内乱を起こした光の責任を追求するものになる。倭の人間は責任を取ること、それ即ち腹切りや辞任という存在抹消を良しとする文化が強く根付いている。
しかし、今の光に辞任の意志はない。当然自害をするつもりもない。
恐らくまずそこで、他の当主や幹部との激突は免れないだろうと、鈴は予想している。
「そういえば、今日は亡命寸前だった司様もお姿をみせるとか……」
「そうね」
光は司や司家を処罰はしなかった。反逆の主犯であるにも関わらず。
そしてそれだけではなく、反逆に加担したことが分かっている家、先の内乱で八十葉家に手を貸さなかった家にも罰を与えなかった。
実はその理由は鈴も知らない。光が1人、何かをたくらみ、独立魔装部隊や他の家からの協力者を使って何かを企んでいるということだけ鈴は知っている。
「今日の会議は進行役をあなたにするわ。どうかお願いね」
「ですが、神聖な場に私がいることは許されないのでは……」
「大丈夫よ」
会議場はいよいよ目の前に迫っている。
光は笑みを浮かべながら鈴の手を握り、会議室へと引っ張っていく。
中には傘下の家や当主が勢ぞろいだった。今回の会議の欠席者は誰もいなかった。ここには傘下の家の当主や幹部が全員いる。
部屋に入った瞬間、光の雰囲気が変わる。先ほどとは違い当主としての側面が強く面に出始めた。
「皆様、お待たせいたしました」
光は一礼し、当主として用意された席に腰を下ろす。
会議の始まりは、鈴の進行の声で始まることに。
「皆様、お忙しい中でご参加ありがとうございます。本日は当主、八十葉光の要請により緊急の会議を始めたいと思います」
鈴が進行役と言う時点で、司や彼と意見を同じにする人間差別派に近い意識の傘下当主から声が上がるところだったが、司仁が一礼し、鈴の傘下を粛々と認めたことに、場が騒然とする。
それを見ていた他の傘下が司の代わりにすぐに立ち上がる。
「光ちゃん、どうしてその子がいる。近衛であろうと、人間は人間。この場にふさわしくない者がいては会議もはかどらないというものだ。すぐに彼女を外に出しなさい」
「あら、当主である私の指示です。何か問題がありまして?」
「ん……?」
光の返答の仕方に今までとの違和感を覚えたものの、その傘下の当主はそのまま自分の意見を表す。
「ともかく、彼女は外に出しなさい、光ちゃ」
その傘下の当主に槍の刃が突きつけられる。
場が凍り付く。
いつの間にかこの場に現れていた光の部下である源鋼が自分の槍の刃を向けていた。
「無礼な……この場を血で濡らすのか、君」
鋼は失笑しながら、
「生意気な態度、当主の意向に物申す態度じゃないな。当主から、会議の邪魔をする愚者は殺していいと命を受けている」
「貴様……!」
光がそこで一言、その当主に言う。
「舞型様、会議を進めたいのですけれど?」
「光ちゃん、だがね、八十葉家の伝統は」
「はあ……立場が分かっていないご様子ですね?」
光が指をさすと、指の先から光弾を放つ。その光弾は、生意気な態度をとったその当主に小さめの光弾を放った。その光弾は間違いなく殺傷能力のある者で、その男の肩を貫いた。
「あが……」
衣服を赤く染めた光景を見て、会議場が騒然とする。
「黙りなさい」
しかし、光はその場を静めた。
これまでの会議の中で光は他の当主との会議で、他のどのような意見でも無視したり黙らせたりしたことはなかった。全員が発言権をもって、幹部や傘下当主の誰もが、自由に発言ができて光はそれを自分の意志と反対であってもきちんと聞いていた。
これまでの光と何かが違うことを、この場に集まった会議の参加者がその時点で察する。
「舞型様、会議に関係のない話謹んでいただけますようにね?」
光は笑顔で諭すように語り掛ける。
「鈴、会議を始めましょう」
光が鈴に対してくるだろう追及の流れを完全に断ち切り、話を始める。
「光様、今回の内乱の責任はどうとるおつもりですかな?」
「これまでは当主としてふさわしくない振る舞いをしてしまったことを今は反省しています。なので、これからは皆様にご協力をお願いすることになります。もう二度と、反乱などという愚かなことが起こらないように」
「それは具体的に?」
「方針は変わりません。八十葉家は親人間派として人間の居場所を作っていきます。それは変わらず。しかし今までと違い、今までは私を中心に動いていましたが、これからは皆様が中心に動いてもらいたいと思います。そのために、まずは皆様の理解を得たいと思っています」
「……それは、これまでと何も変わらない。今回の内乱から何も学ばなかったご様子ですね? 八十葉家はあくまで人間を管理する家。それを理解する人間がいるはずもない」
「ふふふ。そう焦らないでください。私がこれから帰るのは、あなた方、傘下の家とその領地の管理の方法です。今日は皆様に新しい八十葉家の方針にご理解を頂きたくこのように集まっていただいた次第なのです」
光が提案した傘下の家の新しい管理方法と八十葉家の当主としての動き。
本家が中心に動くのではなく、光と本家はあくまで監視者として、他の家が八十葉家の方針について理解して行動に移せるように指導、管理を行うことに集中することにするという。
まずは指導について。
八十葉家に参加している〈人〉にはこれから7日間の八十葉家基本方針に関する集中教育を受けることを義務とすることが決定された。
「これに関しては、まず教育を受けてくださった司家の皆様に話を聞いてみてはいかがでしょうか?」
当然と言うべきだが、光は司を逃がしはしなかった。
処刑するのもやぶさかではなかったのだが、捕らえたその身柄を利用することにしたのだ。
「司様? いかがですか?」
司仁はこれまで八十葉光に叛逆していたのが嘘のように、
「光様に……まチガいは……ありハしマセン。我々は人間とトモニ生きるべきです」
活力を感じられない声で、そのように声を出したのだ。光は満足そうに笑い、
「ごめんなさい。少し教育が過ぎましたね。でも、司様も私にご賛同いただいていますよ。この教育プログラムを受けていただければ、八十葉家の新しい在り方に賛同してくださいますとも。ちなみに娘の桜花さんは喜んで受けていただいて、そして今は司家の次期当主になるまでは、近衛として勉強したいという話まで頂いているくらいなのですよ。皆さんにもぜひ受けていただきたいわ?」
と会議場の全員におすすめをする。
もちろん、光がやったのは単なる教育ではないことはこの場にいる全員が理解した。
「そんなもの……単なる洗脳ではないか!」
「ふふ、我々〈人〉が人間の子供にやっていることと同じでしょう? それを私があなた方に矢って何が悪いのですか?」
「それは連中は人間であるから、われわれの役に立たなければならないから当然の処置。あなたの〈人〉権を害することと同じにしないでいただきたい」
「あら、上の者が下の者に『教育』していいのなら、当主の私があなた方にして何が悪いの?」
「話にならないな。狂った当主め……!」
光は反論をした当主の前にディスプレイを展開する。
その画面の中で動画が再生された。その動画の中では、今まで光に反対していたその領主の息子が従順に光に従っている光景が移されている。
「おま……!」
「あなたの息子さんは聡明ですからね。私が真摯にご説明したら。すぐに納得と賛同をしてくださいました」
この一枚で光のやり方は明らかとなっただろう。
光は無理やりでも、当主として実現しようとした親人間派としての活動を進めるつもりだ。
「もちろん、皆様の意見もしっかりと参考にさせていただきます。これまで通り、〈人〉であるあなた方が基本は領地の管理をしてもらいます。ですが私は、理不尽な人間差別を少しずつ撤廃したいだけなのです。皆さんも、ご協力をお願いしますね?」
これは要請ではなく反論を許さない当主の命令だった。生半可な方法で逆らうことができないのはこの場の全員が理解した。
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