第87話 退治屋の話⑪
勝やんが大人たちに連れていかれて三日が経過した。
将吾たちは相変わらず、暇があれば正の隔離されている部屋の前に誰が言うでもなく集合し、壁にもたれて体操座りしていた。
正が倒れてからもう六日目である。
大人たちが言うには、おそらくはもうゾンビ化の心配は無いだろうとのことであった。
その根拠は、普通はゾンビ化するとしたら、噛まれて昏睡状態になってから3日以内に目覚めるパターンが定番だからである。
ただ、それで安心はできない。それは自然放置下の話であり、正のように点滴で栄養を与え続けられた場合のサンプルが少ないからだ。
また、ゾンビ化しなければ良いというものでもない。ゾンビに噛まれたものがゾンビ化しなかった結果は、大半が衰弱死なのだ。ただ、これも自然放置下の話であり、正の様に看護されているパターンは意外と多くないので何とも言えないところがあった。噛まれた者の看護実績が少ない理由として、最近のゾンビ被害の多くは単独行動時……例えば身内ゾンビの介護中に何らかのアクシデントがあって噛まれたりとか、安全確保されているはずの地域でヒョッコリとはぐれゾンビが迷い込んでいたことに気付かなかったとかの事故が多く、他者が気付いた時には色々な意味で手遅れだったりしたからだ。
勝やんのゾンビ化の件は、当然ながら将吾たちに大きなショックをもたらした。
そして追い打ちとなったのが、勝やんのオヤジさんが決めた勝やんの処遇であった。
検体。
中二病真っ盛りの将吾たちにとって、ゾンビの検体と聞けば連想してしまうのは、「ヒヒヒ、ゾンビの目玉は貴重だぞい」とか言いながら嬉々として勝やんを解体するロシアあたりのマッドサイエンティストの存在である。……まあ、現実は当たらずも遠からずな状態なのだが。
何にせよ、そんなところに勝やんが送られたと聞いた時には、三人は気が狂いそうなほど動揺したのだった。
オレらで勝やんの面倒を見るから! と、大人たちに詰め寄ったりもしたのだが、ゾンビの処遇の決定権は親族とコミュニティの運営陣に委ねられており、第三者の意見や手出しは全く考慮されないと言われて突っぱねられていた。
その際大人たちから「あんまりナメるなよガキども」と一喝されたりしたのだが、まあ、中学生の浅知恵と思われても仕方はないと言える。大人たちは、ゾンビの介護の大変さと重大さを嫌という程理解しているのだ。何も知らない甘っちょろいガキの感情なんて心に届くことはないだろう。
だが、三人がその決定に納得したかと言えば、それはまた別の話。
三人は、固く心に決めていることがあった。
そして、正やんが倒れてから丁度1週間。
運命の時がやってきたのだった。
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