第83話 退治屋の話⑨


二時間弱後。


自衛官コンビと将吾をはじめとするキタチューバスターズの面々は、途中で数体のゾンビと遭遇はしたものの、なんとか札幌コミュニティに戻って来ていた。


道中、将吾たちは都合の良いタイミングで自衛官二人が現れた理由を聞いた。

なんと、ミニチュアダックスフンドのタロが自衛官二人の前に突然現れ、「こっち! こっち! 早く!」と言わんばかりに振り返っては吠え、振り返っては吠えとアピールしたということだ。

佐々木たちは、人に馴れていること、比較的綺麗な毛並みと首輪、そして十分に栄養が取れているであろう肉付きであることから現在でも飼い犬なのであろうと判断し、また様子から飼い主に何かあった可能性を考えて慌ててタロを追いかけたところ、その先で将吾たちと特戦ゾンビを発見したということだった。


「今回は実はタロとかいうワンコが一番のお手柄かもしれないのでアリマス!」と成瀬は言っていた。

成瀬は猫派ではあったが、やはり非常事態時に役に立つのはやはり犬でアリマスな!とタロの頭を撫でまわしていた。実際タロはゾンビの臭いだけではなく自衛官達の臭いも把握していたということであり、そして主人たちのピンチの助太刀を斯うという頭の回転の良さは、猫にはなかなか期待ができない能力であると言えよう。


中島は、タロの姿が見えないことから飼い主を置いて逃げ出したと思ってたのだが、それは飛んだ思い違いであったようだ。帰ったらとっておきのジャーキーをご馳走しなきゃな! ワン! というやり取りが微笑ましかった。


しかしながら、喜んでばかりは言えない状況であった。

ゾンビに噛まれて大怪我をしている二人だが、依然と目を覚まさないままだったからだ。

その二人であるが、体の大きな正は成瀬が背負い、勝やんは将吾が背負った。将吾も応急措置はされているとは言え結構な怪我人ではあったが、どうしてもと譲らなかったのである。彼なりに責任を感じているのだろう。


考えたくないのだが、正と勝やんはいつゾンビとなって復活するか分からない。故に猿ぐつわに腕を後ろ手にして拘束という、怪我人らしからぬ姿であったが。



現在、正と勝やんはそれぞれ別の鍵付き部屋に隔離されて輸血と点滴を受けながら寝かされている。

そして将吾、中島、美鈴と言えば、たっぷりと大人たちから説教を受けたのもあり、正と勝やんがそれぞれ隔離された部屋の前で、三人とも膝を抱えて泣いているところだった。


ただ、泣いている理由は三人三様なようだ。

将吾は責任感から。

中島は仲間を見捨てようとした罪悪感から。

美鈴は姉弟同然である正を心配して。


先ほど大人たちに叱責されているとき、意外なことに最も派手に大号泣したのは中島でも美鈴でもなく、なんと将吾であった。

普段はヤンチャで生意気で知られている将吾である。これはなかなかに強烈なインパクトがあったらしく、カンカンに怒っていた大人たちも「お、おう。二度とするなよ」とドン引きしてくれたお陰で、早々に解放されたのだが。

今は少々落ち着いてはいるのだが、それでもまだも「えぐえぐ」と言いながら涙と鼻水でぐしゃぐしゃな顔を歪ませている。


「……二人は、その、大丈夫でヤンスよね?」


「グスッ。……わかんないし」


「死んじゃったり、その、ゾ、ゾンビになったりしないでヤンスよね?」


「わかんないし!」


「……うおおぉぉぉおぉん」


中島と美鈴の会話に刺激されたのか、再び将吾の号泣が始まってしまった。


「……こんなこと言える立場でないけど、将吾君だけが責任感じることはないでヤンスよ」


「うん。みんなの責任だし」


中島と美鈴は慌てて将吾をフォローするが効果なし。

いつまでも、将吾の鳴き声は廊下に響くのであった。



そして、二日後の夕方。

寝たきりだった怪我人の二人に、変化が訪れた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る