第35話 生体兵器

……それでもって、先に述べた様に結局眠れず、深夜3時にパソコンと睨めっこしてる訳だが。


昼間に見つけた某サイト。

それを見るに、夕方から22時あたりにかけて、周囲が騒がしくなってきたこととか、ゾンビみたいなのと遭遇した的な書き込みがチラホラとあった。

山田さんからの拡散情報にもあったが、おそらくは全国的に同時に異変が起こっているらしい


貼られていた動画や写真には、不鮮明ながらも挙動のおかしい人物の望遠動画とか、縛り上げられて真っ赤な目を見開いた男の姿があった。

これは僕が遭遇したBカップ簀巻きや上階の女と同様の雰囲気を醸し出している。


ひとり、このスレに常駐してるっぽいIDがあったのだが、23時頃に「噛まれた。痛い」という書き込みと歯形と血がついた左腕の写真のUPを最後に姿を見せていない。

山田さん情報では、動く感染者と接触して怪我を負わされるとマズいかも的なものがあったな。

このIDの主は大丈夫なんだろうか。

僕は、とりあえず「大丈夫かー?」とコメントしておく。

返信が「かゆ……、うま……」でないことを祈りたい。

まあ、噂通り噛まれたら感染者の仲間入りだとすると、返信すら不可能だとは思うが。


SNSのメッセージにて、山田さんに今日の出来事の報告と、今後の対処法の相談を送っておく。

とりあえず、ひとり殺してしまったことだけは伏せておいたけど。

後ろめたいし、ドン引きされて縁切りされてもアレだと思ったからだ。

この状況で、コミュニケーション可能な情報ルートが断たれるのは避けたいところだからな。



深夜5時……と言うか、早朝5時と言うべきだろうか。

そうは行っても、12月のam5時は真っ暗である。


外は相変わらず何かの気配がするし、遠くでガラスの割れる音が聞こえたりする。

僕はベッドの中、やっとうつらうつらとしていた。


ドスンと軽い振動でビックリして意識が覚醒するが、僕の頬にピトリと冷ややかに湿ったモノが当たり、そしてフンフンという音から、茶々丸がベッドに上がってきたのだと理解する。

自分のことで必死だったから頭から抜けていたけど、そう言えばコイツの姿を見てなかったな。


「茶々丸」


「にゃ」


即答である。

気配や臭いで僕だとは思っていたのだが、声で確信したパターンかな。

そう言えば茶々丸もBカップ簀巻きの件で怖い思いしたんだったな。

今まで放置しててゴメンな。


「おいで」


僕は愛用の羽毛布団をめくりあげる。

茶々丸は僕の頬にスリッと頭を一度擦り付けたのち、今できた温かいトンネルの中に消えていった。


茶々丸の体温と、存在が心地よい。

心が落ち着いていくのが分かる。

この「生体湯たんぽ」は、体だけではなく心まで温めてくれるようだ。


僕はゴロゴロという振動を感じながら、眠りに落ちていったのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る