第21話 リストキャット

このBカップ娘が目を覚ましたら、とりあえずこの近辺の状況を確認するとして。

その後は山田さんに連絡して……と思いついたところで、連想的に猫が頭を過った。


猫と言えば、茶々丸の姿が見当たらないな。

知らない人が部屋にいるから、どこかの陰にでも隠れてるのだろうか。


茶々丸は図鑑等によるとあまり人見知りをしない特性を持つ猫種である。

そして茶々丸もその通りの性格であり、昔から来客があると逃げるどころか自ら愛想を振りまきに行くくらいフレンドリーな奴のだ。

酷いときには、来客を泊めた際には僕とではなく客と一緒に寝たくらいである。

パパは複雑な気持ちだったぞ。


そんな茶々丸も、過去にひとりだけ苦手な客がいた。

その頃組んでいたバンドのベース君である。

ベース君は誰もが認める「イイ奴」だったのだが、長年付き合ってみると結構闇深いところを根っこに持つ男だった。

茶々丸も彼のその闇に勘付いていて近寄らなかったのかもしれない。


もしかして、このBカップ娘もソレ系だったりして。

髪の先端を赤く染めてるとか、なんかメンヘラくさいしな。


僕はムムムと唸りながら、彼女の手首を観察した。

……とりあえずリスカ痕は無いな。

ひと安心である。


何にせよ、落ち着いてきたら緊張してきたぞ。

非日常の連続で忘れていたが、僕は人見知りするコミュ症タイプなのだ。

その場になれば、大人の余裕で……とか、きっと無理に違いない。

何か大失態を犯して不審者扱いされるのがオチだ。

てか、今現在のこの自分の状態が不審者丸出しに違いあるまいぞ!

ぬう、こうなれば仕方あるまい。

アレの出番だ。



……と言うことで、今僕は再びコンビニにやってきている。

緊張を和らげる魔法の物質、アルコールを手に入れる為に。

籠にはアルコール度数9%の缶チューハイを数本。

万が一に備え、Bカップ娘用に3%程の甘めのアルコールを用意するのも抜かりなし。

コミュ症だからって侮るなよ。

僕は伊達におっさんやってるワケではない。

戦歴はそれなりにあるのである(勝率とは言ってない)。


夜。

アルコール。

男と女。

……そして、吊り橋効果とくれば、行き着く先はひとつなのだ。

でゅふっ。


いやいやいやいや、待て。

そうではなく、あくまでもアルコールはお話を潤滑にする為のツールだぞ。

決してやましい気持ちがあるわけではないからな!

僕は今日何度目かの自分への言い訳を心の中でしながら、そっとコンドームを籠に入れるのであった。


そしてレジへ向かう。

当然だろうが、先程来た時に置いていったお金がまだそこにあった。

もうお金置いていかずに出てってしまってもいいんじゃないかという考えが頭を過るが、数秒間監視カメラとにらめっこした後、思い直して代金を置いていくことにした。

このお酒やつまみは万引きしてきましたとか、Bカップ娘にドン引きされたら成るものも成らないしな!

でも、このエピソードも傍から見れば、緊急時でも秩序を……って、この話はさっきもした気がするからもういいか。



さて。

Bカップ娘が目を覚ますまでに帰らないと。

目が覚めたら見知らぬ男臭い部屋でしたとか混乱するだろうし。

変な誤解を与えてしまっては面倒だからな。


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