五十九話 錬金術師の宮殿
俺は応接間らしき部屋に通されソファーに腰を下ろした。
すぐに淹れ立ての紅茶が出され気持ちが落ち着く。
「で、早速本題だがここはプラハの空飛ぶ島で間違いないのか」
『はい。正式名称は
むちゃくちゃだ。プラハってやつは天才過ぎてぶっ飛んでる。
普通、空飛ぶ要塞なんて作ろうと思わねぇから。
絶対に奇人か変人だったに違いない。直感で分かる。
「でさ、譲渡されたって言ってたけど、本当に全てを俺が貰ってもいいのか」
『すでに義彦様に全権利の九割が委譲されております』
「お、おう……」
やっぱ話は嘘じゃないのか。
じゃあ俺はここに住んでもいいってことなんだな。
空飛ぶ島を拠点にできるなんて夢のようだな。
だが、まだ解決していない疑問もいくつかある。
この際その辺りも聞いておくか。
「ここには俺以外も住んでいいのか?」
『義彦様の許可があればどなたでも。ただゲートを使用するには義彦様のお持ちになっている腕輪が必要ですのでご注意ください』
「これがないと移動できないのか……不便だな。なんとかならないのか」
『でしたら疑似リングを御用意いたします。ゲートを使用する為だけの機能しかありませんが、それがあればどなたでも出入りは自由かと』
俺はリングを三人分用意してほしいとお願いした。
すぐに別の
『三名様と一匹様の疑似リングです』
「ピーちゃんの分まで用意してくれたのか。ありがとう」
『喜んでいただけてなによりです』
これで島からの出入りは解決か。
次はさっき聞いた内容について。
「九割権利を譲渡したって言っていたが、残りの一割はなんなんだ?」
『それについては本機ではお話しすることができません。最重要秘匿情報ですので。ですが、ご主人様が権利を手にされれば問題はないかと存じます』
「どうやって手に入れるんだ」
『それも秘匿情報です。ただどこで手に入れるかはお伝えすることができます』
彼(?)は立ち上がって屋敷の中央部分へと案内した。
『ここがこの島の内部機構に入る唯一の入り口です。この奥に残りの一割の遺産が眠っているのです』
そこには一枚のドアがあった。
取っ手もなく知らない者がみれば、ただの壁にしか見えないことだろう。
だが自動ドアを知る俺には明らかにドアだった。
ドアのすぐ傍には遺跡にあった石碑のようなものがある。
だが今度は文字ではなく手の形が彫られていた。
俺は迷うことなくそこに手を置く。
『ビー、未だ資格なし。出直してください』
天井から機械音声が流れて奥に入れないことを告げる。
ふむ、よく分からんが今は資格がなくて入れないと。
ゲームなら終盤に開放されるエリアってところか。
そう考えればかなり興奮する。どうにか入れないだろうか。
『ビー、未だ資格なし。出直してください』
『ビー、未だ資格なし。出直してください』
『ビー、未だ資格なし。出直してください』
『ご主人様、今は諦めてください』
ちっ、だめか。
誤作動で開くかと思ったんだが。
「とりあえず今日のところは帰るが、明日にでもまた話をさせて貰うからな」
『了解しました』
「それとお前はなんて呼んだらいい」
『?』
「名前だよ。個体名」
『ああ、個体番号はSA-007です』
「じゃあ”ナナポン”だな。よろしく」
ぽんぽんと胸の辺りを叩いてやってから俺は仲間の元へと戻る。
◇
次の日、俺達は再び
今後はここを拠点として使用する計画だ。
なのでまずはそれぞれへの部屋割りと設備の確認である。
『これがこの屋敷の地図です』
テーブルに出された紙には屋敷の構造が記されている。
一階は台所、リビング、風呂場などが集中しており、二階には書斎、寝室、客室、空き部屋などがあった。
「この屋敷とは別にあるアスタリスクみたいな建物はなんだ?」
『それは工房です。鍛冶、薬術、魔道具などなど必要な機材が完備されております。加えて裏には畑もありますので必要であれば薬草栽培などもお申し付けください』
なるほどさすがは錬金術師の作った屋敷だ。
手近なところで全てが揃うようになってるのか。
まさに俺が欲しかった設備じゃないか。
それに……もう防音系の道具を作る必要もなくなったな。
なにせこれで仲間を気にせず好きなだけイチャイチャできるのだから。
ぐふふ。ぐふふふふふ。
「ふふっ、義彦ったら自分だけの工房が手に入って嬉しそう」
「そんな顔には見えないけどさ」
「実に邪な顔、碌な事を考えておらぬでござる」
「ミャ?」
他の二人が何か言っているが気にしない。
今の俺にはどうでもいいことだ。
『それでは本機が案内いたしますので、直接目でお確かめください』
と言うわけでナナポンの案内の元、屋敷の中を見て回ることにした。
『ここが大浴場です』
「おおおっ!」
この屋敷の自慢の一つらしく、広い脱衣所に広い浴室。そんでもって三十人は軽く入れそうなデカい浴槽があった。ライオンの口からはじゃばじゃばと豊富な湯が流れ出ており、今すぐにでも浸かれる状態ができている。
こ、ここでエレインと一緒に……ぐふ、ぐふふふ。
「あれ、もしかしてここって男女兼用ですか?」
『失礼いたしました。ここは女性専用の浴室でした。男性はこちらです』
一度廊下に出てから隣の風呂場へと入る。
俺は男湯を見て絶句した。
「な、なぁ、ずいぶんと小さくないか」
『改築をすれば大きくすることもできるのですが……なにぶんプラハ様は必要な場所以外にはお金をかけない方でしたので……』
男湯はユニットバス並の小ささだった。
というかほぼユニットバスだ。
高級感を演出した内装にしているがあの大浴場を見た後だとなぁ。
プラハってのはすげぇ女好きか、自分はどうでもいい倹約家だったのかもしれない。もしくはその両方か。女湯だけああも大きいとその線が濃厚だ。
「お? リリアはどうした?」
「お風呂に入ってくると言って走って行きました」
子供かよ。つーか俺も入りてぇ。
内心でそう思いつつ風呂場を後にする。
『次は台所です。ここは百人分の料理を作れるように、あらゆる器具と設備がそろえられております』
ホテルの調理場並のデカさだ。
しかもこの世界には流通していないコンロまであった。
プラハってもしかして地球人じゃねぇの、などと考えがよぎる。
「なぁナナポン。プラハってこういうアイデアをヒョイヒョイ出したのか?」
『世間の評価ではそうなっておりますが、プラハ様は実は大変な努力家であられました。どのような発明品だろうと、改良に改良を加え満足のできるレベルにまで昇華させました。この調理機材もその賜物なのです』
だとするとプラハはコンロを知らなかったってことか。
考えてみれば大体の物って無駄を省きながら機能性を上げていくと、同じような形になるものだよな。
むしろたった一人で現代レベルの物を作ったことの方が驚きか。
コンロ一つにとっても多くの人の試行錯誤と長い時間がかかっているわけだし。
台所から移動すると今度は天井の高い広い部屋に出る。
壁際にはバーカウンターのような物もあり、いくつものテーブルとソファーが置いてあった。
どことなく雰囲気のある待合室的な感じだ。
『ここはリビングです。皆様の憩いの場としてお使いください』
「ほう、台所とも近いとなるとダイニングとして使用できそうでござるな」
『そうですね。プラハ様もここでは親しい友人と軽食を楽しまれておりました』
「ではきちんとした食事場所はあると言うことでござるな」
次に向かったのはこれまた広い部屋だ。
白いクロスが掛けられた長机が三つ並んでいる。
中央の机は主人が座る場所らしく、より奥にずらしておかれていた。
さらに奥の壁には大きな絵が掛けられている。
それは黒い人型と戦う五人の人が描かれていた。
空にはドラゴンらしき生き物も飛んでおり、妙に視線が引き寄せられる。
あの黒い奴……もしかして。
「あの絵について聞いてもいいか?」
『秘匿情報の為お話できません』
「あの黒いのはなんなんだ」
『秘匿情報です』
ぐぬぬぬ。このかゆいところに手が届かない感覚がなんとも歯がゆい。
しかし、プラハがあの黒い靄について、なにか知っていることを知れたのは大収穫だな。
いずれどこかでまた会いそうは気はしているのだ。
それに俺が焦らずともリリアの父親がすでに調べに動いている。
俺達はダイニングを出て二階へと上がる。
『ここは書斎です。応接間として使用できますので、私的な話は是非ここで』
立派なデスクと椅子。それにソファーとテーブル。
壁には大きな本棚があってずらりと本が並んでいる。
エレインが一冊の本を抜き取った。
「こ、これはもしかして幻のプラハ図鑑!?」
「なんだそのプラハ図鑑って」
「プラハ様が創ったとされる数々の薬や道具を記した物です! 発行された数があまりにも少なく、所有している方は世界で十人もいない超激レア書籍! まさかそんなものがここにあるなんて! はぁぁぁ!」
そりゃあまぁプラハの屋敷だからな。
あって当たり前というかなんというか。
でも俺も気になるから後で読んでみるか。
ふと、天井に目をやると見覚えのある物がそこにはあった。
それはまさに住宅用火災報知器のような物体。
俺はそれがなんなのか察して極度の興奮を覚える。
「あれはもしかして防音装置なんじゃないのか」
『さすがはご主人様、すぐに気が付かれるとは。あれのおかげでこの部屋の音は外に漏れないようになっております。ですので外部に漏らしたくない会話はぜひここで』
「あれが付いている、寝室はあるか!?」
『プラハ様が使っておられた寝室がそうですね』
きたぁぁぁぁぁぁっ! 俺は勝利した!
運命は俺を見放さなかった! ありがとうプラハ! ありがとう防音設備!
心の中で絶叫した。
最高だ。絶対誰にも譲らん。
ここは俺の俺だけの城なのだ。
でゅふふふ、存分にエレインとイチャラブするぞぉ。
その後、俺達は各部屋を自室として割り振り屋敷巡りを終えた。
◇
一週間が経過。
俺は寝室からすっきりした顔で出た。
心身共にリフレッシュ。
幸福感は満ち満ちていた。
俺とエレインは風呂の時以外はずっと寝室に籠もっていた。
これまでの鬱憤を晴らすかのようにお互いをむさぼったのだ。
今でもエレインは寝室にいるが、まだしばらく動ける状態ではないだろう。
「彼女が起きたら風呂に連れて行ってあげてくれ。俺は一足先に身体を流してくる」
『かしこまりました』
鼻歌交じりで風呂場へと行く。
ほんと異世界って最高に幸せな場所だな。
転生させてくれた幼女神には感謝しないと。
「お、リリア」
「義彦!?」
廊下で顔を合わせたリリアはなぜか真っ赤になっていた。
もしかして説明した男女の営みを思い出したのだろうか。
あまりにも教えろと五月蠅いから一週間前に渋々教えてやったのだ。
「い、一週間ぶりだな」
「そういえばそうだったな」
「男女の……営みというのは、い、一週間もするものなのか?」
「する」
かぁぁぁぁ、と彼女の顔がさらに真っ赤になった。
普通はしないけど俺はする。
たぶん一ヶ月でもいける。しないけど。
「昼頃には出発するから準備しておけよ」
「わ、わかった」
ひらひらと手を振って俺は風呂場へと向かった。
「――というわけで旅を再開する」
トットン村まで戻った俺は三人に再出発を伝える。
エレインが腰を押さえて少し辛そうだが、ただの筋肉痛なので問題ない。
それに移動はバスなので中で休めば良いだけだ。
え? 俺の腰が大丈夫なのかって?
心配ご無用。今まで一人で備えてきたので腰は強い。
「そろそろ王国からの追っ手が追いついてくる頃でござるな」
「それもあるしゲートから最も近い村が、十キロも離れたトットンだけってのも好ましくない。てことで次の町を目指しながらゲートを探すつもりだ」
一度でも使用すればゲートからゲートに飛ぶことも可能なのだが、なんせ俺達は一つ目の遺跡を見つけたばかりだ。地道に旅をしながら探さないといけない。
せめて王国の手が伸びない場所までは逃げないといけないだろうな。
ここのゲートは王国に近すぎて使用し続けることは難しい。
村の外で都営バスを出すと全員が乗り込む。
「行くぞ!」
アクセルを踏んでバスは走り出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます