二十三話 昇格!

 宿を押さえた俺達は、次にギルドへと行くことにした。


「――って何してんだよ」


 ギルドを目前としたところで、なぜかエレインがほっかむりをしていた。

 その目はしきりに何かを警戒しているようで落ち着きがない。


「えっとその、これは……レイクミラーで流行っているファッションらしいので、思い切って私もしてみることにしました」

「嘘が下手すぎんだろ!?」


 どこをみてもこんな格好してる奴いねぇだろ!

 逆にそれで通せると思ったことに驚くぞ!?


 エレインの挙動不審な態度に若干の疑問を感じつつ、これ以上指摘するのは止めることにした。

 顔を隠すってことは、ようは誰かに見つかりたくないってことだろ? 俺だって前世で会いたくない人間は山のようにいた。彼女の気持ちは充分に理解できるつもりだ。

 ただまぁ、それでもほっかむりをしようって発想は出てこないがな。


 ギルドに入るとクラッセルとは違う雰囲気に少し驚く。


 ちらほらと飾り立てられた鎧を身につけている冒険者がいるのだ。

 どいつも装備は新品同然でピカピカ輝いている。

 おまけにそいつらの年齢は若く15~20歳辺りが多く見られた。


「なんだあいつら?」

「貴族の子息達です」

「貴族?」

「このレイクミラーは観光地や避暑地としてではなく、貴族の子息を育てる場所でもあります」

「だったらクラッセルに行った方が良くないか?」


 クラッセルと比べるとレイクミラーは数段危険だ。

 命を落とす確率が飛躍的に上がる。


「強力な護衛を付けてトドメだけを彼らが刺すんです」

「あ~、そういうことか」


 貴族の奴ら寄生プレイをやってステータスを上げてるのか。

 そっちの方が効率的だし危険も少ない。

 特にリセットなんてない現実じゃ余計にそう言った手段が重宝されるだろうな。


「アタシはそんなやり方嫌いだ。戦いってのは最初から最後まで自分でやり遂げるから面白いんじゃないか。誰かにお膳立てされるなんてつまらない」

「そりゃあお前はそうだろうよ」

「それにギリギリのところでもらう痛みは気持ちいいし」


 こいつポロリと本音を漏らしやがった。

 ほんとどこまでも戦闘狂だな。俺はお前が怖いよ。


 ひとまず受付カウンターへ声をかける。

 冒険者には町に来たことをギルドに報告しなければならない決まりがある。

 いざって時にそいつを呼び出せないと困るって理由らしい。

 あくまでも任意だが、逐一報告しておくとギルドからの評価は上がりやすいらしい。


「西村義彦とその仲間だ」

「はい。クラッセルよりこちらへ来られることはすでに窺っております。あ、義彦様に昇格のお知らせが届いていますね」


 おおおおっ! やっとランクアップか!

 ゴブリンキングを倒してからいつするのかとそわそわしてたんだよ!

 クラッセルのギルド職員からも上がるだろうって言われてたしな!


 職員に冒険者カードを渡すと数分で返される。


 カードのランクが【J】から【I】へと変わっていた。


 これだよ、これこれ。

 この階段を一つ上った感覚が快感なんだ。

 何かを達成したって喜びって大事じゃないか。

 だからこそ辛いことも乗り越えられる。


「エヘへ、ウへヘヘへ」

「むふふ、私がIランクなんて……むふふ」

「義彦もエレインも顔が気持ち悪い!」


 エレインも同じく上がったようでニマニマしている。

 分かるぞ、その気持ちすごく分かる。

 このランクアップは色々な思いをしながら手に入れた物なんだからな。


「リリアも上がったんだろ」

「アタシは今回でHランクに昇格だ。元々ランクには興味がなかったから、義彦みたいには喜べないかな」


 Hランクか。羨ましい。

 考えてみればリリアは元々冒険者をしてたから、俺達よりランクが上なのは当たり前か。だが、あえて思う。羨ましい。妬ましい。俺も早くHになりたい。Hしたい。


「クラッセルで魔獣嵐スタンピードが起きたのですって」

「まぁ~、なんて怖い話。私達も気をつけないと」

「心配いらないさ。君達はこの僕が守るからね」

「「スターク様素敵!」」


 窓際で会話をする三人の若い男女。

 二人の女性はローブ姿で一目で魔法使いだと分かる。

 二人に挟まれるようにして微笑みを浮かべている男は、傷一つない美しい鎧を身につけ飾り立てられた剣を帯びていた。

 貴族の子息って奴か。見てるとムカムカしてくる。


「あれはフェスタニア公爵の長男スターク・フェスタニアです」

「てことはこの国の王子?」

「ええ、性格は自由奔放で冷酷。関わらない方がいいです」


 俺はもう一度スタークを確認する。

 金のおかっぱ頭に比較的整った容姿。

 だが、その目は笑っていても冷めている。



 【ステータス】

 名前:スターク・フェスタニア

 年齢:18

 性別:男

 種族:ヒューマン

 力:55806

 防:30603

 速:53777

 魔:999

 耐性:18761

 ジョブ:狂戦士

 スキル:剣術Lv20・槍術Lv7・弓術Lv15・馬術Lv10・カリスマ・Lv4・閃風斬Lv6

 称号:―



 想像以上に強いな……50000クラスなんて初めて見た。

 貴族でイケメンで強いなんてモテるに決まってる。完全に勝ち組じゃないか。

 ただ、ジョブが少し気になるな。狂戦士ってなんだろう。

 それとなくエレインに質問する。


「狂戦士ってなんだ?」

「レアジョブの一つですね。力と速さに秀でていて、並外れた戦闘力を発揮します。その反面一つ大きな欠点があって、興奮しすぎると我を忘れて味方も攻撃してしまうんです」

「ふーん、結構危険なジョブなんだな」


 そんなジョブを持ってる奴とは絶対に仲間になりたくないな。

 正直、怖すぎて安心して背中を任せられない。


「そう言えばスターク様のジョブって聖騎士なんですってね!」

「すごいですわよね! 傍にいるだけでドキドキしてしまいますわ!」

「あんまり調子に乗らせないでくれよ。聖騎士とは言ってもまだまだ端くれな――」


 スタークはそこでようやく俺達に気が付き視線を向ける。

 彼は目を細めてエレインを見ていた。


「そ、そろそろ行きましょうか!」

「ああ……」


 エレインは俺の手を掴んでそそくさとギルドを出る。

 遅れてリリアも出てきた。


 ギルドから離れた場所で足を止めたエレインは振り返る。


「念を押して言っておきます。あのスタークとは絶対に関わってはいけません」

「そんなにヤバい奴なのか?」

「……いずれちゃんと話します。ごめんなさい」


 目を伏せる彼女に俺はそれ以上聞くことはできなかった。

 なんだかモヤモヤするが、俺と彼女の関係は単なる冒険者仲間だ。

 強引に聞く権利なんてないし、事情に踏み込む権利もない。

 彼女から話してくれるのを待つしかできないんだ。


「思うんだけどさ、ここが嫌なら別の町に移れば良くないか?」


 リリアが珍しくまともなことを言っている。

 そうだよ、嫌なら次の町に行けばいい。

 だが、エレインは首を横に振る。


「次の町では格段に敵の強さが上がります。ここできちんとステータスを上げておかないと、恐らく簡単に全滅させられるでしょう」

「そんなに強いのか?」

「最低でもステータスが20000はないと厳しいと聞いています」


 マジかよ。どうなってんだこの世界。

 化け物だらけじゃねぇか。

 イージーモードだと思ってた人生が急に、ハードを超えてヘルモードに感じてきたよ。

 とにかくここをスルーしてはいけないってことか。


「夕食まで時間があるし、新しいフィールドの下見にでも行くか」

「はい」「へ~い」


 なぜかリリアの反応が薄い。

 もっと喜ぶと思ったんだがな。


 俺達は町の北へと足を運ぶことにした。



 ◇



 町の北にある森は『クルグスの森』と呼ばれている。

 レイクミラーの冒険者達はもっぱら、このフィールドを利用してステータスUPを行うそうだ。


「お、知らない薬草があるじゃん」


 俺は少し歩く度にしゃがみ込んで草花を採取する。

 すれ違う冒険者達は俺を奇異な目で見ていた。


「やっぱり浅い場所では魔獣を見かけませんね」

「そりゃあそうだろ。向こうも好きで狩られてるわけじゃないからな」


 おおおっ! プロン草とレム草があるじゃないか!

 これで新たにステータスUPの薬が量産できそうだ。

 もうこの薬がないとダメなんだよ俺。へへ。


 不意に良い香りが鼻腔をくすぐる。

 振り返るとエレインの髪が木漏れ日を反射して幻想的に見せていた。

 そう言えばなんだか出会った頃より綺麗に見えるな。


「なんですか、じっと見て」

「髪がやけにサラサラしてる気がしてさ」

「分かりますか!? そうなんですよ!」


 ずいっと顔を寄せるエレインは満面の笑みだ。


「ほら、義彦にいただいた石鹸があるじゃないですか! あれってすごいんです! 肌はつるつるになるし、髪の毛も見てください! こんなに美しくさらさらになるんです!」

「へぇ、あの石鹸ってそんなにすごかったんだな」

「や、やっぱり変わって見えますか?」


 エレインは顔を赤く染めてモジモジしている。


「出会った時よりも綺麗になったって言うか可愛くなったよな」

「ふぇ!? か、かわいく!?」


 彼女は顔を押さえてしゃがみ込んだ。

 その耳は赤く染まっていて、身体はなぜかぷるぷるしている。

 褒められて嫌ってことはないだろうけど、ちょっと変わったリアクションだな。

 女の子とまともに付き合ったことがないから、良いのか悪いのか判断できない。


「なぁ義彦、そろそろ宿に帰ろうぜ。下見は充分だろ」


 リリアがつまらなそうな表情でそう言う。

 なんか引っかかるな。戦闘狂のこいつにやる気がないなんて。


 ふと、リリアがなにかを見ていることに気が付いた。


 それは山だ。

 この辺りは平地で唯一の山はここから見えているあれだけ。

 標高はそれほど高くはないようだが、妙に存在感があって目をひく。


「そうだ、今日のアレまだもらってなかったよな」

「あ、ああ……」


 リュックから革袋を取り出して、その中から草団子を取り出す。

 エレインは「ひぃ!?」と怯えた表情を浮かべ後ずさりした。


 俺とリリアは素早く団子を口に入れ飲み込む。

 エレインは数分ほど団子と格闘してようやく意を決して飲み込んだ。

 すぐにステータスを確認する。


 ちなみに昨日も飲んでいるので二日分の上昇を含む。



 【ステータス】

 名前:西村義彦

 年齢:18

 性別:男

 種族:ヒューマン

 力:14180→16180

 防:14022→16022

 速:13866→15866

 魔:15593→17593

 耐性:15041→17041

 ジョブ:錬金術師

 スキル:異世界言語LvMAX・鑑定Lv63・薬術Lv65・付与術Lv62・鍛冶術Lv63・魔道具作成Lv64・ホムンクルスLv60・????・無拍子Lv1

 称号:センスゼロ



 【ステータス】

 名前:エレイン(クリスティーナ・フィ・ベルナート)

 年齢:18

 性別:女

 種族:ヒューマン

 力:13407→15407

 防:13798→15798

 速:14632→16632

 魔:8866→10866

 耐性:8862→10862

 ジョブ:姫騎士

 スキル:細剣術Lv15・鞭術Lv2・弓術Lv9・調理術Lv11・裁縫Lv20・栽培Lv18・カリスマLv15

 称号:―



 【ステータス】

 名前:リリア・ソルティーク

 年齢:18

 性別:女

 種族:ヒューマン

 力:11040→13040

 防:9954→11954

 速:9432→11432

 魔:25666→27666

 耐性:24895→26895

 ジョブ:賢者

 スキル:炎魔法Lv24・水魔法Lv20・風魔法Lv24・土魔法Lv23・補助魔法Lv20・格闘術Lv16・大正拳Lv11・分身撃Lv1

 称号:賢者の証



 こうして下見を終えた俺達は宿に戻った。


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