第59話 三人でお出かけ

 今日の待ち合わせは十時だった。なので、天はまた三十分早めを心がけて家を出た。

 おそらく、というか、確実に、


「おはよう、海智留みちるさん」

「おはようございます、天さん」


 海智留みちるは、待ち合わせ場所、駅にいた。


「今日も早いね」

「天さんをお待たせするわけにはいきませんから」

「別に俺は気にしないのに」

「私が気にします」


 海智留みちるなりのこだわりがあるらしい。

 後は真波だ。こちらは時間通りに来ると思っていたのだが、


「あれっ、天センパイに……陸野もか」

「おはよう、真波ちゃん」

「おはようございます、浜田さん」


 真波も真波で、約束の時間十五分前にやってきた。


「二人共早くないっすか?」

「俺はいつもこれくらいだよ」

「別に、待たされるくらいいいっすよ。天センパイになら」


 ついさっき、天が海智留みちるにそう言ったばかりである。

 みんなそれぞれに、時間にこだわりがあるようだ。早く集まれたので、三人ですぐに出発した。


「今日はのんびりブラつくってことで。天センパイ、体、無理しないでくださいね」

「そうですね。天さんのことを考えたら、休み休み行くのかいいでしょう」

「二人共、心配しす……」


 しすぎ、と言おうとしたら、にらまれた。


「そりゃ心配しますよ。一週間寝たきりだったんですから。天センパイは危機感なさすぎです」

「そうですね。浜田さんの言う通りです。二日間も意識を失っていた方が言うセリフじゃありません」

「……ごめんなさい」


 ヤブヘビだったらしい。確かに、まだ医者からは完治したとは言われていない。その間中は、きっと二人に心配されっぱなしだろう。

 ここは素直に謝り、二人の言うことを聞く。今日は、ゆっくりとさせてもらおう。


「真波ちゃんが行きたいお店ってどこかの?」

「スポーツ用品店ってやつですよ。靴とか見たくて」

「あ、なるほど」


 陸上部である真波らしい。


海智留みちるさんは?」

「服などを見たいと思っています。もしよろしければ、天さんのも」

「俺のも?」

「はい。今後の参考にしようかと思っています」


 どう参考になるかは分からないが、女性目線で選んでもらうのもいいかもしれない。海智留みちると真波ならば、信頼できる。

 まずは、真波の買い物から見に行こうか。天たちは駅に着くと早速 店に向かった。

 が、


「では、天さん」

「し、失礼します」


 降りた途端、二人に手を繋がれた。左右の手がどちらもふさがる。


「はぐれると大変ですので」

「天センパイが、その、転んだりすると大変ですからね!」

「……あー」


 予想外に困る事態になり、天は顔を赤くするしかなかった。

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