第51話 再三の副会長
「こんにちは、会長。体の具合はどうだい?」
いきなりやってきた声の主は、斉藤だった。
斉藤は、いつもの鉄仮面、冷たい声で話しかけてきた。
「災難だった、と言うのは失礼か。命に別状はないと聞いている。それを聞いて、僕も安心した」
天はいきなりのことに驚かされたが、話しかけられたのならば答えなければならない。
先ほどまでの明るい空気が一変した中で、斉藤に言葉を返す。
「こん、にちは、斉藤君」
緊張のあまり、言葉が歪になった。それを聞いた斉藤は、やはり表情を変えず、
「あまり歓迎されていないことは分かっている。ただ、今日は会長に報告しなければならないことがあってね」
「報告?」
ああ、と斉藤はうなずく。
「今回の件だが、君に怪我を負わせた、正しくは、陸野君を突き飛ばした犯人が分かったので、伝えに来た」
「突き飛ばした……?」
「そうだ」
天は、険しい表情をした
階段で体勢を崩したのは、偶然ではなかったのか。
「確かに、私はあの時背中を押されました。あれは事故ではなかったと?」
「そうだ」
斉藤の返事は短い。
「これだけの事件だ。先生方だけに任せるのは気分が悪かった。なので、生徒会も色々と調べて回ったよ」
「生徒会が?」
「ああ。下手をすれば、うやむやにされそうだったからね」
それで、と斉藤は一呼吸置き、
「犯人は、
「え……?」
「あの時、複数の生徒が、三橋の姿を見ている。君たちの後ろから近づき、陸野君を転ばせようとしたと。証拠写真こそ無いが、事件を見た生徒は口をそろえて三橋だと答えた」
天は、当日の朝を思いだした。天の席で、三橋は
あの時、どのような話になっていたのかは、まだ
三橋と聞いて、天は胸の中が重くなった気がした。
「先日、暴行の件について、嘘がばれた。それを逆恨みしたらしい。本人に問い詰め、確認した」
やはり。天は、さらに重くなった気持ちを抱え、斉藤の報告を待つ。
「先生方と生徒会、両方立ち合いのもとで白状した。今、三橋は停学中だ。君の容体次第では、退学だろう」
「そう、なんだ」
三橋の処遇はどうでもいい。それよりも、天は
自分のせいで、と思う。やはり自分は迷惑をかけてしまうのだ、と。
結果論だが、怪我をしたのが自分で良かった。万が一、
いつの間にか、うつむいていた。情けない顔を上げたくない。
そんな天に顔を上げさせたのは、
「退学でも生ぬるいですね……。警察を呼びましょう。自白もあることですし、傷害事件ということで本格的に」
「あんにゃろう、マジで蹴っ飛ばすしかねえな。骨の百本でも折ってやらねえと、気がすまねえ!」
「待って待って待って待って」
過激な発言をする、
「止めないでください、天さん。今回は本当に命の危険があったのですから」
「大丈夫っすよ、天センパイ。死なない程度に手加減はしますから」
「だから、待って!」
二人の目は本気だった。
「……私刑はさすがに見逃せない。生徒会副会長としては、君たちを止めたいのだが」
「止める。止めるから斉藤君引かないで」
あまりの迫力に、さすがの斉藤も一歩引いている。女性を怒らせると、こうも怖いものかと天は冷や汗を流す。
必死に二人を説得し、思いとどまらせるには、またまた時間がかかった。
「ゴホン。ともかく、だ。報告は以上になる。会長は回復に努めてくれ」
「う、うん、分かった。……あ、でもテストとかはどうしよう?」
「それは安心していい。別の日に、テスト日を設けるそうだ」
「そうか……。じゃあ、勉強する期間が長くなったってことかな」
強がってみせると、斉藤は冷たかった表情に影を落とした。
「今回の件は、僕にも責任がある。申し訳なかった」
「えっ?」
意外な言葉だった。
「僕が軽率に三橋を生徒会から追い出したせいだ。これも、三橋の暴挙を招いた原因だろう」
「別にそれは……」
天としては、斉藤の判断を責める気はない。むしろ、今回の件をはっきり片付けてくれたことに礼を言うべきなのだが。
「僕はそろそろ失礼する。面会時間も間もなく終わりだろう。そこの二人も、なるべく早く帰るように」
では、と斉藤は病室を出て行った。
「……なんか、意外っすね」
天の気持ちを代弁したのは真波だった。
「副会長が、あんなに責任感じてるなんて」
「そう、だね。心配もしてくれてたし」
「副会長なりに、ケジメ付けたいことがあったんすかね」
斉藤に謝られるとは考えていなかった。そもそも、見舞いや報告に来てくれるとも思っていなかった。
今まで知らなかった一面だ。
「まあ、いいや。天センパイ、アタシとこいつもそろそろ」
「浜田さん、こいつというのはやめてください。私は陸野です」
「はいはい。それじゃ、帰んぞ」
「天さん、また明日も来ます。お体、無理はしないでくださいね」
ありがとう、と礼を言うと、
二人も帰り、天は病室で一人、息を吐く。明るい、ため息を。
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