第35話 副会長、再び

 昼食も終わり、教室に戻ると真波の言葉が思い出された。


 慣れるしかない。


 奇妙な雰囲気にも、慣れていかねばならないのだろう。

 それは、明日か、卒業後か。どちらにしても、今の天は、背筋にむずがゆさを感じる。

 何もないことに落ち着かない、というのもおかしいが、それだけ自分が消極的になっていたということなのだろう。

 しばらく、この空気は続きそうだ。落ち着くように、と自分に言い聞かせる。

 

 授業が始まるまで、あと五分。そんなタイミングで、教室がざわめいた。


「会長、少しいいかな?」


 生徒会副会長、斉藤さいとう幹也みきやだった。

 突然のことに、天は反応が遅れた。

 うん、と言葉を絞り出すのにも苦労し、


「今日の放課後だが、生徒会室に来てくれないか。会議がある」


 用件を短く伝えてくる斉藤に、うなずくのが精いっぱいだった。


「今日は、何があろうと会長にも来てもらわないといけない会議だ。よろしく頼む」

「わ、分かった……」


 斉藤は、天の返事を聞くと、すぐに教室を出て行った。教室が、一気にどよめく。


「会長にわざわざ?」

「斉藤君が来るなんて……」

「そういや、あの後どうなったんだっけ? ほら、この前の……」


 クラスの皆が、天のように驚いていた。

 今まで、副会長が言伝に来ることはなかった。さらには、会議。最後に出たのは、いつの話だったか。

 何があろうと、とまで言われてしまった。


「天センパイ!」

「あ、真波ちゃん……」


 廊下を、よほど急いだのか、息を切らせながら真波が教室に入って来た。


「だ、大丈夫っすか?」

「あ、ああ、うん」

「なんかさっき、アタシんとこに副会長が来たらしくて、次は天センパイの所だとか言ってたらしくて……。来ました?」

「ついさっき……。会議に出ろって」

「他には!?」

「いや、何もなかったよ……」


 よかったー、と真波が肩から力を抜いた。


「この間のことで、またなんかあんのかと思いましたよ」

「真波ちゃんのところには、何て?」

「アタシんとこも、会議に出ろって、それだけでした。っつっても、会議かあ。いきなり呼び出すとか、何なんでしょうね?」

「真波ちゃんも知らないの?」

「いやー、ほら、この前の時、アタシも会議に出なかったもんで……」


 手紙を送られた時のことか。確かにあの時、三橋が真波を探していた。


「何かあっても、アタシが天センパイのこと守りますんで。心配しないでくださいね」

「あ、ありがとう」

「それじゃ! ってヤバい! 授業授業!」


 来た時と同じように、真波が走り去っていく。陸上部で鍛えた健脚は、すぐに遠ざかっていった。

 天に、生徒会長に出席を求める会議とはなんだろうか。天は、午後の授業中、ずっと上の空だった。

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