第12話 邪魔者はどこにでも

 天には、状況がまるっきり分からなかった。なんで、二人の女性が自分に手紙を出したのか。

 そして、殺伐とした空気の中、二人で待ち続けてくれたのか。

 海智留みちるはわからないでもない。昨日、事件があった。ただ、真波まなみには心当たりがまるっきりない。


「あの星野さん、お話があるのでこちらの先輩をどこかに追い払ってはもらえないでしょうか?」

「あ? なに言ってんだ下級生。まずはこっちが先だろうが!」


 なぜか二人が狂犬に見えて仕方がない。抑え込む方法が思いつかない。

 なので、とりあえず話を聞くことにした。


「えっと、まずは浜田さんから……」

「えっ? えーっと……。センパイと話がしたかった、っていうか」

「あ、は、はい。それで、陸野さんは……?」

「昨日の汚名を返上しようと思った次第です」

「そ、そう」


 どちらも答えは曖昧だ。具体性に欠ける。


「で、なんで手紙なの?」

「アタシ、センパイのLineとか知らないし……」

「私は、そちらの方が心がこもると思って」


 こちらはそれぞれ意見があるらしい。


 この様子だと、どちらを先に選んでも角が立ちそうだ。

 天の、落ち込んだコミュニケーション能力では、上手く話をまとめられそうにない。

 どうしたものか考えあぐねていると、そこに新たな人間が来た。


「あ、浜田! なんでこんなとこにいんだよ!」


 生徒会書記のもう片方、三橋みつはし裕太ゆうた。副会長を崇める信徒の一人である。


「書記が俺しかいないじゃねーか! まとめんの大変なんだぞ!」


 真波は心底嫌そうに、


「あーもー、うっさいなあ。今はそれどころじゃないっての」

「あん? つか、なんでこんなとこに……。って」


 三橋が、天を見た。


「ああ、生徒会長もいたんすか」


 あからさまな侮蔑の視線から、天は顔をそむけた。


「おい、浜田! ここにいる誰かさんと違って、書記にはきちんと仕事があんだよ! とっととこい!」


 そうだろうな、と天は思う。真波は三橋についていくものと思い、


「んだぁ、テメェ……!」


 何故か怒りをあらわにしたことに、驚いた。


「な、なんだよ、何怒ってんだよ!?」

「空気読めよ、チビ助。こっちは今、立て込んでんだっての……」

「ちっ、チビってなんだよ! ふざけんな、デカいからってよお!」


 この中での背の高さは、天、真波、三橋、海智留みちるの順番になる。


「チッ! いいよデカ女! そこでウドの大木とくっちゃべってろよ!」

「んだとコラァ!」


 三橋の一言がマズかった。真波が、脚力に物を言わせて走り込んできた。

 そのまま右足で三橋の顔面を蹴ろうとしたので、天はすぐに間に割り込んだ。


「ぐあっ」

「ちょっ、センパイ!?」


 さすが陸上部のエース。芯まで響く、良い蹴りだ。


「ひ、ひいっ」


 背後で、三橋が悲鳴を上げていた。土をかむような音からして、走り去っていったのだろう。


「ダメだって、浜田さん優等生がこんなことしちゃ」

「だ、だってアイツ、センパイのことをバカにしたんすよ!?」

「いいよ、俺のことなんかどうだって。今さらだし」

「でも……」


 納得しかねる顔をしつつ、真波が足を下ろす。助かった。真波はスカートを短くしているので、中が見えて大変だった。

 コホンと、咳払いが聞こえる。海智留みちるだ。


「とりあえず、このままだと話が進みません。場所を変えて話し合いましょう」

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