第79話 明かされた名
健康診断のため、ビスケット病院に訪れた夜光達。
病院に勤務する美人ナース達を狙う夜光・笑騎・キルカの3人に、マナとマイコミメンバー達は目を光らせるのであった。
夜光とマイコミメンバー(キルカを除く)がいつものおいかけっこをしている間、笑騎はせっせと受付を済ませた。
受付が済むと同時に、おしおきが完了したマイコミメンバーとボロボロの夜光が戻ってきた。
「「・・・」」
笑騎とマナは何も言わず、案内役として現れたナースに先導され、健康診断用の部屋へ案内されるのであった。
ナースに連れてこられたのは、男女に分かれた更衣室であった。
「ではみなさん。 それぞれの更衣室で健康診断用の服に着替えてください。
着替え終わったら、部屋の奥の扉から受付に入り、指示を受けてください」
ナースに言われるがまま、更衣室に入る夜光達。
「(へへへ・・・おじゃましま~す)」
みんなの目を盗んでこっそりと女子更衣室に入ろうとする笑騎であったが・・・
「ぎゃぁぁぁ!!」
虫の居所が悪いマイコミメンバーによって、いつも以上の制裁を受け、更衣室の外に放り出された。
「男性の更衣室はこちらですよ?」
案内役のナースは、優しい言葉を投げかけながら、笑騎を男子更衣室の中に無造作に放り込んだ。
その後、白いパジャマのような服に着替えた夜光達。
奥の扉を開けると、そこはとても広い待合室になっていた。
部屋には、健康診断を受けている人や呼ばれるのを待っている人などがあちこちにいた。
その上退屈しないように、新聞や雑誌、ラジオが設置されており、床や壁には埃や汚れなどが一切なく、清潔感にあふれていた。
「健康診断の方は、椅子に掛けてお待ちください。 後ほど順番にお呼びします」
受付のナースに呼び出しがあるまで、待つように言われ、夜光達は適当な椅子に座ろうと辺りを見渡していた時、見知った顔が視界に入った。
「あっ! みなさん!」
そこにいたのは、雑誌を読んでいた女神であった。
夜光達と同じ服を着ているので、健康診断に来ていることはすぐにわかったが・・・
「めっ女神様!? なぜこのようなところに!?」
みんなが思ったことを一足先に口に出したスノーラ。
「なぜって健康診断を受けに来たんですよ。 ここ最近、体調を崩す方をよく見かけるので」
人間ならば、特になんの違和感もない返答だが、これが女神の言葉であるためか、全員しっくりこない。
「ほう・・・女神も医療に頼るものなのか? 我はてっきり、魔法のような力で病気やケガを治すものだと思ったのだが・・・」
キルカのこの言葉に、全員が力強く頷く。
「あははは! キルカさん。 ”魔法なんて非現実的な力がある訳ないじゃないですか”。
そんな力があったら、私が影のみなさんと戦いますよ!」
何を言っているんですか?と言わんばかりに笑い飛ばす女神。
「(異世界の女神様から一番聞きたくないセリフを聞いてもうた・・・)」
異世界小説では、王道要素でもある魔法の存在を、あろうことか異世界の女神が笑いながら否定した現実を、笑騎は素直に受け入れることができなかったのであった。
「・・・まあ、お前が健康診断を受けるのは、百歩譲って良いとして・・・」
夜光はそう言いながら、ゆっくりと女神の隣に視線を向ける。
「なんでお前がここにいる?」
夜光がそう尋ねたのは、椅子に上でゴロンと横になっているきな子であった。
「なんや? ウサギが健康を気にしたらあかんのかいな」
椅子の上でゴロゴロしながらそう聞き返すきな子。
「ウサギなら医者じゃなくて、獣医だろうが!!」
ビスケット病院はもちろん人間用の病院であるので、もちろん健康診断を受けているのも全員人間である。
動物や異種族用に病院もあるが、ビスケット病院では扱っていない。
ちなみに、スノーラ達のようにパスリングで人間となっている異種族は人間として扱っている。
「獣医の診察より、人間の診察の方が代金が安いから受けたまでや!」
「そもそも人間の病院がウサギの健康診断なんかやる訳が・・・」
その次の瞬間であった。
『きな子様。 第一診察室へお入りください』
夜光の疑惑を打ち砕くアナウンスが流れた。
「・・・」
「呼ばれたから行くわ」
きな子は椅子から飛び降りると、第一診察室へ向かって、ぴょこぴょこと歩き出した。
「あいつ・・・どんな手を使ったんだ?」
きな子の持つ権力が強いのか、病院がおかしいだけなのか、夜光は考える事自体がアホらしくなり、それ以上、深追いすることをやめた。
『”ハナナ”さん。 第二診察室へお入りください』
きな子が呼ばれてからすぐに、アナウンスが別の者を呼んだ。
「あっ! は~い」
そのアナウンスに反応したのは、なんと女神であった。
「おっおい待て!」
夜光が慌てて第二診察室へ向かおうとする女神を引き止めた。
「なっなんですか? 急に」
「さっきのアナウンス。 ”バナナ”とか言ってたけど・・・」
「”バナナ”じゃなくて、”ハナナ”です!」
ぷんすかと怒りながら、夜光の間違いを指摘する女神。
「そんなことはどっちでもいい!! なんなんだよそれは!?」
「何って、”私の名前”に決まっているじゃないですか!!」
『えぇぇぇ!!』
女神のカミングアウトにその場にいた全員が驚いた。
「おっお前、名前あったのか?」
「当たり前じゃないですか!・・・ってあれ? 私、名乗っていませんでしたっけ?」
「名乗ってねぇよ!!」
病院内であることを忘れ、思わず叫ぶ夜光。
女神の名前を聞いて、驚きながらも笑騎はマイコミメンバー達に尋ねた。
「俺、女神様の名前なんて、初めて聞いた。 みんなは知っとったか?」
その質問に、全員が首を横に振る。
「・・・私も初めて聞いた」
「あたしも・・・」
「オレも・・・」
「私も・・・」
「わわ私もです・・・」
「我も同じく」
笑騎を含め、マイコミメンバーですら、知らなかった事実であった。
「えっと・・・じゃあ改めて名乗りますね? 女神の”ハナナ”です。 よろしくお願いします!」
改めて、夜光を含めた全員に自己紹介をする女神改め、ハナナ。
「今何話目だと思ってんだよ!? 自己紹介なら1話の時にやれ!!」
ツッコミに神経を集中するあまり、登場人物らしからぬ発言をする夜光。
「うぅぅぅ・・・すみません。 女神の名前は神聖なもので、むやみに名乗るなと、先代女神様に教えられてきたもので・・・」
「(アナウンスされといて、よく言うぜ)」
その後、再びハナナを呼ぶアナウンスが流れてきたので、ハナナは頭を下げつつも、診察室に入って行った。
騒々しいスタートをきった健康診断であったが、夜光達もアナウンスで呼ばれ、徐々に診察を受け始めた。
健康診断の内容は、身長・体重などの測定、視力検査に聴力検査、内臓の検査など、現実世界の健康診断とほとんど変わらない内容であった。
ただし、医療器具が現実世界ほど発展していないため、検査結果が上手く出ずに、再検査する場合があった。
そのため、健康診断が終わっても、ほとんどの人間が1日中、病院に留まることになっている。
女神のカミングアウトから2時間後、一通り検査を終えたマイコミメンバー達は、更衣室にて、元の服に着替えていた
「はぁぁぁ・・・」
着替えながら、暗いため息をつくセリナ。
「セリナちゃん。 どうかしたの?」
セリナの横で着替えているマナが心配そうに声を掛ける。
「さっきの測定で、ナースの人が私の体重を記録しているのが見えてね?
思わず見ちゃったんだけど・・・」
セリナは言葉を詰まらせたが、何が言いたいかはみんな理解した。
「普段から適度な運動と食事制限を心掛けていないからそうなるのです」
スノーラの最もらしい説教に、セリナはさらに落ち込む。
「セリナ。 そんなに落ち込むなよ。 オレもさっきの測定でナースの記録を偶然見ちまったけど、オレも前よりひどいことになってたぜ?」
慰めるつもりで発した言葉であったが、セリナはさらにへこみながらこう言う。
「ルドちゃんの場合は、”お腹”じゃなくて、”胸”が問題じゃないの?」
憎たらしい目でじっとルドの胸を睨むセリナ。
普段のさらしをまだ巻いていなかったため、ルド本来の大きさがにじみ出ていた。
「・・・あのさ、いつもいつもオレの胸がネタにされるけど、お前らも普通にでかいからな?」
そう言うと、ルドもセリナやほかのメンバーの胸をじっと見つめ始めた。
ほかのメンバーも、着替えようと服を脱いだばかりなので、全員パンツ1枚となっている。
マイコミメンバー全体の平均バストは90以上(笑騎の調査結果)と言う規格外の大きさ。
その上プロポーションもずば抜けているため、町ではたびたびモデルにスカウトされるほどである。
なので、ルドが規格外以上なだけで、マイコミメンバー達の体もグラビア級であることは確かである。
そんなマイコミメンバーの会話を、部屋の隅で憎たらしそうに聞く者が1名いた。
「あ~はいはい。 みなさんからすれば、私の胸はないも同然ですよ。
所詮は、貧しい貧乳女ですからね~。
この世は巨乳が正義ですよ。 あ~よかったよかった」
完全にやさぐれてしまったハナナ。
『・・・』
これ以上胸の話を続けると、また暴走すると思い、メンバー達は、会話を中断した。
着替えを終え、更衣室から出たマイコミメンバー達。
すぐ近くにあったソファで、夜光と笑騎が出てくるのを待った。
「おっ遅いですね・・・なな何か見つかったのでしょうか?」
なかなか出てこない夜光と笑騎を心配し始めるセリア。
「まあ、見つかってもおかしくないわね。 1人はデブで、もう1人は論外だから」
などと冷たく言い放つライカではあるが、先ほどから何度も男子更衣室のドアを心配そうな目でちらちらと見ている.
そんな心配をよそに、突然マインドブレスレットに通信が入った。
『!!!』
メンバー達が急いで通信ボタンをタッチすると、画面にゴウマが現れた。
「ゴウマ様! 影が現れたのか?」
ルドがそう尋ねると、ゴウマはゆっくりと頷く。
『そうだ。 ビスケット病院からほど近い場所にある【クキの森】で影の反応があった』
「クキの森だと?」
ゴウマが口にしたクキの森というワードが耳に引っかかったキルカ。
「キルカ。 知っているのか?」とスノーラが尋ねると、キルカがこう返す。
「エルフ族が住んでいる森の1つだ。 ただ、クキの森のエルフ達は、戦闘能力がほかとはずば抜けている危険なエルフが多いため、異種族どころか同族からも随分恐れられている。 正直なところ、我もあまり関わりたくはない」
普段余裕な表情を見せるキルカであるが、この時は少しばかり表情を曇らせていた。
それは、ダークエルフである彼女だからこそ、感じる恐怖である。
「とにかく、すぐにその森へ向かおうぜ!」
ルドがみんなにそう言うと、通信のゴウマが慌てて『待ってくれ』と叫ぶ。
「なんだよ?」
『実は、前回の戦闘の影響で、イーグルが全機、故障してしまってな? 修理までにはまだ少し時間が掛かるんだ』
その言葉を聞いた途端、スノーラは冷や汗をかいた。
「つっつまり・・・」
『悪いが、出現場所まで走ってくれ。 1時間も走ればたどり着く』
『・・・』
その言葉に全員言葉を失い、初めて「出撃したくない!」という気持ちが芽生えた。
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