第69話 闇へと続く穴

友達として、真実を取ったレイラン。

その結果、ランに対するいじめは、ボーガスとグレイが主犯でレイランは共犯ということになった。

2人は逆上して、レイランを批判する。

そんな中、レイランを称賛する誠児とセリナ。

ランの事件が幕を閉じた一方、新生アスト達が影討伐に向けて動き出した。


ギルドに戻ってきた夜光達は、ハロが作った夕食を頂いていた。

ギルドに世話になっている間、ずっと食べていたハロの食事だが、夜光達は明日の朝帰るため、今夜が最後の夕食となった。

「・・・やっぱりハロさんのメシは上手いよな!」

ハロを称賛しながら、大きめの肉にガブリと噛みつくルド。

「そうね・・・今日で食べられなくなるっていうのがちょっと惜しいけどね」

名残惜しそうにサラダを見つめながら、ゆっくりと口に運ぶライカ。

「しかし、いつまでもここで世話になっている訳にはいかんだろう。

いつまでもワシ達がここにいれば、このギルドで就活をしている方々にご迷惑になる」

ゴウマがそのように述べると、ギルド従業員であるコトルが明るくこう言う。

「迷惑なんてことはないですよ! みなさんがギルドを手伝ってくれて、マジで助かりましたし、ギルドもにぎやかで楽しかったです!」

「コラッ!コトル! 口に食べ物を入れたまま食べるなんて、行儀が悪いわよ?」

「おっと、すいません」

慌てて水を飲み、食べ物を流し込むコトル。

まるで母に叱られている息子のような光景に、ゴウマ達は思わず笑みがこぼれる。


「・・・ビンズさん。 先ほど、ポストにこれが入っていました」

食事を一足先に終わらせた従業員のパークがビンズの元に歩み寄り、1枚の封筒を差し出した。

ビンズは持っていたスプーンを置き、パークから封筒を受け取ると、封を破り、中にある書類に目を通す。

「・・・またか」

ビンズは力なくそう呟くと、ビンズの隣でスープを飲んでいた誠児が「どうかしましたか?」と尋ねる。

「ギルド協会からの通知です。 『リッシュ村を離れ、マネットでギルド活動を行うようにと』月に数回送られてくるのですが・・・」

無意識に言葉に詰まってしまったビンズに、パークは少し問い詰めるかのような厳しめの口調でこう言う。

「ビンズさん。 あまりこんなことは言いたくありませんが、ギルド協会の言うことは最もです。

リッシュ村は人が少なく、基礎知識や基礎能力を持っている村人もほとんどいません。

そのため、このギルドから出た就職者も他のギルドと比べると、かぎりなく少ないです。

このままギルド協会に背いてここにいては、我々はいずれギルド協会から追放されてしまいます!

そうなれば、このギルドは潰れ、我々全員路頭に迷うことになってしまうんですよ!?

リッシュ村を支援する前に、もっと現実を見てください!!」

思わず声を上げるパークを、ハロは強い口調で静止する。

「パーク!やめなさい!」

ハロの静止を聞き、冷静さを取り戻したパークは「申し訳ありません・・・」と謝罪する。


ビンズは席から立ちあがり、パークと向き合う。

その表情からは、申し訳ない気持ちがにじみ出ていた。

「謝らないでくれ。 君の意見は確かに正しい・・・だがな、パーク。今、私達がここを離れたら、リッシュ村の人達は、飢えや病で苦しむ毎日に逆戻りだ。

そうなれば、リッシュ村の子供達は生きるべき未来を失ってしまう」

「ですが、私達にも生活が・・・」

パークが最後まで言う前に、ビンズがこう述べる。

「わかっているさ。 だから近々、君達が働けるギルドがあるかどうか、協会に掛け合ってみることにする。 ギルドが決まり次第、3人には異動してもらう」

ビンズの言葉に、この場にいる者全員(夜光とキルカを除く)が驚きのあまり言葉を失った。


「ちょっちょっと待ってくださいよ!ビンズさん!」

コトルはテーブルの上の皿をひっくり返す勢いで、席

「俺、ずっとここで働きたいです! リッシュ村の人達の力にもなりたいです!

それで路頭に迷うって言うなら、俺は全然かまいません!!」

真っすぐな目で、ギルドに残りたい思いを訴えるコトル。

しかし、ビンズはコトルの肩に手を置き、優しくこう言う。

「気持ちは嬉しい。 だが、君達にだって生きるべき未来があるんだ。 私の勝手なわがままに付き合って、それを台無しにするわけにはいかない

それにほかのギルドでも、支えるべき人達は大勢いるんだ」

「でっでも俺・・・」

「これはギルドマスターとしての命令だ!」

ビンズは強い口調で、コトルにそう諭す。

「・・・」

コトルは先ほどとは別人のような暗い表情を浮かべ、そのまま茫然としてしまった。



全員の食事が終わり、コトルとパークと夜光と誠児が食器洗い。

ゴウマとビンズが食事をしたテーブル等の拭き掃除。

マイコミメンバーとハロは、ゴミ出しをした後、一足先に風呂に入ることになった。



「・・・ビンズ。 さっきの話、本当に良いのか?」

テーブルの拭き掃除を行いながら、ゴウマはビンズに先ほどのことを尋ねる。

ビンズは拭き掃除していた手を一瞬止め、拭き掃除を再開すると同時に、口を開いた。

「ええ。 私には、彼らに安定した給付金や安心できる職場環境を提供できる力はありません。

それでもここまでついて来てくれた彼らには、感謝してもしきれません。

だからせめて、彼らが生きていける職場を探すことが、上司として唯一できる恩返しだと思っています」

「・・・相変わらず、他人のことばかり考える奴だ。 ホームにいた時から少しも変わっていないな」

「ホーム・・・懐かしいですね」

「ホームに通っていた頃のお前は、『人を支える職業に就きたい』と口癖のように言っていたな。

それが今、ギルドマスターとなってその言葉を実現している・・・大したものだ」

「とんでもありません。 従業員達に苦労ばかり掛け、このギルドから巣立っていった大切な男の子も守れない無能ですよ」

自分を否定する言葉を発しながら、ビンズの頬を一筋の涙が流れた。

それは、ランの死を悲しみとランの苦しみに気づけなかった自分への怒りを現わしていた。

「自分を責めるな、ビンズ。 お前がランのためにすることは、涙を流すことではないはずだ」

「・・・はい」

ビンズとゴウマは、何かを吹っ切るかのように拭き掃除に専念した。



その後、食器洗いを終わらせた夜光、誠児、コトル、パークの4人は、マイコミメンバー達と入れ替わりに、風呂に入ることになった。



「・・・クソッ! 何が悲しくて毎日毎日受付で寝なくちゃいけねぇんだよ!」

「文句を言うな! 泊めてもらっている上に、食事までごちそうになっているんだぞ!?」

入浴後、夜光と誠児は1階の受付へと向かっていた。

それは、受付のソファで夜を明かすためである。

ギルドに宿泊している間、夜光と誠児とゴウマはずっとソファと薄い毛布で眠っている。

ビンズや従業員達からは、自室に泊まることも提案してもらったが、誠児とゴウマが『そこまで世話を掛けてもらうのは申し訳ない』と丁重に断ってしまった。

ちなみにマイコミメンバー達は、ビンズ達から寝袋を借りて、受付のすぐそばにある大きめの物置きに泊めてもらっている。


そして、マイコミメンバー達が宿泊している物置きの前を通りかかった時、珍妙な光景を目撃した。

「なにやってるんだ? あいつら」

なぜかセリナが床に這いつくばって、ドアプレートに『資料室』と書かれているドアの隙間から部屋の中を覗いている。

他のメンバーはそんなセリナの姿を冷ややかな目で見守っていた。

「どうしたんだい? 君達」

誠児が声を掛けると、2人に気づいたライカが頭を抱えながらこう言う。

「さっきセリナがここで派手に転んだ拍子に、お土産のペンダントがドアの隙間に入っちゃったのよ」

「それならビンズさんに事情を説明して、開けてもらったら?」

「今スノーラに行ってもらってるわ。 だから、あたし達はここで待機中って訳」


ライカの説明直後、ハロを連れたスノーラが戻ってきた。


「ハロさん。 すみませんがカギを開けてくれますか?」

スノーラが申し訳なさそうに、そう頼むと、ハロは「かまいませんよ」と笑顔でカギを開けてくれた。



「ペンダントや~い!」

ハロがカギを開けると、セリナはすぐさま中に入り、ペンダントを探す。

だが資料室には、求人情報のほか、ギルド登録者の個人情報などもあるため、情報が外に漏れないように、窓がない造りになっている。

そのため明かりをつけないと、昼夜関係なく真っ暗で何も見えない。

「今明かりをつけます」

ハロが手探りで壁にあるスイッチを押すと、資料室の電灯が辺りを照らす。

資料室の中はかなり狭く、資料を置いている本棚や段ボールなどが場所を取り、足の踏み場もない。

「あっ! あった!」

明かりとつけたと同時に、セリナは床に落ちていたペンダントを見つけた。


「ぎょへ!!」

ペンダントを拾おうとしたセリナであったが、床に置いてる段ボールに足を引っかけ、そのまま転んでしまった。

「おっお姉様!」

すぐさまセリナに駆け寄るセリアと誠児。

「おっお姉様。 大丈夫ですか?」

「ひーん! また転んだー!」

足をさすりながら泣きじゃくるセリナだが、床にあった段ボールがクッションとなったので、ケガはしていなかった。

そして、セリアの肩を借りてゆっくり立ち上がるセリナが、ふと「あっペンダントは!?」と思い出したかのように辺りを探し出す。

「ペンダントはほら、ここだよ」

そういいながら、ペンダントを差し出す誠児。

セリナが泣いている間に拾ってくれたようだ。

「あっ! 誠児、ありがとう」

誠児からペンダントを受け取ったセリナは、ペンダントをポケットにしまった。


「・・・?」

セリナ達と資料室から出ようとした時、誠児の目に、少し気になる物が映った。

「(なんだ? この本)」

誠児の目に映ったのは、本棚にある1冊の赤い本であった。

背表紙にはタイトルが記載されておらず、何の本かはわからない。

「どうした? 誠児」

じっと本棚を見つめる誠児が、気になった夜光が誠児に声を掛ける。

「いや、ここに本があるだろ?」

「・・・それがどうした? 本棚に本があるのは当然だろ?」

「そうなんだけど、ここにある資料って、全部ファイルなのに、なんでここに本があるのかなって思って」

誠児にそう言われ、夜光も辺りを見渡してみる。

本棚には大量の書類がファイリングされたファイルが並んでいるが、本は誠児が見つけた赤い本以外は1冊もない。


「どうかされましたか?」

資料室から出てこない夜光と誠児が心配になったハロが、2人の元に歩み寄ってきた。

「あっ! ハロさん。 ここにある本はいったいなんなんですか?」

誠児がそう尋ねた途端、ハロは急に青ざめてしまった。

「そっそれは大切な資料です! はっ早く出て行ってください!」

『!!!』

ハロは挙動不審となり、今まで聞いたこともない大きな声で、2人に資料室から出るように言った。

それには、夜光と誠児だけでなく、資料室の外にいるマイコミメンバー達も驚いた。

「なんだよ。 本くらいで」

夜光はそう言って赤い本を本棚から出してしまった。

すると、エンジン音のような機械音が辺りを包み込んだ。

「なっなんだ? この音!」

何が起きているのかわからない夜光は思わずあとずさりしてしまった。

・・・その時であった!

夜光の足元の床がガコッという音と共に、ドアのように開いてしまった。

「うわぁぁぁ!!」

そこには地下へ通じる階段のようなものがあり、夜光はバランスを崩して、階段の下に落ちて行った。

「夜光ぉぉぉ!!」


誠児の叫び声が響いたと同時に、機械音は鳴りやんだ・・・

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