第68話 友情と真実

初めての友達であるボーガスとグレイを信じ抜くレイラン。

そして、夜光達とレイラン、ボーガス、グレイを集めた騎士団が調査結果を報告するのであった・・・


「まず初めに、レイラン スペルビア。 君が”ボーガス バーガー”と”グレイ スパイク”にいじめを強行させたという主張だが・・・我々はその主張を聞き入れることはできない」

「なっなんで!? ボクは本当に・・・」

レイランが反論する前に、騎士団員が続ける。

「君達と同じチームに所属している訓練選手達から、マッドコーチと君達3人が”ラン モナー”に暴力を加えたり、雑務を押し付けるなどのいじめを行っているという証言は得られた。

・・・だが、マッドコーチの証言によると、率先していじめを行っているのはボーガス バーガーとグレイ スパイクで、君はその2人に指示されてラン モナーをいじめていたと証言しているのだが?」

それを聞いた途端、ボーガスが「(あのクソコーチ! 余計なことを!)」とマッドに対して、内心罵声を浴びせていた。

机の上で拳を握りしめている様子から、夜光や誠児のように勘の良い人間はボーガスの怒る理由を察していた。


そして、ボーガスの隣にいるグレイが騎士団員に突っかかってきた。

「そっそんな証言があったからといって、レイランがいじめていないという証拠にはならないはずです!」

その言葉は、レイランに責任を押し付けようとするグレイの醜い感情から出た言葉であった。

確かに、レイランはランをいじめていたのは事実だ。

しかし、その全ての行為は、ボーガスかグレイのどちらかに受けた指示に従った行為であった。

マラソン大会でランを連れ戻した際に、ランの背中に蹴りを入れたのも、実はボーガスが「もしランが妙なことをしていたら、ランの奴に軽くヤキを入れろ!」という指示をランを探す前に受けていたからだ。

許されない行為とはいえ、それは自分も2人のいじめに加担しないと、2人に見放されるかもしれないという孤独への恐怖から、行ってしまったというのも事実。


「我々はレイラン スペルビアがいじめを行っていないとは言っていない。 

ただ、彼女は主犯ではなく、共犯だと言っているだけだ」

「じゃあ、あんたらは俺達が主犯だと言いたいのか?」

ここまで黙秘を貫いていたボーガスがついに口を開いた。

「少なくとも、いじめを強行され訳ではないと考えている」

「騎士団ってのは、あんなクソみたいな野郎の言葉を信じるような、ぬるい組織なのかよ?」

煽るような言葉を、恐怖で震えながら放つボーガス。

しかし、騎士団員は冷静にこう返す。

「マッドコーチがどんな男でも、彼もいじめの主犯だ。 その証言を参考にするのは当然だ。

・・・それに、問題は証言だけではない」

「どういう意味だ?」

「聞き込みをする中で、興味深い証言を得られた」

騎士団員は、そばにいた部下から調査資料を受け取り、1度資料に目を通した後こう話す。

「まず、ボーガス バーガー。 君には、ドーピング容疑が掛かっている」

それを聞いた途端、ボーガスは今まで以上に顔を真っ青にし、震えもさらに増した。



膨張していたルドがふと「ドーピング? スポーツ選手が手に巻くあれか?」と疑問に思っていると、

スノーラが呆れた顔で「それは”テーピング”だ」と訂正するというコントがあった。



・・・話を戻し、騎士団員が説明を続ける。

「君がドーピングをしているという情報があったので、君の自宅を調べさせてもらった。

もちろん、両親の許可も得ている」

すると、別の騎士団員が、錠剤やカプセルが大量に入った袋をみんなに見せた。

「君の自室から、大量のドーピング薬を発見した。 しかも、使用された形跡もある」

「そっそんなもの・・・知らねぇよ」

ドーピングの証拠を突き付けても、往生際の悪いボーガス。

ここで、騎士団員がとどめを刺す。

「ドーピングをしていないというのなら、ここでドーピング検査を受けて、無実を証明してもらおうか。

薬剤師からの情報では、このドーピング薬は使用後、少なくとも3日間は体内に残り続けるとのことだ。

もし昨日のマラソン大会で使用していれば、必ずドーピング反応が出るはずだ」

ドーピング検査を受けるように言われたボーガスは、まるで蛇に睨まれた蛙のように、硬直してしまった。

「ボーガス バーガー。 やましいことがないのなら、検査を受けることはできるはずだ」

「・・・」

返す言葉すらないボーガス。

すると、騎士団員はグレイに目を向ける。

「グレイ スパイク。 君にも不正行為の容疑が掛かっている」

ボーガスに比べると、比較的冷静であったグレイであったが、不正と聞いた瞬間、みるみる青ざめていく。

「昨日のマラソン大会で、マネット山を下山していた選手から、『山の中で人力車のようなものを目撃した』と証言を得た。

念のために人力車を扱っている組織に尋ねると、マラソン大会当日に、君が人力車を手配したという証言を得られた。

停留場所はマネット山、頂上付近で、時間はマラソン大会が始まった、午後1時半。

用心深いことに、口止め料も払っていたようだな?」

「そっそんなの、私知らない・・・」

「・・・(まさか)」

ボーガスと同じセリフを吐くグレイだが、レイランには1う思い当たることがあった。


大会でグレイからタスキを受け取った時、グレイの服装は、木が生い茂っていた山を下山したにも関わらず、全く汚れていなかった。

その上、息もほとんど乱れていなかった。

その時は不審に思ったものの、大会を優先して急いで走ったため、見間違いかもしれないと思っていたのだ。

だが、グレイが人力車でマネット山を下山したのだとしたら、納得がいく。

騎士団員はダメ押しのようにこう言う。

「シラを切っても無駄だ。 この町で人力車を扱っている組織は1つしかなく、最近の利用者も君以外はいない。

それがかえって、君を印象付けたんだ」

「違う・・・違う・・・」

まるで壊れた機械のように、同じ言葉を繰り返すグレイだったが、レイランと目が合った瞬間、こう訴えた。


「レイラン! 本当のことを言ってよ! 私達、友達でしょ!?」

グレイが助けを求めると同時に、ボーガスも懇願する。

「そうだぜ、レイラン。 友達が困った時に助けるのが友達だろうが!!」

2人はなりふり構っていられなくなり、レイランが信じている友情にすがることにしたのだ。

つまりそれは、ドーピングの罪も不正の罪も、レイランにかぶってもらうということだ。

「ねえ、お願いよ! このままじゃ、私もボーガスも捕まってしまう! だから、本当のことを話して!」

「レイラン! お前、友達を見捨てて自分だけ助かるつもりかよ! お前はそんな薄情な女なのかよ!」

「ボーガス・・・グレイ・・・」

ここまで証言や証拠がそろっていては、もうどうすることもできない。

レイランもそれは理解している。

・・・だがそれでも、友達である2人を見捨てることはできなかった。


「ふっ2人は悪くない。 ぼっボクが全部・・・」

レイランが無謀にも罪をかぶろうとした時、膨張していたセリナはが突然立ち上がった。

「もうやめてよ! レイランちゃんはとっても苦しんでるんだよ!? 2人はレイランちゃんの友達なんでしょ!? だったら、友達を苦しめるようなことはやめて!! 本当のことを言ってよ!!」

セリナの叫び声に、辺りは一瞬静まり返った。

「ぶっ部外者は、口出しするんじゃねぇよ!」

「そっそうよ! これは私達の問題なんだから!」

セリナに引っ込むように言うボーガスとグレイ。 

だが、セリナは続ける。

「友達って言うのは、楽しくおしゃべりしたり、笑って遊んだり、一緒にいて楽しくなるんだよ!

自分達が苦しみたくないからって、友達を苦しめるなんて、そんなの友達じゃないよ!!」

感情を爆発させるセリナをなだめるかのように、そっと肩に手を置く誠児。

「すみません。 セリナが勝手に発言したことは謝ります。

ですが私も、彼女と同意見です」

そう言うと、誠児はレイランに視線を向ける。

「君は1つ勘違いをしている。 ”罰を受ける”ことと”傷つく”ことは全く違う。

傷つく友達を守ることは素晴らしいことだと思う。

でも、受けるべき罰からも守ってしまうのは、友達のやることじゃない。

君が彼らを思っているのなら、たとえ2人が傷ついたとしても、本当のことを言う。

それも1つの友情だと思う」


「友情・・・」

それはレイランが最も大切にしているもの。

そして、絶対に失いたくないもの。

本当のことを言えば間違いなく、2人との友情は終わってしまう。

だが、このまま黙秘していても、2人のためにならない。

もしかしたら、また新たないじめを行うかもしれない。

そうなれば、またこんな悲惨な事件が起きてしまう。

友情と真実。

レイランはどちらを取るべきかがわからなくなった。

そこへ、騎士団員がレイランに問う。

「レイラン スペルビア。 君に1つ問う。

君はボーガス バーガーとグレイ スパイクにいじめを強行したのか?」

「ぼ・・・ボクは・・・」

長い沈黙の中、レイランは考えるのをやめ、自分の心に従い、ゆっくりと口を開けた。


「・・・ボクは、2人にいじめを・・・きょっ強行させて・・・いません!」

「「!!!」」

レイランは自らの主張を取り下げた。

その瞬間、ボーガスとグレイは言葉を失ってしまった。

「・・・そうか。 では、レイラン スペルビア。 君はいじめの共犯として身柄を拘束させてもらう。

そして、ボーガス バーガーとグレイ スパイクの2名は、いじめの主犯及び、マラソン大会での不正行為として、逮捕する」

騎士団員がそう告げると、ボーガスとグレイは騎士団達に囲まエ、身柄を拘束された。

「クソッ!! レイラン!! この裏切り者が!! よくも俺達を裏切りやがったな!!

テメェ、いつか絶対殺してやるかるな!!」

「あんたは友達を平気で見捨てたクズよ!! あんたみたいなクズは、一生孤独のまま死ねばいいのよ!!」

拘束されたまま、レイランに罵声を浴びせるボーガスとグレイ。

そして、そのまま騎士団達によって、連行されていった。

「・・・」

残されたレイランは、ただただ涙を流しながら、『これでよかったのか?』という自問自答を心の中で繰り返していた。


そして、騎士団員がレイランを連行しようとする。

そんなレイランに、誠児がこう語り掛ける。

「君のしたことは間違いじゃない。 真実を話したということは、君の友情は本物だと証明されたんだ」

「・・・でも、2人はボクのことを・・・」

「2人は受けるべき罰を受けるんだ。 それを友達のせいにする奴に、友達を名乗る資格はない」

それでも顔を上げないレイランに、セリナが優しくこう言う。

「もし、レイランちゃんに友達がいなくなったら、私達が友達になるよ!

そうすれば、1人ぼっちじゃないでしょ?」

セリナがそう言うと、不機嫌な顔をした夜光がレイランに歩み寄り、こう言う。

「勝手に決めるなよ・・・あと、レイランとか言ったか?」

「・・・」

「お前が友情を大切にしていることはよくわかった。

だが1つ、お前は間違っている」

「・・・何が?」

「友達は”なる”ものじゃない。 なんとなく一緒にいて、いつのまにか”なってしまう”ものだ」

「なってしまうもの・・・」

それだけ言い残すと、騎士団員に連行されていった。


こうして事件は幕を閉じ、夜光達もギルドへと戻った。


・・・場面は変わり、クレンツの屋敷の地下施設。

「クレンツ総長。 これより、影のメンバーの1人『スコーダー』討伐に向かいます」

そうクレンツに告げるのは闇鬼。

「新生アスト達よ、君達は心界に選ばれた勇者だ。 必ず影を倒し、この心界に平和と取り戻すのだ!!」

『はっ!!』

新生アスト達はクレンツに敬礼すると、その場を後にした。


アストと影。

2つの力がまもなく、ぶつかり合おうとしている・・・

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