第46話 後悔の中の決意

潜水艇にて、スノーラを発見した夜光と誠児。

過去の悲劇に捕らわれたレーツは、スノーラにとどめを刺そうと銃を向ける。

そんなスノーラを助けるために、レーツに飛び掛かったミーナ。

その時、怒り狂ったレーツがミーナに向けて、引き金を引く。

絶望の中、突如出現した光によって、誠児は闇鬼となった・・・


「一体、これはなんなんだ?」

自分の変化に理解できず、混乱する誠児。

突如出現した光で、腰を抜ぬかした夜光も、驚きを隠せない。

「なんで・・・誠児が闇鬼になっているんだ?」

闇鬼は夜光がマインドブレスレットによってエモーションした姿。

闇鬼を装着できるのは、闇神に選ばれた自分だけだと、夜光はずっと思っていた。

しかし今、目の前にいるは間違いなく、闇鬼のアーマーを装着した誠児である。

そこへ再び、謎の光が現れると、今度はスノーラのそばへ行き、マインドブレスレットへと姿を変えた。

その様子を見ていた夜光は、驚きながらも疑問を浮かべる。

「あの光はマインドブレスレットだったのか。 でもなんで誠児が闇鬼に・・・しかも勝手に・・・」



「なっなんなんだ!?貴様!! その姿は!?」

突然姿を変えた誠児に動揺するレーツ。

今にも撃ってきそうなレーツを見て、誠児は反射的に夜光を庇うように前に立つ。

「(自分に何が起こっているのかさっぱりわからないけど、今はとにかく夜光を守ることが最優先だ!!)」

誠児は意を決して、レーツに正面から突っ込んだ。

「くっ!!」

レーツは誠児に向けて引き金を引く。

・・・しかし弾丸は当たったが、誠児には全く効果がなく、そのまま突っ込んでいく。

再び引き金を引くレーツだが、今ので弾が尽きたようだ。

「くっクソ!!」

焼けになったレーツは、スノーラの銃を捨て、そばにあるテーブルに置いていたライフルを手にする。

そのライフルは、武装男達が所持していたライフルと同じもの。

威力が高く、防弾ジャケットでも衝撃が防ぐことができない。

「死ねぇぇぇ!!」

レーツはライフルで誠児を撃つ。

かなり至近距離なので、遠距離よりも威力は上がっている。

騎士団の兵士でも、これを喰らえばひとたまりもない。

・・・しかし、闇鬼となった誠児は別だ。

「ばっバカな!!」

誠児は至近距離でライフルに撃たれたにも関わらず、全くのノーダメージ。

その事実によって、レーツの動揺は恐怖へと変化した。

「くっくるなぁぁぁ!!」

レーツは再び誠児をライフルで撃とうとしたがすばやくレーツに詰め寄った誠児がライフルの銃身を掴み。ライフルを力づくで奪い取る。

「うおぉぉぉ!!」

誠児は奪い取ったライフルを放り、渾身の力を込めてレーツの顔を殴った。

「ごはっ!!」

殴られたレーツはそのまま、すぐ後ろにあるミーナを閉じ込めていた水槽に頭から突っ込み、水槽が粉々になるほどの衝撃を頭に喰らった。

「・・・」

レーツはそのまま床に倒れ、意識を失った。

気絶したことを確認した誠児は、足元に倒れていたミーナを抱きかかえ、スノーラのもとへと運ぶ。

運んでいる途中で、誠児は元の姿に戻り、マインドブレスレットが床に落ちた。


「ミーナ!!」

必死に妹の名を呼ぶスノーラのそばにミーナを寝かせ、誠児は夜光の元へと駆け寄った。

「ミーナ!!ミーナ!!」

血まみれのミーナを抱きかかえ、ケガの状態を確認するスノーラ。

ミーナは胸から大量に出血しており、夜光のように布などで止血できるレベルではなかった。

スノーラはあふれる涙を必死に堪えながら、呼びかける。

「・・・うっ!!」

重いまぶたをどうにか開け、スノーラの顔を確認するミーナ。

「す・・・スノーラ」

「ミーナ!! 大丈夫か!?」

ミーナはスノーラの質問をはぐらかすかのようにこう言う。

「ごめんなさい・・・私のせいでまたケガをさせてしまって」

「何を言っている!? お前は何も悪くない。 妹を助けることは姉として当然だ!!」

「・・・あいかわらず責任感が強いな」

ミーナの顔は次第に、ほがらかになっていく。

「どうしてあんな無茶をしたんだ!?」

そう聞かれたミーナは、少しスノーラから目をそらす。

「・・・私にもわからない・・・ただ、スノーラが殺されると思ったら、体が勝手に動いていた・・・ふっ、我ながらバカなことをしたと思う」

「ミーナ・・・お前・・・」

それはかつて目の前で撃たれた両親がハンターに連れていかれた時にスノーラに芽生えた、家族を守りたいと思う感情。

しかし、恐怖でスノーラはその思いを行動に移すことができなかった。

ミーナは自分ができなかったことをやってのけたのだと、スノーラは思った。

その時、ミーナの目から一筋の涙が流れる。

そして、これまで見たことのないような悲しみい満ちた目でスノーラに語る。

「・・・本当は、わかっていたんだ・・・お前は、私や人魚族を裏切ってなどいないことも。

生きていくために人間となっていたことも・・・でも私は怖かった・・・親が死んだ現実を受け入れることが・・・家族のいない海で生きていくことが・・・だから私は、その恐怖から逃げたいがために、お前を裏切り者として恨んでしまった・・・」

「・・・そうだったのか・・・すまなかった。 お前の気持ちを何もわかってやれなくて」

堪えていた涙がこぼれ落ちるスノーラの頬を優しくなでるミーナ。

「・・・でもよかった・・・人間の姿になっても、お前は私の知っているスノーラだ。

家族思いで優しい心を持つ、私の自慢の姉だ」

ミーナはスノーラに、自分の本当の気持ちを伝えられたことに満足したように、にこやかな笑顔を浮かべた。

・・・その時!!

「ごほっ!!」

ミーナは口から大量の血を吐きだした。

「ミーナ!! しっかりしろ!!」

目の前で妹が死にそうになっているのに、自分は涙を流すことしかできない自分に、スノーラは心の底から後悔と怒りがこみ上げた。

そんな感情を鎮めるかのように、ミーナはスノーラの手を優しく握る。

「・・・もし、お父さんとお母さんに会えたら、伝えておくね? スノーラは元気にしてるって」

その言葉を聞いた時、スノーラは心臓を突き刺されるような恐怖に襲われる。

「ばっバカなことを言うな!!・・・お願いだ・・・死なないでくれ・・・ミーナ」

ミーナの手を握り返し、大粒の涙を流しながらミーナの名を呼ぶスノーラ。

そんなスノーラにミーナは最後の力を振り絞って、満面の笑みを浮かべてこう言う。

「・・・大好きだよ。お姉ちゃん」

その言葉と共に、ミーナは眠るように力付きた。

「ミーナ?・・・ミーナ!!・・・行かないでくれ。 私を・・・私を1人にしないでくれ!!・・・ミーナァァァ!!」

ミーナの体にすがるように、泣き叫ぶスノーラ。

・・・しかし、どんなに叫んでも、ミーナはもう戻ってはこない。


「・・・スノーラ」

夜光の状態を見ていた誠児は、スノーラの泣き崩れる姿を見て、慰めの言葉でも掛けるべきだと思ったが、言葉が見つからなかった。

・・・そんな時、夜光が全身の力を入れてた立ち上がった。

「夜光。 まだ立ち上がったダメだ。傷が開いてしまうぞ!」

そう忠告する誠児を横目に、夜光は少し離れた所に落ちていたスノーラの銃を拾い上げた。

「・・・」

夜光はそのままスノーラの元へ歩み寄り、銃を差し出した。

「ほらよ。 お前の大切なもんなんだろ?」

しかし、スノーラは顔を上げずにこう言う。

「・・・放っておいてください」

その様子に、夜光はため息混じりでこう続ける。

「おいおい。 妹が死んでショックなのはわかるけどよ。 人がわざわざ拾ってやったんだから受け取れよ」

夜光の気休めのような言葉に、スノーラは殺意に近い怒りを覚えた。

「!!!」

スノーラは怒りに満ちた顔で、夜光に向かって叫ぶ。

「わかる!? 目の前で二度も家族を失った私の気持ちがお前にわかるのか!?

家族が死ぬのをただ見ているしかない私の気持ちがわかるのか!?

何もわからないくせに、知った風なことを言うな!!」

「・・・」

スノーラの怒りの言葉を、夜光は黙って聞いた。

そして、怒りをぶちまけたスノーラは、再び悲しみの涙を流す。

「私は・・・ミーナも両親も守れなかった・・・後悔しないように生きていくと決めていたのに・・・結局、私に残ったのは・・・後悔だけだ・・・」

スノーラが絶望の言葉を述べたにも関わらず、夜光はそれを鼻で笑う。

「バーカ。後悔しない生き方なんてこの世にあるわけねぇだろ? どんな奴だって、過去に大きな後悔を背負って生きてんだよ。 後悔しない生き方なんて考える暇があるなら、何百回、何千回後悔したあとに、自分に何ができるかを考えろ」

「・・・自分にできる・・・こと?」

「ミーナは命を懸けてお前を守ったんだ。 ならお前はそんなミーナに何ができる?

そうやってすがりつくことか?それとも今みたいに俺に八つ当たりすることか?

どんな答えを出してもいいけどよ。 ”自分には何もできない”なんてつまらねぇ答えは出すなよ?」

「私は・・・」

スノーラにはわからなかった。

ミーナを守れなかった自分に、今更何ができるか・・・

最後に見せてくれたあの笑顔に、自分は何をしたら答えられるのか・・・

わからないことだらけだが、腕の中で眠るミーナの顔を見ながらスノーラは思った。

「(私には、ミーナがどんな思いで私を守ってくれたのか、想像もできない・・・でも!!」

スノーラはゆっくり顔を上げ、夜光の目を見てこう言う。

「・・・私には、ミーナに何ができるのかわからない。

・・・だが、ミーナが守ってくれたこの命を絶対に失いたくないと思っている」

スノーラのその答えに、夜光は再び鼻で笑う。

「とりあえず、それでいいんじゃねぇか?」

「えっ?」

「自分に何ができるか?っていうのは、答えることがすべてじゃないと俺は思う。

生きている中でできることを探すってのも、一つの答えなんじゃねぇか?」

「・・・私は、見つけることができるのでしょうか?」

不安でうつむくスノーラに、夜光がぶっきらぼうにこう言う。

「さあな。 でも見つからなくても、何もしないよりはマシだろ?」

「・・・はい」

スノーラの表情に、わずかな微笑みが戻った。

そして、眠っているミーナに、スノーラは優しくささやく。

「ミーナ。 お前に助けてもらったこの命、大切にする。

・・・だから、ゆっくり休んでくれ・・・ありがとう、ミーナ」

スノーラは感謝と深い愛情を込めて、ミーナの体を強く抱きしめた。


そこへ、夜光の元へ歩み寄った誠児が、マインドブレスレットを手渡しながらこう言う。

「カッコよかったぜ。 夜光」

誠児の労いの言葉に、夜光はコミカルに答える。

「俺がかっこいいのは、当たり前だ」

「ふっ。 そうだな」


それからまもなく、ルドとライカが笑騎を連れて、夜光達の元へと駆けつけた。

3人は夜光とスノーラのケガやミーナの死に言葉を失ったが、スノーラが微笑みながら「大丈夫だ」と答えると、3人は何も聞かずに、ケガをした夜光とスノーラ、そして、ミーナを潜水艇から運び出したでのあった。


夜光達が潜水艇を去ってから、しばらくすると・・・

「・・・うっ!!」

気絶していたレーツが目を覚ました。

頭を抑えながら、どうにか起き上がろうとする。

「クソッ!! あいつら、このままで済むと思うな!! 必ず殺してやる!!」

レーツが悪態をついたその時だった。

「・・・残念だが、それは不可能だ」

レーツが顔を上げると、そこに立っていたのは、ウォークだった。

「なっなんだ!?貴様!!」

「これから死ぬ相手に名乗る名はない」

そう言うとウォークは槍を向ける。

「やっやめろ!!やめてくれ!! 私は死にたくない!!」

誠児に殴られたショックで身動きが取れないレーツは、恐怖により涙を流して命乞いをする。

だがウォークは槍を降ろさない。

「貴様らに殺された者たちもそう思っていたはずだ」

「わっわかった!! もう異種族を殺すことはやめる!! 臓器売買も行わない!!だから・・・」

「・・・断る」

槍をレーツに向けて降ろした。

「やめろぉぉぉ!!」

ウォークの槍は、そのままレーツの心臓を貫いた。

レーツの死を確認したウォークは、血がべっとりとついた槍を引き抜き、何も言わずにその場を立ち去って行った・・・

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