第45話 命の価値

影の1人、ウォークと対峙したセリア達。 ウォークが海水で作った分身体には、通常の攻撃が通用しない。

そこでゴウマは、分身体に熱を加えて蒸発させるという提案を出した。

しかし、そこで白羽の矢が立ったのは、超ノーコンのセリナであった・・・


『セリナ、この中で炎を操れるのはお前だけだ。 分身体にお前の火球をぶつけるんだ』

「うん! 任せて!」

やる気十分のセリナだが、ほかの3人は猛反対する。

『冗談じゃないわよ! こんなノーコンに任せるくらいなら撤退した方がマシよ!!』

ライカがそう思うのも無理はない。 セリナはもともと遠距離タイプで、威力はスノーラに劣るが、攻撃範囲はかなり広く、全体攻撃を得意としている。

しかし、セリナ自身があまりにもノーコンなため、普段はもっぱら武器である爆炎杖で敵を叩いて攻撃している。

『わっ私も賛同しかねます。 こここれ以上敵が増えるのは困ります』

『セリアちゃん! なんかさらりとひどいこと言ってない!?』

姉思いなセリアさえ、セリナの攻撃を信用していない始末。

『なあ、ゴウマ国王。いつものように叩いて、分身体を蒸発させる訳にはいかねぇのか?』

ルドの希望のような提案でも、ゴウマは首を横に振る。

『それでは丸太で叩いているのと大して変わらん。 分身体を焼き尽くすほどの炎を出すには、炎尾本来の火球攻撃が一番だ』

『『『・・・』』』

セリア達とて、火球攻撃が有効かもしれないことは理解している。

・・・しかし、これまでの戦闘でも、セリナは火球攻撃を使うことはたびたびあったが、そのほとんどが的を外している事実を知ってしまっている以上、素直に了解できなかった・・・

もちろんそれはゴウマもセリナ本人もわかっている。

そこで、ゴウマは3人にこう伝える。

『なら3人共、後退してセリナの後ろに下がりなさい。 それなら多少は安全だろう』

通信の間も分身体との戦闘を続けている4人だが、状況は一変に変わらない以上、セリナの火球攻撃に頼るしかなかった。

『・・・仕方ないわね』

『おっお姉様、ご武運を・・・』

『2人共、なるべく遠くに逃げるぞ!』

3人はみるみるセリナから離れていき、セリナのはるか後方まで逃げて行った。

「・・・なんか私、爆弾扱いされているような」

自分の信用のなさに、うっすら涙を浮かべるセリナ。

「こうなったら、私の炎で敵を全部やっつけて見返してやる!」


セリナは分身体から一旦距離を取り、爆炎杖を天に掲げ、マインドブレスレットのエクスティブモードを起動する。

『エクスティブモード!!』

エクスティブモードとは、一時的に精神力を限界ギリギリまで上げるシステム。

しかし長時間使うと、失神してしまう恐れがあるため、持続時間は1回につき約10秒となっている。

「いっくぞ~!!」

爆炎津の先端に、バスケットボールくらいの火球が出現した。

大きさは大したことがないように見えるが、物体に接触すれば、巨大な爆発を起こす強力な火球だ。

「私の攻撃に全て掛かってる。 だから絶対外せない!」

セリナは力強く爆炎杖を握りしめる・・・そして。

「いっけぇぇぇ!!」

分身体に向かって爆炎杖を大きく振り下ろした・・・が。

「へっ?」

火球はなぜか前に飛ばず、後方にいたセリア達に向かって飛んだ。

「「きゃぁぁぁ!!」」

「うわぁぁぁ!!」

3人は慌てて前方に逃げ、火球はそのまま砂浜に落ちて爆発した。

かなりの衝撃だったので、もし当たっていれば、3人共無事では済まなかっただろう。


命からがら爆発から逃れることができた3人は、すぐさまセリナの元に駆け寄る。

「テメェ!! オレ達を殺す気か!?」

「ごごごめんなさい!!」

「だいたいなんで、前に投げた火球が後ろに飛んでくるのよ!!」

「わかんないよぉぉぉ!!」

「きき気を落とさないでくださいお姉様。 失敗は誰にでもあります」

「・・・セリアちゃん。 言葉は嬉しいけど、もうちょっと近づいて言ってほしいな」

優しく声を掛けるセリアだが、セリナから完全に距離を置いていた。

そこへ、分身体が近づいてくる。

「くっ! 次から次へと!!」

「とりあえず、今は影を足止めすることが先さ!」

「はっはい!」

「うん」

4人はもう一度、分身体との交戦に走った。

しかし、考えもなく攻撃しているため、結果は変わらない、

そんな時、ゴウマから再び通信が入る。

『セリナ。 元気を出せ。わかりきっていたこととはいえ、お前はよくやった』

『なんか全然嬉しくない』

落ち込むセリナを置いて、ゴウマはこう続ける。

『・・・こうなったらやむを得ない。 セリナ、汚名返上だ。イーグルを呼べ!』

イーグルとは、アスト専用の飛行移動メカのことだ。

『えっ? なんで?』

『とにかく呼ぶんだ! 急げ!』

『わっわかった!! みんな、ちょっとここお願い!』

分身体をセリア達に任せ、セリナは一旦その場から離れた。

ある程度離れたところで、セリナはマインドブレスレットを操作し、イーグルを呼び出す。


呼び出してからわずか5分で、イーグルが到着した。

セリナはイーグルに乗り、ゴウマに指示を仰ぐ。

「・・・それでどうするの?」

『右側に、投入口のようなものがついているだろう?』

「うん。あるよ?」

『そこに、お前の足に装備してあるシェアガンを差し込むんだ』

セリナはゴウマの言う通り、足のホルスターに装備されているシェアガンを、投入口に差し込む。

すると、イーグルの先端部分が開き、砲口が現れた。

「お父さん。 なんか黒いものがニョキって出てきたよ?」

『それは【イーグルキャノン】と言って、集束させた精神力を一気に放つ強力な武器だ。

ただし、発射できるかどうかテストはしていない。 その上、一日一回しか撃てない』

『えぇ!! そんなの当てられっこないよ!! さっき思いっきり外したところなのに!!』

先ほどの火球ですっかり自信を無くしているセリナだが、ゴウマは安心させるために続ける。

『大丈夫だ。 砲口をしっかり敵に向けておけば、必ず当たる。 ワシを信じなさい』

「・・・わかった。 とにかくやってみる」

不安は残るが、これ以上みんなに迷惑を掛けられないと思ったセリナは、ゴウマを信じて飛び立った。


飛び立ったセリナは、上空から分身体たちを撃つことを試みた。

地上ではセリア達が、倒しても倒しても復活する分身体達に苦戦しており、徐々に疲れも見え始めた。

疲労だけでなく、分身体からの攻撃で、ダメージもわずかとはいえ、蓄積していっている。

そんなセリア達に、ゴウマからの通信が届く。

『セリア、ルド、ライカ。話は聞いていたな? セリナの順義が整うまで分身体達を抑えていてくれ』

ゴウマは先ほどのセリナとの通信をほかの3人にも聞こえるようにあらかじめ繋いでいたのだった。

『・・・本当に大丈夫なんだろうな?』

『またあたし達を狙うようなことになったら、さすがにシェアガンの1発くらい当てるわよ?』

『ほっ本当のところを言いますと、私は不発で終わってほしいです』

3人がそう答えることは、ゴウマはもちろん承知していた。

『すまないな、3人共。 だが、もう一度セリナにチャンスをくれ。 もしこれも失敗するようなことがあれば、撤退してくれ』

不安しかないが、3人はゴウマとセリナを信じて、分身体達の足止めを続けた。


上空のセリナは、イーグルに付いてある画面に表示されているゲージが満タンになるのを待っていた。

そのゲージは、セリナの精神力がイーグルキャノンにどれほど集まっているかを表示するものだ。

セリナの精神力は、握っているハンドルから吸収されている。


そしてついに、ゲージが溜まった!

『みんな! そこから離れて!!』

セリナの合図と共に、3人は一斉にその場を離れた。

「いっけぇぇぇ!!」

セリナは、分身体達の中心に向かってイーグルキャノンを発射した。

砲弾は分身体達のいる、ほぼ中心地に命中した。

砲弾は、激しい爆発音と共に爆発した。

分身体達も、その爆発に巻き込まれ、その熱によって、元の海水は蒸発した。


爆発が収まると、あれほど分身体達が、1体も残らずに蒸発していた。

セリア達はしばらく様子を見ていたが、もう復活する気配はない。


精神力が限界になり、強い疲労感に襲われたセリナはどうにか着陸し、倒れるように、イーグルから降りた。

「お姉様!!」

セリアはすぐさま駆け寄り、セリナを抱きかかえる。

「お姉様、大丈夫ですか!?」

「うっうん、大丈夫。ちょっと疲れただけ」

わざわざピースをして、大丈夫なことをアピールするセリナに、セリアは思わずにこやかになった。

『セリナ。 よくやったな。 無理をさせてすまなかった』

通信のゴウマも、セリナを労うと同時に無理をさせてしまったセリナに謝罪した。

「謝ることなんてないよ。 私が自分でやったことなんだから」

そこへルドとライカも遅れて到着する。

「セリナ、ありがとうな。 おかげで助かったぜ」

「まあ、今回ばかりは素直にありがとうと言っておくわ」

「えへへ。 そこまで言われたら照れちゃうよ」

名誉挽回できたことを喜ぶセリナであったが、ここでルドが周りを見渡しながらあることに気づく。

「・・・おいっ。 そういえば、影の本体はどこにいったんだ?」

ルドに言われてライカも見渡すが、辺りにウォークの姿はない。

「確かに本体がいないわ」

その事実に、疲労を忘れてセリナが叫ぶ。

「もっもしかして、私が影をやっつけちゃったの!?」

しかしすぐさまゴウマがこう言う。

『いや、影の反応はまだ確認されている。 少なくとも死んではいない』

ルドとライカは念のために、マインドブレスレットに搭載されているサーチ機能を使う。

これを使えば、近くにいる影の反応をマインドブレスレットがキャッチすることができる。

ただしエモーション時にしか使えない上、範囲も狭い。

「・・・反応がない。 つまりオレ達の近くにはいないってことか」

その事実を知った時、ライカが突如叫ぶ。

「まさか! あたし達が分身体と戦っている間に、地下施設に戻ったの!!」

ウォークはこの島にはいるが、自分達のそばにはいない。

この事実から、ウォークが地下施設へと戻ったことは明白であった。

「何!?・・・じゃあ、オレ達が戦っていた分身体はおとりか!!」

「たっ大変です!! まだ中には夜光さん達がいらっしゃるのに!!」

ルドは急いでセリアにこう言う。

「セリアはセリナのことを頼む。 オレとライカで行ってくる!!」

「わわわかりました! おっお気を付けて!」

動けないセリナをセリアに任せ、ルドとライカは再び地下施設へと走って行った。


その頃、夜光とスノーラのマインドブレスレットを探していた女神、きな子、マナの3人は・・・

「・・・この部屋ですね」

マインドブレスレットのエネルギー源である女神石の波動を感じ取った女神の案内で、鍵の掛かった部屋の前までたどり着いていた。

「間違いありません。 この部屋の中に夜光さんとスノーラさんのマインドブレスレットがあります」

女神の確信を聞いて、きな子は女神のリュックから小さな機械を取り出した。

マナは気になって、きな子に尋ねる。

「きな子様。 それはなんですか?」

「これか? これはウチが作った超小型爆弾や。 ちっこいけど、ドアが吹き飛ぶくらいの威力はあるで?」

そう説明しながら、きな子は爆弾を部屋のドアに取り付ける。

「そっそんな危ない物を持っていて大丈夫なんですか!?」

「大丈夫や。 ウチの発明は安全と長持ちが売りやからな。 それに、もしなんかの拍子で爆発しても、ケガすんのは女神様やし」

きな子の無責任な発言に女神は泣き出す。

「うぅぅぅ・・・その無責任さで何回死にそうな目にあったか」

「・・・(経験あったんだ)」

「ほら2人共、危ないから下がり!」

女神達はドアから少し離れ、爆弾が爆発した後、再び部屋の前まで来た。


ドアは完全に破壊されており、ラッキーなことに、部屋には誰もいなかったが、部屋の中はガラクタの山で溢れていた。

「この中から探すのは、時間が掛かりそうですね」

心配そうなマナの肩にそっと手を置く女神。

「大丈夫です。 ここまで近づけば、私の力でなんとかなります」

女神はそういうと、手を合わせ、祈るような声でこう言う。

「・・・女神の祝福を受けた心の証よ。 今一度目覚め、主の元へ向かいなさい」

すると、ガラクタの中から2つのマインドブレスレットが浮かび上がった。

「こっこれが女神様の力」

神秘的な光景に、驚くしかないマナ。

そして、浮かび上がったマインドブレスレットは、そのまま

「ふぎゃ!!」

女神の顔に直撃し、そのままいずこかへと飛び去っていった。

「な・・・なんで?」

意味もなく倒された女神に、きな子が一言。

「・・・嫌われてんのと違う?」

「う・・・うぇぇぇん!!」

女神の泣き声が辺りを包んだのであった・・・

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