第31話 水着披露会

初めてのカウンセリングで、メンバーとろくな話ができなかった夜光。

スノーラとのカウンセリングで、メンバー達が1週間後にあるシーサイドイベントに向けて水着を買うことを知った時、夜光の頭に誠児と水着を買う約束と”ある予感”が横切った。


カウンセリングを終えた翌日のこと。

夜光は誠児と共に1週間後にあるシーサイドイベントのための水着を買うために、近くの洋服専門店に来ていた。

「はぁ・・・男2人で水着を買うのがこんなにつまらないことだとは思わなかった」

誠児と水着を選んでいる夜光が不満気にこぼす。

「そう落ち込むなよ。 海で水着の美女が待ってるぞ?」

誠児は夜光が最も楽しみにしている言葉で、夜光のモチベーションを上げようとしていた。

「そうだな・・・せっかくの海だし、水着美女に取り囲まれてハーレムを満喫したいもんだ」

夜光の言葉に少し引っかかった誠児。

「意外だな。 お前はもうハーレムを満喫していると思ったんだが」

「それってマイコミの奴らのことか?」

夜光が担当しているデイケアプログラム【マインドコミュニケーション】はメンバーは全員スタイル抜群の美少女だ。

「あぁ。 それにお前気付いてるんだろ? ”彼女たちがお前のことを好きだってこと”」

誠児がさりげなく発したとんでもない質問に夜光は驚きもせずに答える。

「それくらい気付くに決まってんだろ? ラブコメの鈍感主人公じゃあるまいし、あんなにわかりやすい態度を見てたら気づくっての」

実は、メンバー5人の中でセリア、セリナ、ライカ、ルドの4人は夜光に好意を抱いている。

夜光はこの手の話には鋭い方なので、4人の接し方や態度ですぐに気付いた。

「だと思った・・・それで? お前の本命はいるのか?」

「本命ねぇ・・・セリアはいいやつだとは思うがなんかぱっとしない。セリナは明るいがアホ。

ライカはちょろいが口が悪い。 ルドは乳は認めるが嫉妬深い。 ついでにスノーラは頼りになるとは思うが真面目過ぎ・・・あんまり本命らしいのはいないな」 

夜光の何様だと思う感想に誠児はため息をつく。

「お前なぁ、そんなことばかり言ってるから婚期を逃しているんだぞ?」

まるで親のような説教に夜光はまっすぐに反論する。

「今逃したくないのは婚期より水着美女だ! だいたい俺はまだまだ遊びたいんでな。 恋愛だの結婚だのに興味はねぇよ」

「・・・そうかよ」

呆れた誠児が話を終えようとした時、その態度が納得できない夜光がこんなことを言い始める。

「そもそも毎日ラブレターをもらったり告白されたりしているようなリア充には言われたくねぇよ!」

見た目も性格も悪い夜光と違い、誠児は顔が良いだけでなく性格も真面目で優しいので、ホームスタッフはもちろん、デイケアや就労の女性達、近所の女の子からも大人気なのである。

「おまけに全部断りやがって! お前こそ婚期逃してんじゃねぇか?」

「俺には精神科医師になる夢があるからな。 今はそれで手一杯なんだよ。それに俺はたくさんの人たちの役に立てるなら、婚期なんて一生なくてもいいよ」

「そんなんだから34になっても童貞のままなんだよ!」

「・・・ほっとけ」

互いの結婚に対しての微妙な価値観の違いを知った後、2人は水着選びに戻った。


そして1時間におよぶ水着選びの結果、夜光は紺色の海パン、誠児は緑色の海パンを選んだ。


水着を買って店を出た直後に、2人はあるグループと目が合った。

「「「「「「「・・・あっ」」」」」」」

それはマイコミメンバーだった。

「夜光さん、誠児さん。 どうしてここに?」

スノーラの質問に誠児が返す。

「俺達は水着を買いに来てね、今ちょうど買い終わったんだ。 君達も水着を買いに来たのかい?」

「えっと・・・そう! ここの水着は最近女の子に人気があるって評判の店だからみんなで来たんだ!」

セリナはどうやらなぜここに来たのか忘れていたようなので、慌ててメモを見返した。

そのセリナの後ろから、嫌そうな顔をしたルドがスノーラに尋ねる。

「・・・なあ、スノーラ。 やっぱりオレも女物を着ないといけないか?」

「ルド・・・いくら障害があるとはいえ、公共でのルールは守らなくてはならん」

「・・・そうだよな」

ルドは体は女性だが心は男の性同一性障害である。

なので女物の水着には抵抗があるが、かといって男物の水着では笑騎のような男を喜ばせることになる。

そうはわかっていても抵抗感はなくならない。

このままではルドが海を楽しめないと思った誠児が夜光を肘でつついて合図する。

「・・・(ったく)」

合図に気付いた夜光は独り言のように呟く。

「ルドの水着かぁ。ちょっと拝んでみたいもんだぜ」

それを聞くとルドはもじもじしながら尋ねる。

「・・・あっ兄貴はその・・・オレに女物の水着を着てほしいのか?」

「まあな。 お前の水着姿を見れたらうれしくて涙が出るかもな」

などと冗談半分でルドの心を揺さぶる夜光。

「(女物を着るのは嫌だけど、兄貴が喜んでくれるなら・・・)」

ルドは夜光を喜ばせたい思いで決心した。

「ま・・・まあそこまで言うなら仕方ねぇな みんなさっさと行こうぜ」

少し赤面しながらもルドは店に入っていった。

ルドが店に入ると、こっそりスノーラが夜光に近づき、耳元で「ありがとうございます」とささやいてきた。

どうやら夜光と誠児の意志に気付いていたようだ。

お礼を言うとセリアも「失礼します」といって店に入った。

それを追うようにライカも入っていくが、夜光とすれ違い様にジトっとした目で睨みつけ「死ね」と一言漏らした。

「(可愛くねぇガキだ)」

嫉妬による発言だと理解はしているが、むかつくことに変わりはない。

セリナも店に入ろうとしたが、突然立ち止まり、夜光に視線を向け「ねぇ、夜光。 ちょっといい?」と声を掛けてきた。

「なんだ?」

「私、水着選びに自信がないんだ。 だから夜光が手伝ってくれない?」

それを聞き、セリアが慌てて静止する。

「おっお姉様。 そ・・・それはあまりよくないとおも・・・思います」

夜光が選ぶということは、水着ショップに夜光が入るということだ。

それも女性水着を販売している店に男の夜光が入っては店もほかのメンバーも驚くくらいでは済まないかもしれない。

「えっ? なんで?」

そんなマナーを世間知らずなセリナが理解しているはずもなく、仕方なく夜光が断ろうと口を開いた。

「セリナ。 女物の水着ショップに行きたいのは山々だが・・・っておいっ!」

「それならう行こうよ!」

夜光の話を最後まで聞かずに、夜光の腕を引っ張るセリナ。

「馬鹿! 話を最後まで聞けよ!」

止めようとはするが、セリナは聞いておらず、夜光と共に店に入っていく。

「お姉様!」

セリアも慌てて後を追う。

連れていかれる夜光を見守っていた誠児は笑顔で夜光に手を振る。

「じゃあ夜光。俺は先に帰っているからな」

「おいっ! テメェ! 何を軽く見捨ててんだよ!!」

巻き込まれたくない誠児は、逃げるようにその場を後にした。



店内に入ると、夜光は先ほどの男性用ではなく女性用水着が売ってあるエリアに連れてこられた。

先の入ったスノーラ達はすでに水着選びをしていた。

そこへいるはずのない夜光が目に入ると、当然驚いた。

「やっ夜光さん! どうしてここに!?」

スノーラの当然の疑問に夜光はだるそうに「こいつに聞け」とセリナに説明を任せた。

「夜光に水着選びを手伝ってもらおうと思って連れてきたんだ!」

「そのようなことなら私がいたしましたのに」

「ううん。 スノーラちゃん達は自分達の水着に集中していて! 私は夜光と選ぶから」

セリナなりの気遣いだと思ったルドは

「オレは別にいいぜ。 どのみち恥ずかしいことは変わらないし」

あっさり承認した。

それに続いてセリアも「わ・・・私も構いません。 少し恥ずかしいですが」と夜光がいることを認めてくれた。

しかしここでライカが怒鳴る。

「冗談じゃないわよ! 男がいるっていうのに水着選びなんかできる訳ないでしょうが!! しかもよりによってこんな変態親父」

ライカの言うことは最もであるが、言い方が気に入らない夜光は挑発するような言葉を発する。

「心配するな。 お前のたるんだ腹なんぞ見たくもねぇ」

最近、お腹回りが気になっているライカにとっては大きな言葉だった。

「だっ! 誰がたるんだ腹よ!!」

「あぁ、悪い。間違えた。 ぶよぶよのたるんだ腹だったな」

「いっ言わせておけば!」

夜光の挑発に完全に血が上ったライカは売り言葉に買い言葉となってしまう。

「いいわよ! そこまで言うならあんたにあたしの完璧なスタイルを拝ませてやるわ!」

自らの水着姿でお腹がたるんでいないことを証明しようと水着選びに集中し始めた。

その結果、5人中4人が認めた今、出ていけとも言えなくなったスノーラは「仕方ありませんね」と認めざるおえなかった。

「よくわかんないけど、とりあえず一緒に選ぼう!」

「わかったから引っ張るな!」

状況を理解できていないセリナと共に、

周りの女性客の視線を気にしながら夜光は水着選びに専念した。



水着選びを始めて1時間半後・・・

それぞれ選んだ水着を試着するために全員試着室に入り、着替えることにした。


試着室の前で待つこと10分、なぜか水着の審査をすることになった夜光。

「お待たせ! 夜光」

明るい声と共に出てきたセリナ。

水着は、左胸に猫の絵がプリントされている上下黄色のビキニだった。

普段の言動で幼く見えるセリナだが、その体は18歳の少女とは思えないほど発育が良い。

少しお腹がぽっこりしているが、それもかなり魅力的だ。

「なかなかのもんだな。 さすが俺が選んだ水着だ」

「ぶー! 私も選んだもん!」

頬を膨らませて怒るセリナをよそに、次のメンバーが出てきた。

「あの・・・着替えました」

もじもじしながら出てきたのはセリアだった。

水着はあまり派手なものは好かないので、シンプルな白いビキニ。

こちらもセリナと同じく、17歳とは思えないほどのスタイルであり、わずかだがセリナより胸が大きい。

「似合ってんじゃねぇか(地味だが・・)」

夜光の言葉に思わず顔を赤くし、「あ・・・ありがとうございます」と深々と頭を下げてお礼を言うセリア。

そこへセリアから見て向かいの試着室からスノーラが現れた。

一見胸を張って堂々としているように見えるが、顔に若干恥ずかしさが残っている。

そんな彼女の水着は、青と白のボーダーが特徴的なワンピース。

体のラインがはっきりわかるため、その抜群のスタイルが印象的になっている。

「ワンピースか。 俺はどっちかって言うとビキニ派なんだよな」

夜光はビキニでないスノーラにがっかりするが、内心スタイルには驚いていた。

「あなたの趣味に興味はありません!」

恥ずかしさ故か、いつもより少し口調が荒いスノーラ。

そんなスノーラの隣の試着室のドアが唐突に開いた。

「待たせたわね」

そこから現れたのは紫のビキニを着たライカだった。

「どう? あたしの完璧なスタイルは」

ライカの水着は、セリナ達と比べて若干面積が少ないため、その豊満な胸とくびれた腰を強調している。

「ほう、 良い体しているな。ここは素直に驚いてやる。 次はヌードを期待してるぜ」

夜光は冗談混じりで褒めたつもりであったが、ライカは真に受けて

「はあ!? なんであんたにヌードを披露しないといけないのよ!! このスケベ! 変態!!」

「わかったわかった」

暴走するライカを夜光が軽く受け流した時だった。

「兄貴~」

ライカの隣の試着室からルドが夜光を呼ぶ声がした。

声にはあまり元気がないため、夜光は試着室の前まで近づいた。

「なんだよ。なんかあったのか?」

呼びかけるとルドがドアの隙間から顔を出した。

「オレやっぱ恥ずかしいよ。 こんな格好で人前に出るなんて」

ルドは水着を着たまではよかったが、いざ人前に出ようとすると恥ずかしくなってしまい、尻込みしてしまったのだ。

「ったく、ここまで来ておじげづくなよ。 男らしく堂々とすればいいんだよ!堂々と!」

夜光に続き、スノーラもルドに優しく声を掛ける。

「ルド。ここには我々しかいないし、近くにはほかの客はいない。 夜光さんの言う通り、堂々と出てくれば良い」

「・・・わっわかったよ」

2人の励ましでようやく出てきたルドに、全員に衝撃が走る。

「な・・・なんだよみんな」

ルドの水着は黒いビキニであった。これといって水着に特徴はないが、全員が注目したのはルドの胸だった。

笑騎の調べではメンバーのバストサイズの平均は約90センチという。

しかしルドはほかの4人とは明らかに規格外であった。

「(小屋では暗くてよく見えなかったけど、改めて見るとすごいな)」

夜光は以前ドープの森でルドの胸を見たことがある。

その時は暗かったため、あまりよく見えていなかったのだが、明るい場所で見るとやはり違う。

「(ルドの胸は何度か見たことはあるが、やはりこの大きさは慣れない)」

長い付き合いであるスノーラでさえ、ルドの胸の大きさには驚きを隠せない。

沈黙の中、セリナがルドの胸を見ながら叫んだ。

「うわっ! ルドちゃんおっぱいデカッ! 私やセリアちゃんより大きいんじゃない!?」

セリナのストレートな感想にルドはきょとんとして

「そ・・・そうなのか? 自分じゃよくわからないけど」

自分の胸の大きさを自覚していないルドにライカが嫉妬した。

「普段から男だ男だって言ってるくせに、なに女以上のものを持ってんのよ!」

「なっ何怒ってんだよ!?」

状況が呑み込めないルドにセリアがこんな質問をぶつけてきた。

「・・・ルドさん。 どうしてそれほど胸が大きくなったのですか?」

「「「「「・・・えっ!?」」」」」」

セリアの意外な質問にセリア以外の全員が驚いた。

「あっいや、別にオレはなんにもしていないんだけど」

心当たりのないルドにはそう答えるしかなかった。


セリアの意外な質問に驚いたおかげで全員冷静になった時だった。

「・・・えっ?」 

なんとルドの上の水着のひもが外れてしまい、床に落ちてしまった。

「あっ! やばっ!」

生の胸をさらしてしまったルド。

水着という抑えがなくなった実物は、先ほどより大きく見えた。

しかしルドは、特に恥ずかし気も見せずに落ちた水着を拾おうとする。

「おいおい、気を付けろよ」

女慣れしている夜光もルドがトップレス姿になっても至って冷静だった。

しかし、ほかのメンバーがこの状況で動揺しない訳がない。

「ルド!! 早く水着を着ろ!!」

「この馬鹿!! なに見てんのよ!!」

「夜光! 見ちゃダメだよ!!」

「目を閉じてください!」

4人は急いで夜光の目を塞ぐごうと夜光に飛び掛かる。

「馬鹿! 押すな!」

夜光は4人の重みでルドの方へと倒れる。

「えっ? ちょっと!!」

その結果、ルドも巻き込んで倒れてしまった。

「いててて。 いったいなにが・・・って兄貴!!」

ルドの胸の上で、夜光が苦しそうにうめき声を上げながらもがいていた。

倒れたひょうしに夜光はルドの胸の顔を押し付けられたように倒れてしまったのだ。

ルドの規格外の胸で今にも窒息しそうなのだが、夜光の上にセリア達が乗っかているために起き上がれない。

「みんな!早く降りてくれ! なんか兄貴が苦しそうだ!」


ルドの呼びかけでようやく夜光の上から離れた4人。

おかげで窒息はまぬがれたが、夜光はご立腹だった。

「いきなりなにしやがる!! もう少しで窒息するとこだったぞ!!」

「あんたが目を閉じないのが悪いんでしょ!?」

ライカが代表で4人が飛びついた訳を言う。

「はあ!? お前らそれくらいで・・・」

夜光とメンバーの言い争いが始まると思いきや

「ちょっと失礼」

突然6人に声を掛けられた。

声の方向に視線を向けると、そこにいたのは騎士団だった。

「なっなんだよ!? いきなり!!」

騎士団は夜光に近づくと同時に両手に手錠を掛け、ここへ来た目的を話した。

「先ほど、この店の店員から怪しい男がうろついているという通報を受けましてね。

来てみたら、君がこの少女たちに淫らな行為に及んでいたので逮捕したのだ」

「はっ!? ちょっちょっと待て! 俺はむしろ被害者だ!!」

「言い訳は本部でゆっくり聞いてやる」

聞く耳持たない騎士団員は夜光を連行しようとする。

「おいっ! お前らなんとか言え!・・・ってあれ?」

セリア達はなぜか突然試着室に入り、スノーラが顔だけ出しながらこう言う。

「すみません! この格好では恥ずかしくて・・・」

どうやらメンバーは大勢の騎士団に水着姿を見られるのが恥ずかしいため試着室から出られないようだ。

「お前らふざけんな!! 出てこい!!」

「「「「「・・・」」」」」

そう叫んでも出てくる様子はなく、夜光はそのまま騎士団に引きづられていった。

「離せぇぇぇ!! 俺は無実だぁぁぁ!!」

むなしく店内に響く夜光の叫びは、メンバーの心には届かなかった・・・

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