第29話 愛の剣

夜光の機転?によって、影の1人であるレオスに一矢報いることができた。ルドも両親に自分の生き方を認めてもらい、一件落着に終わった。


それから数日、夜光達はホーム演劇会に備えて練習を重ねていった・・・


そして本番当日・・・

ホーム内のイベントホールではスタッフ達がテーブルや椅子を設置し、そこにお菓子や飲み物が並べていた。

このイベントは前半はマイコミの演劇発表会、後半はスタッフと客の交流会となっている。

と言っても、客はスタッフを除けばデイケアメンバーか就労訓練生のみとなっている。


その舞台の裏で、夜光達は最終的な打ち合わせを行っていた・・・

「うぅぅぅ・・・きっ緊張してきたよぉぉぉ」

舞台袖で弱音を吐くセリナに、スノーラは優しく緊張をほぐす。

「セリナ様。 練習通りにすれば大丈夫ですし、いざとなれば我々がフォローします。ですからそんなに緊張しないでください」

「うぅぅぅ。 ありがとうスノーラちゃん」

まるで母に甘える幼子のようにスノーラの胸の中で感謝するセリナであった。


舞台袖にある音響室では、セリアがナレーションの練習をしていた。

セリアには魔王の子分役があるが、出番もセリフもほとんどないので、空席だったナレーター役を任せた。

人とのコミュニケーションは苦手なセリアだが、人と対峙しないナレーションは思ったほど抵抗感はなかった。

「まっ魔王はセリナ姫をさらうと、そのまま空高く飛んでいきました!」

セリアの横で台本を見ていたルドが、セリアのナレーションに口を出す。

「なあセリア。頑張るのはいいけど、無理に大きな声を出してたらのどを痛めるんじゃねぇか?」

「でっですが、私はその・・・あまり声は大きくありませんし・・・」

確かにセリアの声は大きくはない。マイクがあっても若干聞き取りにくくはある。

ルドは元気付けるためセリアの肩に手を乗せ、笑顔でこう言う。

「そんなこと気にすんなって。ホール内は結構響くし、聞こえなかったらオレらが演技でなんとかすればいいだけだ!」

「あっありがとうございます」

「礼なんていいって・・・それに一番の不安要素があそこにいるしな」

ルドが視線を向けた先には、ダルそうに大あくびをする夜光と鬼のような形相で夜光を叱るライカの姿があった。


「あんたねぇ! いい加減にしなさいよ! 毎回毎回寝坊するわ! 台本を忘れるわ! 練習をさぼろうとするわ! あげくに本番当日に二日酔いなんて!」

夜光は頭痛がひどいのか頭を抑えながら、

「でかい声出すな!! 頭に響くだろ!!」

とライカ以上に大きな声で訴えた。

「自業自得でしょ!? あんたは仮にもスタッフなんだから、もうちょっとやる気だしたらどうなの!?」

ライカの説教など聞く耳持たない夜光はその場で寝転び、そばにあった衣装用の布をグルグル巻きにして枕代わりにし、

「とにかく俺は頭が痛いから寝る!誰も起こすな!」

二日酔いに耐えかねた夜光が身勝手に寝ようとするが、当然ライカがそれを許すはずもなく

「寝るなー!!」

ライカの怒りの蹴りによって、さらなる頭痛と共に目覚めた夜光はその後、演劇会が始めるまでみっちり練習させられたのだった・・


その2時間後、ホール内には多くの者が集まり、スタッフは席の誘導に大忙し、舞台裏では夜光達が衣装に着替えて、それぞれの持ち場につく。


そしていよいよ舞台の幕が上がった。


ある所にマイコミ王国という大きな国がありました。

マイコミ王国には、この世で最も美しいとされるセリナ姫がいます。

その美しさに惹かれて、あちこちの国の王子がセリナ姫に求婚を申し入れましたが、セリナ姫はそれらの求婚をすべて断ってきました。

その理由は、幼馴染の少年ライカの存在があったからだ。

ライカとセリナは幼い頃から仲が良く、いつしかお互いに惹かれ合っていました。

しかしセリナの父、ルド王は2人の仲を決して認めませんでした。

セリナはマイコミ王国の姫君、対するライカはルド王に仕える使用人の息子。

2人の愛は身分の壁によって1つになることができませんでした・・・


ある日、セリナ姫が城の庭を散歩していた時だった。

「ここにいたか。 セリナ。探したぞ」

ルド王がセリナの元を訪れた

「お父様。 どうしたのですか?」

「お前に紹介したい方がいるんだ」

すると、ルド王の後ろから1人の王子が現れた。

「ホーム国王の息子、スノーラ王子だ」

スノーラ王子は片膝を着き、ゆっくり頭を下げた。

「ごきげんよう。セリナ姫。 噂以上の美しいお方だ」

「あの、ホーム国の王子様が私にどのような御用で?」

ルド王に尋ねると、ルドははっきりとした口調でこう告げた。

「セリナよ。 お前はこのスノーラ王子と結婚するのだ」

ルド王の言葉に、セリナ姫は驚きを隠せなかった。

「そっそんな! 私はどなたとも結婚しないと申したはずです!」

それを聞くと、ルド王は厳しい目になり、少し強い口調になった

「セリナ。 お前とスノーラ王子が結婚すれば、両国の信頼は強まり、それはいずれ国の発展にもつながるだろう。 この結婚はお前の幸せだけでなく、この国の未来が掛かっているのだぞ!?」

「ですが私は・・・」

セリナが口ごもると、ルド王は激しい口調でセリナに語り掛ける。

「ライカのことなら忘れろ! あんな身分の低い者にお前を幸せにする力などない!」

スノーラも立ち上がり、微笑しながら

「ルド王から話は聞いています。 なんでも使用人の息子に想いを寄せているとか。ですが、ルド王の言う通り、そんな平民風情にセリナ姫を幸せにすることなどできません」

ライカのことを完全に見下していた。

そんなスノーラ王子にセリナ姫は怒りを覚えた。

「彼のことをそのようにおっしゃらないでください!!」

セリナ姫は怒りの言葉と共に、城へと走っていった。


自室に戻ったセリナ姫は、1人ベッドに腰かけて、物思いにふけていた。

「・・・どうすれば、お父様にわかっていただけるの?」

するとそこへ、自室のドアをノックする音がした。

「どなたですか?」

「・・・セリナ。僕だ」

ドアの向こうから聞こえた声で、セリナ姫の表情は明るくなりました。

ドアを開けると、ボロボロの服を着た少年ライカが立っていた。

「ライカ。突然どうしたの?」

「スノーラ王子とのことを聞いてね。 セリナのことが心配になったんだ」

「心配かけてごめんなさい。 でも私はスノーラ王子とは結婚しないわ。

私が愛しているのはあなただけだもの」

「セリナ・・・」

2人が互いの愛を確かめあっていた時だった。

「取り込み中悪いな」

部屋に響く男の声。

もちろん、ここにはライカとセリナしかいない。

「誰だ!?」

「はっはっはっ!!」

笑い声と共に現れた黒いマントを羽織った男。

「初めまして、セリナ姫。 俺様は夜光。この世を支配する魔王だ!」

ライカはセリナを庇いながら問う。

「魔王がなんの用だ!?」

「くっくっく。 俺様がここに来た目的はただ1つ。セリナ姫を我が妻に迎えるためだ!」

「なんだと!? そんなことは僕が許さない!!」

「ほざくな!! 虫ケラが!!」

夜光は手から衝撃波を放ち、ライカを壁に叩きつけた。

「ライカ!!」

「うっ」

倒れたライカに夜光はとどめをさそうと歩み寄る。

「やめてください!!」

ライカを庇うために立ちふさがったセリナは、涙ながらに懇願する。

「あなたの妻になります!! ですからどうかライカに手を出さないで!!」

セリナ姫の言葉にライカは驚きのあまり叫ぶ。

「セリナ!何を言っているんだ!?」

夜光はセリナ姫のあごを持ち上げ、

「くくく。 いいだろう。お前の要望通り、こいつを殺すのはやめておこう。

その代わり、貴様は今宵から我が妻だ」

「・・・はい」

セリナはうっすら涙を流し、

「・・・元気でね。ライカ」

そう言い残すと、セリナ姫は夜光と共に消えた。

「セリナぁぁぁ!!」


セリナ姫が魔王夜光に拉致されたことは、すぐさま国中に広まった。

ルド王はスノーラ王子と共に、100人以上の兵士を連れて、夜光の住む魔王城へと馬を走らせた。

そしてライカも、騎士であった祖父の形見の剣を手に、魔王城へと向かった。


ライカが国を出てから3週間が経過したある日、偶然スノーラ王子と鉢合わせになった。

「・・・平民。 ここで何をしている」

見下したような目でライカを見るスノーラ王子。

「僕はセリナを助けにいく。 それだけだ」

それを聞き、スノーラ王子は大笑いした。

「助けにいく? そんな古びた剣しか持たない貴様に何ができる?貴様のような汚い平民風情が魔王に勝てるわけがないであろう。君のような貧乏な平民には泥にまみれて農を耕すのがお似合いだ!」

「確かに僕は農を耕すことしかできない平民です。あなたとはなにもかもが違う。ですが、姫を愛する想いだけは誰にも負けません!!たとえこの命を失ったとしても、愛するセリナのためなら本望だ!」

ライカの強いまなざしに、スノーラは心の中で圧倒された。

「ふんっ! 口だけならなんとでも言えるわ!」

スノーラ王子はその場を後にした。


そしてついに魔王城へとたどり着いたライカ。

そこにはすでにスノーラ王子とルド王の軍隊が魔王夜光の部下である悪魔セリアと交戦していた。

「たった1匹の悪魔に我が軍隊が手も足も出せないなんて・・・」

100人以上いた兵士が、セリアの魔法の前に次々と敗れていき、気づいた時にはルド王とスノーラ王子の2人だけになっていた。

「お・・・終わりだ」

スノーラはすでに戦意を喪失していた。

「おのれ魔王め! セリナを返せ!」

ルド王の怒りのまま発した言葉を、セリアの後ろでほくそ笑んでいる夜光にぶつけた。

「返してほしければ力づくで奪い返してみろ! まあ貴様らの命が持てばの話だがな。

はーっはっはっは!!」

夜光が挑発めいたセリフを口にしたときだった。

「魔王夜光!!」

そこへ現れたライカ。

「セリナを返してもらうぞ!!」

剣を握って魔王に挑もうとしている姿をセリア嘲笑う。

「そ・・・そんな古びた剣で我がま・・・魔王様に立てつくとはおろっ愚かな人間だ」

「僕はセリナを助ける! それだけだ!」

ライカは勢いよく突進し、剣を振り下ろすが、

「遅い!!」

夜光が魔法の風で吹き飛ばされたライカ。

その勢いで剣を落としてしまい、剣が折れてしまった。

「どうした小僧? 俺様からセリナを助けるのだろう?」

夜光の見下した言葉に、悔し涙を流すライカ。

だがそれでも剣を構え、立ち上がる

「僕はあきらめない・・・僕の中にあるセリナへの愛がある限り、僕は戦う!」

「折れた剣でなにができる!? 大人しくあの世に行け!!」

夜光がとどめを刺そうと魔力を手に集中したとき、突然ライカの剣が光った。

「な・・・なんだその光は!?」

夜光とセリアは思わず手で目を庇う。

「・・・お前が魔法で戦うなら、僕は愛の剣でお前を倒す!!」

「愛だと!? そんなもんに俺様の魔法が負ける訳がねぇだろ!!」

夜光が全魔力を込めた塊をライカ目掛けて放った。

「はあ!!」

ライカは魔力の塊を愛の剣のによって断ち切った。

「なんだと!?」

己の魔力を折れた剣で斬られたことに動揺する夜光。

その一瞬の隙をライカは見逃さず

「たあ!!」

すばやく夜光の懐に入り、夜光とセリアを斬った。

「う・・・うわぁぁぁ」

「馬鹿な!! この魔王夜光がこんな人間の小僧にぃぃぃ!!」

夜光とセリアは光と共に消滅した。

「勝った・・・のか?」

勝利の実感を感じられないライカの元に

「ライカ!」

囚われていたセリナが現れた。

2人は固く抱きしめ合い、互いの無事を喜んだ。

「ライカ。 もう会えないと思っていたわ」

「セリナ・・・本当に無事でよかった」

2人は時間を忘れ、しばらく抱きしめ合った。

その光景を見ていたスノーラ王子は

「・・・どうやら、私はセリナ姫にふさわしくないようだ」

2人固い絆に入る隙はないと確信し、身を引く同時にその場を後にした。


それからライカは、セリナ姫を助け出した功績を称え、ルド王にセリナとの結婚を認められたのだ。

「君のように愛にあふれた男ならセリナを任せられる。 娘を頼んだぞ?」

「・・・はいっ!!」


それからまもなく2人は結婚し、いつまでも幸せに暮らしました・・・終わり。


舞台の幕が降りた瞬間、客席からたくさんの拍手が喝采した。


舞台が終わり、夜光達はそのまま後半の交流会に参加し、一足早い打ち上げを始めた。

「「「「「お疲れ様でした!!」」」」」

乾杯と共に、夜光以外のメンバーはあらかじめ用意していたジュースを豪快に飲み干した。

「夜光もこっちきてお菓子食べようよ。 とってもおいしいよ?」

セリナはスタッフ達からの差し入れのクッキーを摘まみながら、椅子にぐったりしている夜光に話しかけた。

「うるせぇ! 俺は酒とつまみしか受け付けてない!!」

まだ頭痛が治っていない夜光はイラ立ちでのあまり声を上げた。

「・・・それにしても、やっぱり俺が魔王役ってのは納得できない」

演劇会が終わっても、自分の役に文句を言う夜光にライカがにやつきながら

「よく言うわよ、 この中で一番ノリノリで演技してた癖に。 それに客席にいた何人かの子供があんたの迫力で泣いてたわよ? 案外天職なんじゃない?魔王」

「確かに。 あれは演技と言うより普段の兄貴そのものだった気がする」

間近で夜光の演技を見たルドでさえ、夜光の迫力に圧倒された。

「魔王ねぇ・・・いっそのこと闇鬼の力で世界征服でも始めるかな・・・」

あまりシャレにならない言葉を発する夜光であった。


一方セリナはスノーラにこんなことを聞いていた。

「ねぇ。 私、ちゃんと演技できたかな?」

セリナは記憶障害のため、演技中は最前列にいた誠児が持っていたカンペを見ながらセリフを話していた。

そのため、視線や顔の向きが変に傾いてしまうこともあったので、少々不安を感じていた。

「はい。 見事な演技でした。 これまで頑張ってきたかいがありましたね」

まるで母のようにセリナの頭をなでるスノーラに

「えへへ。 ありがとうスノーラちゃん! スノーラちゃんの王子様もカッコよかったよ!!」

と子供のようにはしゃぐセリナだった。

「ふふ。 ありがとうございます」

スノーラはふとテーブルの端で座っているセリアと視線が合い

「セリア様も見事な演技とナレーションでしたよ?」

「あ・・・ありがとうございます。 ええ演技はだめでしたが、ナレーションでは声をしっかり出せたと思います」

あまり自分を評価しないセリアにセリナは頬を膨らませた。

「セリアちゃん! 自分なんかダメって思うのはセリアちゃんの悪い癖だよ?

セリアちゃんは演技もナレーションもすごくよくできてたんだから、もっと嬉しく笑おうよ!」

「セリナ様の言う通りです。 セリア様。 あまり自分の評価を低くしてはいけません。

セリア様はご自分が思っている以上にしっかりしていることはここにいる誰もが知っています」

「・・・はい」

セリアの表情や声に少し明るさがあった。

それは、セリア自身の小さくとも確実な変化の現れなのかもしれない・・・

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