第27話 アスト対レオス
ルドの障害を治そうとルドの両親は強引にルドを結婚させようとした。
だが夜光とゴウマの説得、そしてルド自身の正直な気持ちを聞いた両親はルドの障害への認識を改めた。
そしてルドは、初恋の相手であったリーフに異種族の障害に対する認識を変えるために精神科医師になることを伝えたのであった
リーフの小屋を後にしたルドは、少し離れたところにいる夜光達と合流した。
「みんな、おまたせ」
ルドに気づいたセリナが「おかえり! ルドちゃん!」とルドの元へ突進する勢いで走っていくが・・・
「セリナ様。 危ないので走るのはおやめください」
とスノーラがセリナの服を掴み、捕獲した。
「ぶー! スノーラちゃんのあんぽんたん!」
「文句はあとで聞きます」
子供をあやすように、セリナをおとなしくさせたところで、ライカがルドに尋ねる。
「用事は終わった訳?」
「・・・あぁ。 もう終わった」
そこへセリアもルドの元へゆっくり近づき、
「あ・・・あの、おっお帰りなさい」
なんともか細い声でルドを迎えた。本人にとっては全力の出迎えと理解しているので、
ルドは笑顔で「あぁ。 ただいま」と返した。
その時ルドの視界に、おもしろくなさそうに木にもたれかかっている夜光が映った。
「・・・なんかふてくされてるけど、どうしたんだ?」
ルドがみんなに尋ねると、なぜかスノーラとライカがため息をついた。
「タバコが吸えずにイライラしているそうだ。どうにもライターがガス切れを起こしたらしい」
「いや、森の中って基本的に禁煙なんだけどな(小屋では吸ってたけど・・・)」
「あげくに、『酒が飲みたい!』だの『腹が減った!』だの言って、その辺の小屋に不法侵入しようとするから、止めるのに苦労したわ。全く、馬鹿のおもりも楽じゃないわね」
そこへセリナが手を上げながら割込み
「はいはい! 私『勝手に入っちゃダメ!』って注意したよ! えらいでしょ!?」
えっへんと胸を張って子供のように威張るセリナの横で
「(夜光さんは全く聞いていませんでしたけど・・・)」
姉の喜びを壊さないように事実を隠蔽するセリアであった・・・
「こんな短時間でよくそんな出来事が起こるな・・・」
ルドが呆れた顔をしてため息をついた時! 全員のマインドブレスレットから緊急コールが森に鳴り響いた。
緊急コールとは、夜光とマイコミメンバーにしか聞こえないアスト出動の音である。
夜光達はマインドブレスレットのカバーをスライドさせ、緊急コールパネルを押した。
すると、みなれた顔が画面に映る。
『美少女のみんな待ったか!? 未来のハーレム男! 笑騎や!』
その瞬間、夜光も含めた全員が画面を切った。
しかし、すぐさま通信が入り、画面に笑騎が映った。
『おいっ! なんで全員で通信切るねん!』
「お前が映ったからだ」
通信を切った理由をスノーラが代わりに言ってくれた。
『しゃーないやん! 親父がそっちにおるから俺が代理を務めてるんや!』
「じゃあさっさと用件を言って、その汚い顔を引っ込めなさい」
ライカがののしるように冷たく言い放つ。
『俺どんだけ嫌われとんねん・・・』
無理もない話だ。笑騎は日頃から女性にセクハラを繰り返すような卑劣な男。
ホームでは女性全員から一緒にいたくない男ナンバーと言われるほど、心の底から警戒されている。
笑騎はため息と共にテンションを下げ、説明を始めた。
『えっと・・・ホームの監視レーダーに影の反応があったらしいわ。場所はドープの森から東へ10キロ行ったとこにある、【ドープ山】や』
「【ドープ山】?」
山の名前にルドが反応した。それにいち早く気づいたスノーラが尋ねる。
「ルド。知っていいるのか?」
「あぁ。 ケンタウロス一族がよく鍛錬のために通っていた山だ。
でも最近、どっかの金持ちがリゾート施設を作るために勝手に山を開発しようとして、山のあちこちの木を無断で伐採をしているみたいなんだ」
それを聞き、セリナがなんとも可愛らしい怒りの表情を見せた。
「勝手に木を切るなんて許せないよ!! みんなでビシっと注意しに行こうよ!」
怒るセリナにスノーラがなだめるように
「セリナ様。 お怒りは最もですが、今は影が先です。そのことはあとにしましょう」
「わかった! 影をやっつけに行こ!」
単純なセリナの説得は簡単だったが、やっかいなのがもう1名・・・
「・・・あの、夜光さん。みなさんその・・・影の所へ向かうようですけど・・・」
夜光はあからさまに出撃するような態度ではなかったため、セリアが心配して声を掛けた。
「知るか! なんで遠くにいる敵をわざわざこっちから出迎えなきゃならねぇんだよ!!
俺はパス!!」
夜光はそのままそっぽ向いて寝転んだ。
どうやら、タバコも酒も食べ物もないこの状況にイラつきを覚えたようだ。
それを見かねたライカとルドが夜光に近づき、夜光の腕を片方ずつ掴み
「「さっさと来い!!」」
と思いっきり腕を引っ張り、夜光を強引に連れ出した。
夜光は抵抗する気も起きなかった。
エモーションを見られないように、5人は茂みの多い木の影に隠れることにした。
夜光以外の5人はマインドブレスレットの【エモーションパネル】を押し、『リンク!』『エモーション!』の音声と共に、アストを装着した。
しかし強引に連れてこられた夜光は今だにダルそうに地面に寝転がっていた。
夜光を連れていかない訳にもいかないスノーラは夜光に優しく声を掛ける。
「夜光さん。面倒事かもしれませんが、これはアストに選ばれた我々の使命です。
どうか一緒に戦ってくれませんか?」
スノーラの方へ視線を向けた夜光は、なぜか目を細めてこう言った。
「・・・そういうセリフはさ。銃を向けて言うことじゃないと思うんだがな」
夜光の視線の先には、アストの標準装備であるシェアガンを構えていたスノーラがいた。
「こうでもしないと、あなたは私の話を聞かないと思いまして・・・一緒に来て頂けますよね?」
悪意のない脅迫のような言葉を並べるスノーラ。
「(・・・このままだと本気で2、3発くらい撃ってくるな、こいつ)」
夜光はやむを得ず立ち上がり、エモーションした。
「わかったよ。行けばいいんだろ? 行けば」
「ありがとうございます」
なんともしらじらしいお礼を言ったスノーラはシェアガンをしまったホルスターに収めた。
そして、夜光達はマインドブレスレットの【イーグルパネル】を押し、アスト専用移動メカ【イーグル】を呼んだ。
しばらくして空の彼方から飛んできたイーグル6機はそれぞれの持ち主の前に着陸した。
夜光達はイーグルに乗り、影が現れた【ドープ山】へ飛んだ。
その頃ドープ山では・・・
「助けてくれぇぇぇ!!」
「こっ殺される!!」
叫びながら逃げているのは作業着を着た大勢の人間だった。
それは、ルドの話にあった金持ちに雇われた作業員達だった。
彼らが逃げた作業場には、伐採された木々と無数の伐採道具が転がっていた。
ただし、ケガ人や死亡者はいない。全員山から逃げられたようだ。
その作業場に1人の大きな男がいた・・・
「・・・どうやらもう残っている人間はいないようだな」
辺りに誰もいないことを確認する男、影のメンバーの1人レオスだ。
レオスはライオンのようなプレートアーマーを装着していた。
そのアーマーはアストとは比べ物にならないほどの分厚い金属のような物体に覆われている。
その上、彼自身の尋常ではない筋肉のため、アーマーもかなり大型だ。
「よっと!」
確認を終えたレオスは、伐採された木を軽々持ち上げ
「ふんっ!」
切られた木の幹の上に元通りに置くと、
「はぁぁぁ!!」
レオスの両手から、強い精神力が木に流れていく。
すると、切られた部分がどんどん繋がっていき、1分も経たないうちにその木は完全に復活した。
「よし。 これで大丈夫だな」
レオスはその動作を繰り返していき、伐採された木をどんどん復活させていき、ついには伐採された木々を
すべて復活させた。
「終わったか・・・くっ!」
レオスはその場に膝をついた。
「精神力を使い過ぎたか・・・ここ3日間100本以上の木に力を使っちまったからな。さすがの俺でもきついか・・・」
レオスがどうにか立ち上がり、この場を去ろうとした時だった。
「・・・んっ?」
上空に6つの人影が見えた。夜光達が到着したようだ。
「ほう。もしかして、あれがスコーダーを負かしたっていうアストか。 どうやら俺を探しているようだな・・・」
レオスは辺りを見渡しながら
「ここで戦うのはまずいな・・・」
そう呟くと、レオスは森の外へと走り出した。
森の外では、着陸した夜光達がイーグルを降りて戦闘準備に入っていた。
「この付近に影がいるのは間違いないのか?」
スノーラがマスクに内蔵されている通信機で笑騎に問いかける。
『レーダーによると、まだそこに反応があるで?』
「でもすっごく静かだよ?」
セリナの言う通り、辺りは至って静かで、スコーダーの時のようにどこかで火事が起こっている訳で
もない。
「そうね。死体の1つや2つくらい転がっていると思ったけど・・・なさそうね」
物騒なことを言うライカの隣で、セリアが気になることを口にした。
「で・・・ですが先ほど、大勢の方々とすっすれ違いましたよ?」
夜光達はここへ向かう途中で、大勢の人達が逃げるのを上空を通る際に見かけたのだ。
「多分伐採で雇われた作業員達だろうな。 作業着っぽい服を着てたし」
『ルドちゃんで正解やと思うで? ドープ山は人間の立ち入りを禁止しとるし』
その時だった!
警報音と共に、マスクの内部が赤くなった。
「なんだよこれ?」
夜光がうっとうしそうにマスクを叩いていると、通信の笑騎が大声で叫んだ。
『みんな! 気ぃつけや! 前方からどえらいもんが来るみたいやで!?』
夜光達は前方の森に視線を向けた。
すると森の中から強烈な威圧感と共に、大きな鎧を身にまとった大男が現れた。
「何者だ!?」
スノーラが強い口調で聞くと、大男は野太い声で答えた。
「俺か? 俺は影のメンバーの1人、レオスってもんだ。お前らがスコーダーを退けたアストって奴らか?」
「だったら何? あたし達に仕返しでもする?」
ライカが挑発を込めた質問をぶつけるが、レオスはぶっきらぼうに
「仕返しなんぞする気はねぇよ。 正々堂々やった勝負にケチをつけるほど野暮じゃねぇ」
「じゃあなんでわざわざオレ達の所に来たんだ?」
「悪いことしてごめんなさいって謝りにきたのかな?」
セリナのアホな解釈に、レオスは豪快に笑い飛ばした。
「はははは!! 残念だがはずれだ!」
そんな会話に夜光が「そりゃそうだろ」と冷たくつっこむ。
「なに、お前らの実力ってのがどんなもんか知りたくてな? 少し手合わせしようぜ?」
レオスは指をポキポキ鳴らし、手からレオスの背丈以上の巨大な金棒を出現させた。
「なんだよ。あのでかい金棒。あんなの持ってたら動きにくいだろ!」
あまりの大きさに驚くルド。
金棒を担ぐように持ったレオスは、夜光達を挑発するように手で招き
「まずはお前らの力を試してやる。俺は指1本動かさねぇでおいてやるから、お前ら全員で掛かってこい」
レオスの余裕とも取れる発言に、ルドは斧を強く握りしめ
「ずいぶんと舐めたこと言ってくれるじゃねぇか!」
怒りを露わにした。
スノーラはすぐさまルドを止める。
「待てルド! 敵がそんなに簡単に隙を見せてあのような発言をするとは思えん!
もしかしたら、何らかの罠という可能性もある」
スノーラの罠という意見に夜光がこんなことを言い出す。
「でも本当に俺達の実力差に気づいて余裕ぶっているってこともありえるんじゃねぇか?」
夜光の何気ない言葉に、スノーラはうなずく。
「その可能性もないとは言えません. もしそうなら、実力差を埋めるために我々は個人での攻撃よりも協力による攻撃で対抗するしかありません」
「協力って簡単に言うけど、それってどうやる訳?」
ライカの質問に、スノーラはある提案を出した。
「まず機動力のあるライカが敵の注意をそらすために、目を狙って風の刃を打ち、視界を奪う。
そして私が武器を持つ手に銃弾をぶつけて凍らせます。
それで一時的に武器を封じた所をエクスティブモードのセリア様の剣で敵の体力を削る。
セリナ様はその3人をシールドでサポートしてください。
敵が体力を削られて弱ったところを攻撃力の高い夜光さんとルドがエクスティブモードとなって攻撃し、相手を完全にひるませたところで、残ったメンバーで総攻撃を加える・・・というのはいかかでしょうか?」
「いいと思うぜ? ちょっとよってたかってな攻撃だけど・・・」
「あたしも賛成、身の安全に越したことはないからね」
「よくわかんないけど、スノーラちゃんの提案でいいと思うよ!」
「わ・・・私も」
「以下同文」
スノーラの作戦に全員が賛成した。
「ではお願いします!」
スノーラの合図と共に、全員が動いた。
まずライカが動き回りながらレオスの目を狙う。
しかし、レオスはぴくりとも動かない。
「(こいつ、本当に動かないつもりなの?)」
レオスの行動に疑問を抱くも、攻撃を続けるライカ。
スノーラはレオスから距離を取り、銃を構えて金棒を持つレオスの右手を打った。
するとレオスの右手は氷に包まれていった。
・・・ところが手を覆った氷はすぐに砕けていった。
「(やはりこの程度の氷結ではすぐに砕かれる)」
そう考えたスノーラは、氷が砕かれてもすぐに凍らせるように、レオスの手を撃ち続けた。
近距離タイプの夜光、セリア、ルドはレオスにできるだけ近づき、エクスティブモードを起動させた。
エクスティブモードとは一時的に精神力を上昇させるシステムである。
前回のスコーダー戦では、夜光とセリアとライカが使用後に力尽きて気絶してしまったので、
後に改良され、精神力の上昇を抑えることで威力は落ちるが、安全面の確保に成功した。
『おい、スノーラ。こっちは準備できたぞ』
ルドの通信を聞き、スノーラはライカに通信を飛ばす。
『わかった。 ではライカ。 私が合図したら攻撃をやめて下がれ!』
『わかったわ!』
そしてスノーラは頃合いをわかり
『・・・ライカ! 下がれ!』
スノーラの合図と共に、ライカは攻撃をやめて後ろに下がった。
その瞬間、セリアが一気にレオスに近づき、
「やあ!!」
光輝く剣で、レオスに一撃を与えた。エクスティブモード時のセリアの攻撃は斬った相手の体力を削る内部攻撃なのだ。
攻撃されたレオスは全く動かないが、続けてルドと夜光の攻撃が加わる。
「せいっ!!」
「おりゃ!!」
2人の攻撃が命中したのを目視すると、すぐさまスノーラが通信を飛ばす。
『セリナ様! ライカ! 我々もあとに続きます!』
スノーラ、セリナ、ライカもすぐさまエクスティブモードとなり、
「はあ!!」
ライカは鉄扇に風の刃をまとわせ、剣のように斬撃を繰り出した。
「ふっ!!」
スノーラは、強い精神力を込めた弾丸をレオスの胸に打ち込んだ。
「えいっ!えいっ!えいっ!!」
セリナは、炎をまとった錫杖でレオスをポカスカ殴り続けた。
ところがこれほどの総攻撃を受けても、レオスの鎧には全く傷がつかない。その上、レオス本人も全く動いていない。
認めたくないが、戦闘に関しては素人の夜光達でも、レオスがダメージを受けていないことは理解できていた。
そしてとうとう全員力尽き、その場に膝をついてしまった。
それを見たレオスは、呆れた口調で
「おいおい。もう終わりかよ? お前ら気合が足りねぇぞ?」
レオスはやれやれと言わんばかりに頭を掻いた。
「仕方ねぇ。 ちょいとばかし俺が活を入れてやる」
そしてついにレオスが動き出したのであった・・・
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