第25話 得られるもの

ルドとのお見合いのために、ケンタウロス族の住む[ドープの森]に来た夜光達。その日の夜、ルドはかつて告白した想い人[リーフ]が自分のせいで周りから非難されて上、武闘大会への出場永久停止を言い渡されたことで大会の優勝という夢が潰れたことを知った。


ルドの母、フォーレが用意した小屋に1泊することになった夜光達。

小屋の1つで眠っていた夜光だったが、慣れないワラベッドであまり眠れず、夜中に起きてしまった。

「・・・ダメだ。眠れねぇ」

そこで夜光は、持ってきた鞄から昨日買っておいた大きめの酒ビンを取り出した。

「眠れねぇ時は、これに限るぜ」

酒ビンを開け、豪快にラッパ飲みする夜光。

「・・・ぷはっ! 異世界の酒も悪くねぇ!」

その後もぐびぐび飲み、あっと言う間に飲みほした。


酒ビンを無造作に床に放り、再びワラベッドに横になる夜光。

かなり強めの酒なので、酒に強い夜光でも酔いが回る。

そして、少しずつ睡魔に襲われている時だった。

誰かが、小屋のドアをノックした。


「誰だよこんな時間に・・・」

夜光は嫌々起き上がり、ドアに歩み寄る。

「・・・誰だ?」

ドア越しに尋ねると

「・・・夜光か?ルドだ」

と返事があったためドアを開けると、確かにルドがそこにいた。

夜光はルドを招き入れ、話を聞くことにした。

「なんだよ。こんな時間に」

ルドは少し照れながら口を開いた。

「あっ・・・あのさ、オレ達は明日お見合いするだろ?」

「そういう予定だろ?」

「でもお見合いする前に、きちんと気持ちを伝えようと思って」

「気持ち?」

すると、ルドはおもむろに衣服を脱ぎ始めた。

「・・・おいっ。 何のマネだ?」

ルドはあっと言う間に、パンツ1枚になった。

ルドの体は普段の豪快さとは裏腹に、とても女らしい体だった。

腰は細く、肌も白くて透き通るようだ。

そして最大の特徴は、やはり胸だ。

笑騎の情報によると、ルドは巨乳だらけのマイコミメンバーの中で最も大きな胸の持ち主だ。

まるで、超巨大なスイカがぶらさがっているようだ。

女性経験が豊富な夜光でさえも、その大きさには圧倒される。

そしてルドは、恥ずかしさを抑えながらこう言った。

「オレ・・・初めて会った時から夜光が好きだったんだ!」

それはまぎれもなく告白だった。

「待て。 さすがに状況がよく飲みこめねぇ」

さすがに夜光も混乱する状況のようだ。

そして、ついにルドは全裸となった

「夜光が好きなんだ。 だからオレを・・・おっ女にしてくれ!」

ルドは夜光をワラベッドに押し倒した。

「おいおい。 マジでヤる気か?」

全裸の美少女に押し倒される状況は、大抵の男なら興奮するだろう。

だが、普段から女慣れしている夜光は冷静さを失っていない。

「夜光は、こっ・・・こういうことをするのが、すっ好きなんだろ?」

「そりゃ、男は大抵好きだろ?」

何を当たり前なことを聞いている?と言わんばかりの発言にルドは

夜光の右手を掴み取り、自らの胸を揉ませた。

掴むことができない大きくそれでいてマシュマロより柔らかい感触が夜光の手を支配した。

「オレ・・・経験も自信もないからさ。やっ夜光がリードしてくれないか?」

妖艶な顔のルドは、そのまま夜光に顔を近づけてキスをしようとした。

そして、夜光とルドの唇が触れようとした瞬間だった。

「・・・ふざけるな」

「えっ?」

夜光の突然の一言で、ルドは顔を止めた。

「嘘をつく女を抱くほど、俺は女に不自由してねぇよ」

「嘘って何言ってんだよ。 オレは本当に夜光のことが・・・」

夜光はルドの言葉を遮り、少し怒気が入った言葉で

「なら、どうして目をそらした?」

「なっなんのことだよ?」

「お前が俺に告白した時と俺を押し倒した後に、お前は一瞬目を背けた。本当に俺が好きで俺に抱かれたいと思ってるなら、そんな大事な場面で目をそらしたりしない」

「・・・」

ルドには目をそらした記憶がなかった。

しかし本当にそうなら、夜光はそんな些細なことでルドの本心を見破ったということだ。

普段マイコミでの夜光しか知らないルドには、驚きを隠せなかった。

そして夜光は、ルドの両肩を掴み、自分とルドの体を起こした。

「無意識に目をそらすって言うことは、『自分は嘘をついています』

と言っているようなもんだ。男を手玉に取るなら少しはポーカーフェイスを磨け」

そう言うと夜光は立ち上がり、ルドが脱ぎ捨てた服を拾うと、

「いつまでやってんだ」

ルドに投げつけた。

・・・だが、ルドはその場を動かずに顔を沈めるだけだった。

夜光が気分転換に一服しようとした時だった。

ルドの目から一筋の涙が流れ落ちた。

「・・・こうするしかないんだ」

「・・・なんだよ急に」

「オレが今の自分を捨てるには、こうするしかないんだ」

それは独り言と言うより暗示のようだった。

「ずいぶんネガティブな発言だな」

ルドは涙を拭き、ようやく顔を上げた。

しかし、その顔は悲しみに包まれていた。

「悪かったな、いきなり変なことして。普通の女としての自覚を持とうと思ったら、こんな方法しか思いつかなかったんだ」

「なんでまた。お前、男なんじゃなかったのか?」

「・・・あぁ。 オレは体は女でも、心は男として生きてきたさ。

でも結局それは、オレの身勝手な言い分だったんだ」

「・・・なにかあったのか?」

訳を聞こうとする夜光に、ルドも素直に話した。

「オレは昔、リーフって女の子が好きで告白したことがあったんだ。

さっきリーフが両親と話しているのを聞いたんだ。オレが告白したせいで、一族に軽蔑されて、その上夢だった闘技大会の参加まで停止させられたんだ・・・オレの身勝手な告白がリーフの人生を壊してしまったんだ」

ルドの目から再び涙が流れた。

「それに父さんと母さんも、オレの障害が発覚してからずっとオレの障害を治そうとお見合いまで考えてくれたんだ・・・これ以上、誰にも迷惑を掛けたくない」

そしてルドは立ち上がり、夜光の投げた自分の服を着始めた。

「オレがただ、女として生きていけば済む話なんだ。そうすれば、誰にも迷惑を掛けることはなかったんだ。そんなこと最初からわかっていたはずなのにな・・・バカだよなオレって」

そう言いながら、ルドが服を着終わった時だった。

「バカだな。お前は」

夜光が再び口を開いた。

「誰でも少なからず周りに迷惑を掛けてしまうものだ。それを気にするなとは言わねぇが、それでいちいち自分を崖っぷちまで責めてたら身が持たねぇよ」

「そっそれは・・・」

ルドは言葉に詰まった。そして夜光は続ける。

「誰にも迷惑を掛けずに生きていくことなんてできはしない。

お前が今考えるべきなのは『迷惑を掛けないようにする』ことじゃなく、『ありのままの自分でいる』ことなんじゃないか?」

「ありのままの自分でいる・・・」

それは初めて言われた自分を認める言葉だった。

これまでずっと『お前は病気だ』、『お前はおかしい』と両親や一族に自分を否定されてきたルドにとっては新鮮な言葉だった。

「自分を偽って得られるものはある。だが迷惑を掛けようとも自分を突き通すことで得られるものもある。だけどこの選択によって得られるものは全く違う」

「得られるもの・・・」

偽りで得られる両親の安心とリーフへの罪滅ぼし。

それはルドが"望もうとしているもの"。

だが、自分を突き通すことで得られるものとは何か?

ただ今の状態が続くだけか? それとも他に得られるものがあるのか?

それはわからない。だが自分が望むことならわかる。

しかしルドは言葉にすることができなかった。

両親、リーフ、一族、色んなものがルドの口を塞いでいたからだ。

しかし夜光の目を見ると、ルドのあふれる思いが口を開かせた。

「オレは・・・自分を捨てたくない! 両親やリーフに迷惑を掛けておいて勝手なのはわかってる! でもオレは・・・自分を捨てて生きていくなんて嫌だ!!」

それは今まで封印していた気持ちだった。

ルドの気持ちを聞き、夜光は静かに口を開く。

「ならお前はそのためにどうする? 何ができる?」

夜光の質問に、ルドは拳を握り、何かを決心した目で答えた。

「明日のお見合いでみんなに自分の気持ちをそのまま話す!

それがオレにできる唯一のことだと思うんだ」

「・・・そうか」

夜光はそれだけ言うとワラベッドに横になり

「なら、さっさと帰って寝ろ。俺はもう寝る」

とルドに伝えた。

しかしルドは意外なことを口走った。

「なぁ、夜光。 もしよかったらここで寝てもいいか?」

「えっ?」

ルドは見合いの席で気持ちを伝えることを決心したが、それは自分を後押ししてくれる夜光がいるからだと思った。

だから今、夜光から離れたらその決心が弱くなると思い、思わずこんなことを言ったのだ。

それをなんとなく感じた夜光は帰れとは言わずに

「起こしたら殺す」

と言い方は悪いが、いても良いということのようだ。

「・・・ありがとう」

ルドは夜光に感謝すると、夜光の隣で横になった。


「夜光ってすごいよな。オレがずっと悩んでいたことを簡単にふっとばしてくれたし、それに目を見ただけオレが嘘をついているってわかったし・・・」

夜光への認識を改めたルド。

「なんだお前、本気で信じてたのか? 心理学の先生じゃあるまいし、目を見ただけでそんなのわかるわけねぇだろ?

大体お前、目を背けてなんかいねぇし」

「えっ!?」

「嘘をつくならあれくらいのことはやれ」

「・・・」

夜光への認識を再び改めたルドであった・・・


翌日・・・

起床したゴウマは寝坊するであろう夜光を起こすために夜光の小屋の前に来た。

それと、つい先ほどルドの両親がゴウマを訪ねた。

今朝からルドの姿が見えないとのことだ。

ゴウマはマイブレに使用されている女神石の波長をキャッチする小型の追跡装置を使い、ルドが夜光の小屋にいることを知った。

ゴウマはすぐに連れてくると両親に伝え、先にセリア達を連れて見合い会場に向かうよう頼んだ。


夜光の小屋で目にしたのは、爆睡している夜光と隣で眠っているルドだった。

「やれやれ、何をどうしたらこんな状況になるんだ?

・・・事情はわからんが、この場面をセリア達に見せたら見合いの前に葬式を挙げるはめになるかもしれん」

そう考えたゴウマは2人をゆさぶって起こす。

ルドはぼんやり目を開けたが、夜光は眠ったままだ。

ゆさぶり続けても起きる気配がない。

「やむをえん」

ゴウマは床に転がっていた夜光の酒ビンを手に持ち、

「起きろ!!」

夜光の額に思い切り振り下ろした。

「いってぇぇぇ!!」

さすがに目が覚めた夜光。

「テメェ! 俺を殺す気か!?」 

飛び起きた夜光は真っ赤になった額をさすりながら、ゴウマにかみつく。

「君はこれくらいしなければ起きないと誠児君に助言を受けていてね。許してくれ」

「あの野郎!!」

帰ったら復讐することを決めた夜光の隣で、ぼんやりしていたルドがようやく我に還った。

「・・・あれ? ゴウマ国王。どうしてここに?」

「寝坊の常習犯を起こしにな」

ルドは一瞬、夜光を見て「なるほどな」と納得した。

「ワシも一応尋ねたい。 ルド、どうして君はここにいるんだ?」

「え~と・・・昨日こっそり夜光に話を聞いてもらってさ。それで少し人恋しくなって、夜光に頼んでここで寝かせてもらったんだ」

ゴウマはやれやれと首を振り

「事情はわかった。とにかく2人共、すぐ支度しなさい。

先ほど、ルドのご両親から見合いの席の準備ができたと連絡がきてな、セリア達と一緒に先に向かったぞ?」

身支度を済ませた夜光とルドはゴウマの案内で、見合い会場へと向かった。


見合い会場は、森の奥にある広場で行われることとなった。

その広場は本来、ケンタウロス同士が結婚を行う、いわば教会のような場所。

その中心には、大きな大樹があり、結婚するケンタウロスはその大樹に愛の誓いを立てる習わしがある。

ゴウマはその大樹を集合場所の目印としていた。

そして広場には、あちこちからケンタウロスが集まっていた。

「なんなんだ? こいつら」

夜光のつぶやきにゴウマがこんなことを言った。

「ロイズ夫妻からは、見合いを見に来ていると聞いてはいるが、それにしては少し多いな」

ざっと見ても、50体くらいはいる。

いくら人間とケンタウロスの見合いというイレギュラーなイベントとは言え、さすがに多すぎる。


大樹に着くとすぐにルドの両親とセリア達を見つけた。

「遅くなってしまい、申し訳ない」

ゴウマがルドの両親に謝罪しながら近づく。

「いや、まだ時間はある。それより、ルド。こちらに来なさい。

準備がある」

「はっはい!」

ルドは両親についていくと、一旦大樹の向こうに消えた。


夜光達はその場で待っていることにした。

すると、スノーラが難しい顔でゴウマに声を掛けてきた。

「ゴウマ国王」

「なんだ?」

「お気付きかと思いますが、ここにいるケンタウロスの数はいささか多いと思えるのですが」

ゴウマは静かに頷き

「ワシも妙だとは思っている。ロイズ夫妻からは見合いを見に来ただけと聞いているが、それにしては多過ぎる」

不審に思う2人の横でセリナが辺りをずっと見回しているライカが気になり、

「ねぇ、ライカちゃん。どうしたの?ずっとキョロキョロして」

「周りのケンタウロスが持っている物が気になっただけよ」

「持っている物?」

よく見ると、ケンタウロス達の手には、果物や野菜などの食べ物が入った籠を持っていた。

「みんなのお昼かな?」

セリナの無邪気な回答にライカは呆れて

「バ~カ! 遠足じゃあるまいし、お見合いを見に来ただけで、わざわざあんなに食べ物を持ってくる訳ないでしょ?」

「むぅぅぅ! バカじゃないもん!」

と頬を膨らますセリナは置いておき、ライカの言葉で更に不審に感じるゴウマとスノーラ。

そんな時にセリナがもう1つ気になることをつぶやいた。

「・・・あれ? ねぇ、夜光とセリアちゃんは?」

ゴウマ達は辺りを見渡すが2人はいない。

「そういえば、先ほどから姿が見えませんね」

ルドが両親についていく前までいたのは、みんな覚えている。

「まさかあいつ、セリアを連れ出して変なことをする気じゃ・・・」

「変なこと? ライカちゃん。何それ?」

変なことの意味を理解できていないセリナに対し、ライカは少し赤面し

「そっそんなこと言える訳ないでしょ!!」

「えっ!? 何で何で?」

「あぁ! もう! うるさい!」

コントのような2人の会話に微笑するゴウマ。

「ライカ。 それはないよ」

ゴウマは素行は悪いが根は優しいと夜光に対して信頼しているので、

全く疑う気はなかった。


そんな夜光とセリアはと言うと、ゴウマ達がいる場所から離れた場所にいた。

「お前もしつこいな!」

「あっあのでも・・・」

実は、ルドが両親についていったあと、夜光がタバコを吸おうとするのをセリアが止めたのだ。

自然あふれる森では、環境問題と火事の恐れがあり、喫煙は禁止されているのだ。

しかし、昨日から1本も吸っていないヘビースモーカーの夜光にはこれ以上耐えられないので、こっそり隠れて吸おうとしている。

それをセリアは追いかけて止めているということである。

「1本くらいバレやしねぇよ」

「でっでも、見つかったら怒られます」

構わずタバコを咥える夜光。

「そのときはお前を道連れにしてやる」

なんとも身勝手な言い分である。

そして、ライターで火を付けようとするが・・・

「・・・あれ? 付かないな・・・げぇっ! ガス切れ!」

どうやらライターはガス切れのようだ。

森の奇跡か、単に夜光の運が悪いだけか。

「くそっ!」

悪態をつく夜光にセリアがおそるおそる

「あの、そろそろみなさんの所に戻らないと・・・」

と言った瞬間!


「どういうことだよ!?」

と言う大きな声が耳に入った。

「なんだ? 今の」

「るっルドさんの声のように思えます」

確かにルドの声だ。

気になった夜光とセリアは声の方へ向かう。


すると、そこにはルドと両親と1体の男性ケンタウロスが立っていた。

ルドの顔は驚きに満ちていた。

そして、ルドの父ストーンから衝撃の発言が

「ルド、このケンタウロスと結婚しなさい」

それは、まさに耳を疑う言葉だった。

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