第21話 心石

スコーダーとの2回目の戦闘で仲間と協力し合い、どうにか退けることに成功した。

そして、演劇プログラムの復活により夢に向かって歩けるようになったライカ。

夢と戦いの幕がようやく上がった。



 ある日の午後、夜光と誠児はいつもの訓練を受けていた。

今回の内容は2枚の書類を見比べて、誤字脱字がないかというチェック作業であった。


「・・・ダルい・・・疲れた・・・面倒・・・」


 書類をペラペラ捲りながら、夜光はお経を唱えるかのように、愚痴をこぼしていた。

隣で同じ作業をしていた誠児は最初の10分くらいは「何ごとも社会勉強だ」と励ましの言葉を掛けていたが、それ以降は作業に集中したいのか、励ますことに疲れたのか無言で手を動かしていた。




「・・・あれ? 笑騎はどうしたんだ?今日、担当なのに・・・」


 作業の手を一時止めて、誠児は辺りを見渡し始めた。

今日の就労支援は笑騎も担当しているので、この部屋にいるはずなのだが、見渡しても姿が見えない。

仕事をさぼって女の尻を追いかけているのかと思った瞬間、夜光は無言で天井を指した。

見上げた誠児の目に止まったのは、天井の柱にロープでぐるぐる巻きにされて吊るされていた笑騎の変わり果てた姿であった。

全身傷だらけで、顔もひどく腫れ上がり、意識がないのか、目に生気を感じない。


「・・・一体何があったんだ?


 誠児は吊るされた笑騎を見ても冷静さを全く失わない自分に動揺しつつ、夜光に説明を求めた。



 数時間前……。

いつものようにマイコミルームに集まった夜光達。

今回は以前から演劇発表会の衣装を裁縫関連のデイケアメンバーに頼んでいて昨日でき上がったので、責任者の笑騎が届けに来た。

マイコミメンバー達はさっそく物置部屋で衣装を試着してみたのだが……。


「何よこれぇぇぇ!!」


 叫び声を上げるつ同時に、ライカは物置部屋を飛び出し、笑騎の胸倉を掴んだ。

後に続くかのように残りのメンバーも物置部屋からぞろぞろと出てくる。


「おいっ!! 笑騎!! これはどういうことだ!?

返答次第では、貴様の頭に風穴を空けるぞ!!」


 赤面しつつ、怒りのまま愛用の銃を笑騎に向けるスノーラ。

今にも撃ってしまいたい気持ちを抑えつつ、笑騎に詰め寄る。


「まあまあ、落ち着きぃな。2人共似合ってるで?」


 一見なだめているように聞こえるが、その瞳孔はマイコミメンバー達の体中を舐め回すように動いており、完全に下心が見受けられる。

そもそもこうなった原因は、今試着している演劇用の衣装だ。


「なんで、あたしの衣装はこんなにボロボロなの!?」


「そら、貧乏な男の役やねんから、衣装もそれっぽくせな」


 ライカは主役の貧乏な青年の役。衣装は確かに男物だが、衣装がほとんど破れているため、肌の露出が非常に多い。

そのため、お腹や太ももなどが丸見えで、少し動いただけで下着も見えてしまいそうだ。


「私のは設定を無視しているだろ!?」


「そんなことないで? スノーラちゃんのは立派な鎧や」


 スノーラは貧乏な青年(ライカ)の恋のライバルである隣国の王子役。

その衣装は、胸と股間以外ほとんど面積のない鎧とはとても言えないもので、ほとんどビキニに近い。


「ねえ、私の衣装もおかしくない?」


恥ずかしさのあまり、スノーラの後ろに隠れていたセリナも物申し始めた。


「おかしいことはないで? 可愛いお姫様や」


セリナはヒロインのお姫様役。しかしなぜかミニスカートを履いている。それもかなり短く、下着がちらちら見える。

上半身も布がかなり薄く、光や角度によっては上の下着も見えそうだ


「でも、おかしいよ!セリアちゃんなんか部屋の隅で丸くなってるし・・・」


 セリナが向けた視線の先には、まるで悪霊にでも取り付かれたかのように暗いセリアが、足を抱えて座っていた。

その衣装は角や翼がある小悪魔をイメージした衣装のようだ。セリアは魔王の幹部役なのでイメージは合っている

しかし、やはり問題は布の面積だ。極小のブラと際どいTバック。これはスノーラ以上にひどく、ほとんど裸と変わらない。

こんなエロ衣装で舞台に出れば劇を見に来た男性達に興奮と言うなの刺激を与えてしまう。

笑騎に怒りをぶつけるライカたちに、そこに「俺も納得いかねぇ」と夜光も割り込んできた。


「なんや、お前までこんなエロ・・・あっ、いやいや素晴らしい衣装にケチつけるんか?」


「今、本音が出たな?」


 スノーラの怒気が含まれた言葉でも笑騎は「なんのことかさっぱりや」

と煽るかのようにすっとぼける。


「こいつらの衣装なんぞどうでもいい!俺はこれに文句があるんだよ!!」


夜光は首から下げてあるダンボール板を指差した。

そこには心界の文字で"魔王"とだけ書いてあるが、問題はそれ以外は私服であるということ。


「魔王の衣装になんか文句あるんか?」


「ふざけんな!! 幼稚園のお遊戯会だってもう少しマシなものを作るぞ!!

っていうか、こいつらの衣装と比べたらクオリティに差がありすぎだろ!!」


やれやれと言わんばかりに首を振る笑騎は答える。


「しゃあないやろ? 女の子たちの衣装作りに全神経を注いだんやから。お前の衣装までできるわけないやん」


「ふざけんな! こんなもんぶら下げて舞台に出ろってのか!?」


 すると、横のライカが夜光の言葉に意見してきた。


「はぁ!? あんたまだマシじゃない!! こっちはこんなエロ衣装着せられてんのよ!!」


「そのエロ衣装のせいでこんなもんぶら下げるはめになった俺の気持ちがわかるか!?」


「あんたこそ、大勢の人にこんな裸みたいな恰好を見せることになるかもしれない乙女の気持ちくらい考えなさいよ!!」


 ライカの物言いにイラっとした夜光は「乙女だぁ!? お前のようなガキはアバズレって言うんだよ!!」と挑発めいた言葉を発する。


「何ですって!? もう1回言ってみなさいよ!?」 

 

 売り言葉に買い言葉。

ライカは笑騎から手を離し、夜光に怒りの矛先を向けた。


「とにかくすぐに、私たちの衣装を作り直せ!!」


「そうだよ!それで全部解決だよ!!」」


スノーラとセリナがそう詰め寄ると、笑騎は不気味な薄笑いを浮かべる。


「すまんな。衣装作ってた連中、昨日、全員病院に入院することになってん。

みんなこの衣装作るために1週間不眠不休で作業しててな? それが祟ったんや」


 話している最中、笑騎の目に一筋の涙が流れた。


「全ては、みんなにこの衣装を着てもらうためや。どんなにつらく苦しくても、この衣装を美少女達が舞台で来てくれるんや! みんな、命を削って作業に取り組めたんや」



 あまりにバカげた話にスノーラは「こんなくだらん衣装に命を削るな!!」と思わず大声でツッコミを入れた。

笑騎は窓から青空を見上げ「みんな・・・夢は叶ったで」と涙ながらに意味不明な言葉を、まるで天国に旅立った故人に語り掛けるかのように呟いた。


「何が夢だ!! こんな煩悩まみれの衣装など、この場で引き裂いてくれる!!」


怒り狂ったスノーラは、再び物置部屋に入り、元の服に着替えようとする。

するとそこへ、今まで黙っていたルドが「落ち着けよ、お前ら」となだめ始めた。

ルドはセリナの父親の国王役で、衣装はマントを羽織った体のラインがはっきりみえるバイクスーツのような衣装だった。

露出度は低いがこれも女性からすればかなり恥ずかしい。


「落ち着けだと! このようなハレンチな衣装を着せられて黙っていられるか!」


 羞恥心のあまり冷静さを失うスノーラ。


「そーだそーだ!!」


スノーラに便乗して怒りはするものの、彼女の背中で身を隠すセリナ。



「あんたはただでさえ怖い顔なんだから、衣装なんていらないでしょ!?」


「おまえこそ、その程度で露出なんて笑わせるぜ!!

露出っていうのはこう言うことだ!!」


「イヤッ!! 何すんのよ!! 変態! 鬼畜! スケベ!」


 何を血迷ったのか、夜光はライカの衣装に手を掛け、身ぐるみを剥がそうとする夜光。


「・・・」


 石像のように動かないセリア。


 カオスな空気が渦巻く中、ルドが一言こう口にする。


「お前ら、試着してから文句を言うなよ」


『・・・』


正論だった。衣装の文句を言っている本人らがその衣装を試着しては説得力がない。


「でも、あんた恥ずかしくないの?」


ライカの質問に対し、ルドは頭を掻きながらこう返す。


「別に隠すとこは隠してるからいいじゃねぇか」



「そやそや。ルドちゃんの言う通り!隠すとこは隠してるんやからええやん。むしろ、みんなのエロい体を舞台上で公開したら、よりええ芝居になると思うで!?ちょっとは感謝しぃや!!」


 ルドに便乗して、開き直る笑騎。

その反省の欠片もない態度にライカたちの体から黒い怒りのオーラが出現する。


「とりあえず、あんたは死になさい」


「貴様ごときに銃を汚すのもバカバカしくなった」


ライカとスノーラは拳を鳴らし、笑騎への制裁を実行することにした。


「ふっ。やっぱり無理か。まあええわ。みんなのエロ衣装姿が見れたんや。死んでいったあいつらに比べたら俺は幸せや」


 笑騎は降参だと言わんばかりに、両手を大きく広げる。


「殺れや。美少女に殺されるなんて男にとっては最高の死に方や」


 その顔はまるで覚悟を決めた主人公のようにすがすがしく、下心丸出しのマヌケ顔だった。


「へぇ~。いい心掛けね。じゃあ望み通りにしてやるわ」


「地獄の亡者達が待っているぞ」


 その瞬間、マイコミルームは血で染まった。

そして、衣装はマイコミメンバーで簡単なものを作ることになり、その日のマイコミは終了した。




「・・・」


 夜光の話を聞き終え、呆れ果てる誠児。

馬鹿馬鹿しい話についていけずに痛む頭を抱え、誠児は


「訓練生やスタッフのみんなは何で何も言わないんだ?」


「もう、あいつのああ言う姿は見飽きてんだとよ」


「・・・なんでクビにならないんだ? あいつ」


 笑騎の謎がさらに深まった誠児だった。


 訓練が終わり、2人は帰る前にホームの食堂でコーヒーを飲むことにした。


「俺はビールが飲みたいんだがな」


 夜光は不満気にメニューを睨むが、職場であるスタッフはもちろん、薬を服用している訓練生やデイケアメンバーには飲酒を禁止されている者もいるので、ホームでは飲酒を禁止している。


「飲みたいなら部屋で飲め・・・あっ!」


良い席がないか探していた誠児の目に見覚えのある姿が飛びこんできた。


「どうした?・・・あっ!」


 そこにいたのは、心界で初めて会った女神とうさぎのきな子だった。

2人は席を探しているようだが夜光は近づいて「何やってんだ?おまえら」と声を掛ける。

「あっ! お久しぶりです!」


「おぉ。久しぶりやな」


 女神は軽くお辞儀をし、きな子は女神の肩の上で右前足を挙げて簡単なあいさつする。

誠児も2人に近づき、「お久しぶりです」とお辞儀をする。


「お二人がどうしてここに?」


「ちょっと、ゴウマちゃんから頼まれ事があって来たんや。

ほんで、用事が終わったからここの食堂でフルーツゼリーでも食べよかなと思ってな」


 待ちきれないと言わんばかりにメニューに写るフルーツゼリーに頬を擦り合わせるきな子。

女神は苦笑いしつつ夜光と誠児に問い掛ける。


「お二人こそどうしてここに? お食事ですか?」


「私たちは訓練が終わったのでコーヒーを飲みにきたんです」


「じゃあ、お席をご一緒しませんか?」 


女神の誘いを特に断る理由もないので、2人は同席することにした。



適当な席に座った4人?は近くにいたマナを呼び、フルーツゼリーとコーヒーを頼んだ。

「では、しばらくお待ちください」

マナがその場を後にすると、夜光と誠児はきな子と女神にいくつか質問があるので尋ねることにした。

「ところで洞窟の様子はどうですか?」

誠児はまず、心界と現実世界を繋ぐ洞窟{繋がりの洞窟}ついて尋ねた。それは、夜光と誠児をこの世界に招きいれた洞窟だ。

「あの後も何度か様子は見に行っているのですが、全く変化はありません」

「・・・そうですか」

すると女神がこんな提案をしてきた。

「あの、私ときなさんなら向こうの世界に行くことができるので、ご家族の方にお二人の無事を伝えましょうか?」

女神の提案に一瞬2人は複雑そうな顔をした。

「お気持ちは嬉しいのですが、私と夜光には家族はいません。いろいろありまして」

「そっそれは失礼しました!」

申し訳なさそうな女神をすぐに誠児が

「いえ、気になさらないでください」

誠児がそう言っている隣で夜光がきな子に尋ねた。

「それよりうさぎ。これのことなんだが」

夜光は右腕に着けているマイブレを見せた。

「マイブレがどないした?」

「どうもこうも、こいつで変身ヒーローみたいな格好になって戦ってやってるけど、これってチート的な能力はないのか?

この間なんか、5人がかりで1人追い払うのがやっとだったぞ!」

きな子はやれやれと言わんばかりに首を左右に振り

「当たり前や。チートなんてもんがそこらにほいほい転がってる訳ないやろ? ラノベの読み過ぎや」

「読んだことあんのか?」

「あるで。一番好きなんは{転生してうさぎになったうちは異世界で

金持ちになる}やな。あれは傑作や」

「・・・それお前のことじゃないだろうな」

ちなみに夜光がラノベのことをある程度知っているのは、昔から誠児に文字や文章を学ぶためと本を読むように言われていたのだが、

文学的な本では夜光の頭では読めないので、まず比較的読み易いラノベを読まされていたからだ。

そのおかげで、ラノベの知識が少しついた。


「おまたせしました!」

注文して10分ほどでマナがコーヒーとフルーツゼリーを持ってきた。


「おぉ!! 待ってたで!!」


 目の前に運ばれたゼリーに大喜びのきな子。

どこからか出したウサギ用のスプーンで、ゼリーを食い荒らす。


「では、ごゆっくりどうぞ」


 一礼したマナは夜光たちの席から少し離れた所にある冷水機に歩み寄り、持っていた鍵を使って蓋を開け、中に設置してある青い石を取り出した。

その石をポケットにしまうと、マナは別のポケットから出した別の青い石を冷水機に設置し、蓋を閉めて鍵を掛けた。

何気なくそれを見ていた夜光が「あいつ、何を入れたんだ?」と呟くと、

ゼリーを食べていたきな子が手を止めて、マナに視線を向ける。


「なんや、心石(しんせき)入れてるだけやん」


「親戚?」


「心石(しんせき)や!」


「どっちでもいい。なんだそれは?」


 夜光がそう尋ねるも、きな子は興味がなさそうに再びゼリー食べながら、

女神に「(説明したって)」と視線を送る。

やむを得ず女神は、心石についての説明するとこにした。


「えっと、心石というのは簡単言うと、えっとそのエネルギーの源のことです」


「エネルギーの源?」


興味が出てきた誠児も話に加わった。

「はい。あの、心界にある機械とかは主に心石を使って動いているんです。ですから、えっと・・・」


話をまとめると……。


 心石とはこの世界の機械などを動かすエネルギーの源のこと。かつてこの世界に存在していた魔力は精神戦争終結時に消滅したのだが、わずかな魔力だけが心界に残り、それが結晶化したものが心石だと言う。心石には、火・風・水・土・氷・雷・闇・光の8種類の属性を具現化する力があり、心界の人間達はその力を利用して生活を維持している。

その硬度はダイヤモンド並だと言う。

ただし、心石は万能な魔石ではない

エネルギーを消費した分、定期的に精神力を与える必要がある上、心石1つに属性は1つしか備わらず、1度付いた属性は変更することはできない。

毎年大勢の人間が心石の発掘に勤しんでいるが、実際に出てくるのはごくわずか。

何度でも使用できるとはいえ、心界にとって数の少ない心石は貴重な資源なのだ。



「・・・」


 女神の話を一通り聞いた後、夜光は再びマナに視線を向ける。

冷水機の心石を取り出したマナは、新しい心石を厨房から持ってきて、冷水機に入れた。

マナが水が出るかチェックするために冷水機のボタンを押すと、蛇口から水が流れてきた。

チェックを終えたマナは、再びオーダーを聞きに回り始めたのであった。




「俺たちの世界でいうと石油みたいなものか・・・」


 誠児がそう例えると、夜光が腕に付けているマインドブレスレットを見ながらこう呟いた。


「じゃあ、これも心石で動いているってわけか・・・」


 夜光の呟きを聞いた途端、ゼリーを食べていたきな子が手を止めて「ちゃうちゃう」と首を横に振る。


「違う?」


「マインドブレスレットのエネルギー源は”女神石”っちゅう石や」


「女神石?」


 きな子によると、女神石は女神の力が込められた聖石である。

心石よりもはるかに強いエネルギーを放出し、硬度もダイヤモンド以上。

内に秘める力も女神が加護が宿っているため、女神が存在している限り力が尽きることはない。

女神だけが入れる聖域にのみ発掘される心石以上に貴重な石で、夜光やマイコミメンバー達が使用しているマインドブレスレット、アスト、イーグルはこの石を動力源としており、アストに関しては、装甲にも女神石が含まれているので、装甲がそれほど薄くなくても、砲弾や火を通さない防御力を誇っている。


「ようするにチートアイテムってことか・・・」


「まあそうとも言うな。 まあ、女神石のエネルギーはが無限にあると言っても、装着者の精神力がなくなったら動かんようになりからな? あと、女神石を無くしたり壊したりしたらあかんで? 女神様がまた探しに行かなあかんから」


「女神なんだったら、魔法みたいな力ですぐ見つけられるんじゃないのか?」


 夜光が何気なくそう言うと女神が突然夜光に顔を発狂しだした!。


「そんな簡単なものじゃないですよ!! 毎日毎日、聖域で汗水垂らして探しているんですから!!そのせいで、お出かけすることも、おいしい物を食べることもできないんですよ!!」


 女神の叫び声に近い声により、周囲も何事かと夜光達に視線を向ける。

誠児はへこへこと頭を下げて「お騒がせしてすみません!」と謝り続ける始末。

周囲の目と誠児を放置して、夜光は女神に問う。


「どうやって探しているんだ?」


「つるはしとスコップで手当り次第に掘ってます!! おかげで手にいっぱいマメができてますよ!? か弱い乙女にひどい仕打ちだと思いませんか!?」


 苦悩を思い出し、涙の止まらぬ女神はわざわざ手を見せ、マメがあるのを2人に確認させる。


「ず・・・ずいぶん原子的な方法ですね」


 誠児が同情を込めてそう言葉にすると、女神は机に突っ伏しながら「今日も、掘るんですよぉぉぉ!!」と泣き喚く始末。

誠児はぼそっときな子に「手伝わなくていいんですか?」と聞くと「ウチは忙しいんや!」とどこからかスケジュール帳を取り出し、聞いてもいない予定を述べる。


「ゼリー食い終わった後は、動物マッサージを受けに行かなあかんし、明日はカジノっちゅう戦場に駆け出さなあかんし、明後日は友達のウサギと温泉旅行に行く予定あるし、、夏になったら海水浴に行かなあかんねん。 ほんま忙しいわ!」


『・・・』


 社畜のサラリーマンが夢に見そうなスケジュールに、3人は言葉を失った。


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