第20話 エクスティブモード

 スコーダ―率いる強盗団が再び現れた。怪我で動けないスノーラを除く夜光ら5名は騎士団の退却のための時間稼ぎのために現場に向かった。5人のアストを相手にさすがに手加減できないスコーダ―は影兵を呼び、戦闘態勢に入った。夜光たちもルド、セリナ、セリアのグループと夜光、ライカのペアで応戦するのであった。




「おらぁぁぁ!!!」


 ルドは高らかな声を上げ、砕撃轟を豪快に振り回して影兵を薙ぎ払っていく。ルドは攻撃力が高く、一撃で2、3体の影兵が消し飛ぶほどだ。

影兵達の攻撃自体は当たるが、全くと言っていいほど、ルドにはダメージがない。


「攻撃に腰が入ってねぇ!!


 ルドは開いている左手で攻撃してきた影兵の腕を掴み、ほかの影兵に投げつけると言う力技を繰り出していた。


「どんどん来い!!」


 その後もルドは暴走車のように、影兵達をなぎ倒していった。



「はっ!!」


 セリアは、持ち前の剣術を活かして1体1体確実に倒していくスタイル。

その姿はまるで妖艶に舞う蝶のよう。

攻撃方法は一見、護絶での斬撃に見えるが、彼女の攻撃方法は相手にダメージを与えるだけでなく、刃が増えるのと同時に同時に相手の体力や精神力を削ることもできる。




「・・・」


 一方のセリナは自ら作った結界の中にいた。

セリナは炎の力で結界を作ることができる。結界は影兵の攻撃をものともしないほどの強度を持っている上に、守る範囲も広いため、仲間を守るのに重要な役割を果たしている。

だが、まだアストに慣れていない彼女には、シールドで自分の身だけを守ることしかできない。


「はぁぁぁ・・・こんな所でお留守番なんてやだなぁ~」


 セリナの通常攻撃は、広範囲に向けて放たれる炎球だが、命中率がかなり悪く、5メートル以上離れている敵にはほぼ命中しない。

今までの戦闘でも、放った炎の大半がアスト達に当たってしまったり、建物やオブジェ等に当たって、火事になりそうになったりするため、アストだけでなく、ゴウマからもトラブルメーカーだとひそかに思われている。

だが、それでもアストを装着できる希少な人材なので、今はひとまずライカが結界内で待機するようにスノーラが指示を出した。


 


 しかし、どれだけ攻撃しても結界が破れないことを察したのか、影兵達はすぐにセリナを無視してほかのアストに集中攻撃を開始した。


「うぅぅぅ・・・1人くらい来てよ・・・」


 結界の中で1人孤独と戦うセリナ。

攻撃役にもサポート役にもなれないセリナは、シールド内で観戦するほかなかった。




「せいっ!」


 ルド達と離れた場所で戦闘を行っているライカは自慢のスピードとジャンプ力で影兵達をかく乱し、ピルウィルを仰ぐことで発生する風の刃を飛ばし、影兵達を真っ二つにしていった。

影兵達も数の暴力に訴えて、ライカを取り囲んで一斉攻撃を仕掛けるが……。


「遅すぎるわよ!!」


 影兵達の頭を踏み台にして、空高く舞があったライカは空中でコマのように回転し、その勢いを利用して風の刃を周囲に拡散させ、影兵達の首をはねて行った。



「はっ!」


 夜光は素手による戦闘で影兵達を相手にしていた。

セリアから受け取った闇双剣は腰に収めたままにしている。

いきなり不慣れな剣を使うと、かえって戦いにくくなると思ったからだ。


「ラスト!!」


 夜光とライカのペアが相手をしていた影兵達が全滅すると、先に影兵と片付けたルド達が2人の元に駆け寄ってきた。


「あとはあいつだけだ」


 アスト達は再度スコーダーに武器を向ける。



「やはり影兵達では、足止めにもならないようですね」


 スコーダーはレイピアを構えた瞬間、まるで瞬間移動したかのように夜光達の視界から消えた。

夜光達が周囲に注意していると、スコーダーはルドの背後に突然現れ、レイピアでルドの背中を一突きしていた。

手加減したのか、攻撃そのものが弱いのかわからないが、突かれたルドは全く少しよろめいただけでダメージはなかった。

だが次の瞬間、ルドが突然膝を付いてしまった。


「な・・・なんだこれ。 かっ体が動かねぇ・・・」


 ルドは体中に強いしびれを感じ、指1本動かせなくなってしまった。


「ルドちゃん!!」


 セリナがそう叫び、ルドに駆け寄ろうとした時、スコーダーはすばやくジャンプし、セリナと上空スレスレですれ違った際に、彼女の頭を軽くレイピアで突いた。

すると、走っていたセリナの体に痺れが走り、糸の切れた人形のように転倒しそのまま動けなくなってしまった。


「かっ・・・体・・・が・・・」


 動けなくなってしまったセリナを見て、セリアは「お姉様!」と普段の言動からは考えられないほどの大声で駆け寄ろうとするが、肩に置かれたライカの手がそれを静止する。


「待ちなさい! 闇雲に言っても二の舞になるだけよ!」


「で・・・でも・・・」


「ご心配なく、この方々は体が麻痺して動けないだけです。

命に別状はありません。麻痺も10分ほどで自然に取れます」


 状況が飲み込めずに混乱するアスト達をなだめるかのような優しい声音は、アスト達にはかえって不気味でしかなかった。

命に別状はないと言うのは、敵の言葉であるためあまり信用できない。

仮に本当だとしても、麻痺して動けなくなっては、戦闘が不利になる。



「このっ!!」


 ライカは猛スピードでスコーダーに接近し、風の刃を数発放った。

無論レイピアで突かれないように、距離は取っている。

だがスコーダーは向かってくる風の刃を無駄な動きなく全てかわした。

夜光とセリアもスコーダーに攻撃を仕掛けるが、近づく前に距離を取られ、逃げられてしまう。

 追いかけては逃げられるその様は、まるで鬼ごっこ。



「(目で追うことすらできなかった・・・認めたくないけど、こいつはあたしより速い)」


 アストで最も速く動けるライカでも、スコーダーのスピードに追い付くことができない。

スコーダー自身は、攻撃を避けるだけでなぜか反撃してこない。

その理由はわからないが、このままでは同じことのくり返しになると思ったライカは、”あること”を思いつき、夜光とセリアに通信を飛ばす。


『あんた達、あたしがあいつの動きを封じるから、その隙に攻撃を入れなさい』


 ライカの指示に対し、セリアは『でも、どうやって・・・』と不安げな声を出してしまう。


『イチかバチか、【エクスティブモード】で勝負してみるわ』


 ライカから聞き慣れない言葉に画面に映る夜光は首を傾げる。


『なんだよ? そのエクスなんとかって』


『エクスティブモードって言うのは、アストに内蔵されている強化システムよ!

それを使えば、あたしでもあいつに追いつくかもしれないわ!

でもあたしだけじゃ決定打を当てる自信はないから、あんた達もあたしの後に続いて仕掛けなさい』


『わっわかりました』


『エクスティブモードはエモーションの要領でダイヤルをエクスティブモードに合わせたら使えるわ。 言っておくけど、エクスティブモードは10秒しかもたないから、もたもたしないでよ?』


『(えらく短いな・・・)』




「精神力を強くレイピアに込めさせて頂きました。これならあなた方でも十分麻痺するでしょう」

 

 レイピアの刀身からすさまじい電流が流れる。

目に見えるほどの発光とバチバチと鳴る音が、電流にどれほどの力が宿っているかを夜光達に知らしめる



 夜光は腰に収めている2本の剣、闇双剣(えんそうけん)を抜き、記憶の中のアニメやゲームのキャラをマネて構える。


「(使ったことはないが、やっぱり拳よりこっちの方が威力ありそうだからな)」


 

 夜光達はマインドブレスレットをのカバーを開き、ダイヤルをエクスティブモードに合わせてボタンを押す。

するとマインドブレスレットから『エクスティブモード』と音声が鳴り、鎧が各アストの色に薄く輝いた。

3人は全身に力が湧いてくるのをはっきりと感じた。


「では、これで終わりにいたします」


 スコーダーは高速で夜光達に突っ込んできた。 


「(勝負は一瞬!)」


 ライカもほぼ同時に地面を蹴る。


「はっ!」


 スコーダーはライカを突こうとするが、ライカは風を帯びたピルウィルを剣のように扱い、レイピアを弾く。

スコーダーは一瞬よろめいたがすぐに体勢を立て直し、レイピアが帯びている電流を放出する。


「ヤバッ!」


 だがライカは電流をスレスレでかわし、ピルウィルで風の刃を放つ。


「くっ!」


 先ほどより風の数とスピードが上がっていることに動揺するも、全てかわし、電流での反撃を試みる。


「ちっ!」


ライカも負けじと電流をかわし、風の刃で応戦する。


「(スピードが互角とは厄介だな)」


 これまで自分と張り合えるほどのスピードを持つ者と戦ったことのないスコーダーにとって、ライカは天敵とも言える。

元々戦闘においては、相手を麻痺させるか自慢のスピードで翻弄して隙をつくといった短期戦が得意であったため、長期戦に関しては全く慣れていないので、若干防戦に徹底するスコーダー。


 しかし、これが間違いであった。


「がはぁぁぁ!!」


 ライカに集中するあまり、周囲への注意を疎かにしてしまったため、

背後から放たれたセリアの一撃をモロに喰らってしまった。

エクスティブモードのセリアは、剣から衝撃波を放てる。

その衝撃波は範囲が広く速いので、よろけたスコーダーは避ける暇がなかったのだ。


「ぐっ!!」


 傷はないが、セリアの攻撃によりスコーダーの体力や精神力が一気に減少し、強い疲労感に襲われ、地面に膝を着いてしまった。


「これくらいのハンデは勘弁してくれよ!?」


 すかさず夜光が闇双剣を持ってスコーダーに突撃する。

慣れない剣だが、疲労感で思うように動けないスコーダーになら確実に当てられる。


「これでどうだ!!」


 夜光はスコーダーに向けて2本の剣をクロス型に振り下ろした。


「ぐはぁぁぁ!!」


 夜光の一撃がスコーダーの胸に当たった。

周囲に鳴り響く金属音と大きな火花が、攻撃の威力を物語っていた。

不意をつかれたスコーダーは衝撃で倒れた。


「やったのか?」


 思わずフラグめいたことを口走ってしまった夜光。

案の定、倒れたスコーダーが体を起こして立ち上がった。

しかしかなりフラついており、胸を押さえて息を上げている。


「驚きましたね。まさか、これほどの力をもっているとは・・・!」


 スコーダーはふと、夜光達から目を離し、その後方に視線を向ける。

その視線に気づいた夜光も振り向くと、数キロ離れた場所からのろしが上がっていた。


「なんだよあれ?」


「どうやら、金品を全て運び終えたようですね。

これでもう足止めの必要はもうない」


スコーダーは、右手を夜光達に向けて、「では、失礼します」と右手から凄まじい光が発せられ、

夜光達は思わず、目を閉じてしまった。


「「「うっ!!」」」


 光が収まり、目を開けるとスコーダーの姿はすでになかった。


「・・・逃げたようだな」


 気配もなくなり、スコーダーは完全に撤退したようだ。

そのことにほっとした時だった。

突然、何かが倒れた音がしたと思ったら、

セリアとライカが倒れたのだ。


「おい、お前らどうし・・・」


 2人に声をかけようとした時、一瞬視界が歪んだと思ったら夜光も倒れ、そのまま意識を失った。




「・・・うっ!」


 夜光が目を覚ますとそこは、ホームの地下施設にある医療ルームのベッドの上だった。

辺りを見渡すとルドとセリナが心配そうに夜光の顔を覗いていた。


「気がついた?」

 

「・・・あれ? 俺なんでここに? それにお前らも」


 夜光はゆっくりとベッドから上半身を起こす。

体に痛みはないが、例えようのない疲労感が夜光を襲い、かなりふらついている。


「夜光達、エクスティブモードの反動で倒れたんだよ。

それでゴウマ国王がすぐに回収したんだ。

オレとセリナはお前らが戦っている間に回収されて、すぐに麻痺を治してもらったんだ」


「あれ? そうだったっけ?」


 セリナは顎に手をやって記憶を呼び起こそうとするが、思い出すことができなかったので、ルドが「無理に思い出さなくてもいい」と言うと思い出すことをすんなり諦めた。


「そういえば、セリアとライカはどうした?」


 夜光と同じく疲労で気を失ったセリアとライカ。

医務室内を見渡すが、ベッドで寝ているのは夜光と眠っているスノーラだけだ。


「2人はお前より先に目覚めて帰ったよ。あと、ゴウマ国王が君達のおかげで騎士団は全員退却できたって言ってたぜ?」


 ルドがそう言うと、セリナの「えぇぇぇ!!」と言う叫び声が部屋中に響いた。


「お父さんとセリアちゃん。先に帰っちゃったの!? ひどいよ私だけ置いて行くなんて!!」


 置いて行かれたと言わんばかりにプンスカと怒るセリナを、半眼のルドが見つめる。


「お前、自分で残ったんだろ? 夜光とスノーラが心配だからって」


「・・・そうだっけ?」


 首を傾げて記憶を掘り起こそうと奮闘するセリナ。

思い出すとは期待していない夜光とルドは放置することにした。



そこへ、「夜光!!」と誠児が入ってきた。

汗だくで息を荒くしている様子から、夜光のことが心配で駆け付けたのだと言うことはすぐにわかった。


「ゴウマ国王からお前が倒れたって聞いてな。訪問先から急いで駆け付けたんだ」


「誠児。俺だって無茶なことをして死ぬほどバカじゃねぇよ。心配するな」


 夜光はやれやれと言わんばかりに、再びベッドに横になり、余裕そうに大あくびをする

大丈夫そうな夜光のヨスに、誠児はひとまず安堵の表情を浮かべるも、「無茶はするなよ?」と念押しで釘を打つ。


「さてと、夜光も起きたし、スノーラも寝てるし、そろそろオレは帰るよ」


 ルドが振り向いた視線の先に、ぐっすりと眠っているスノーラが目に入った。

一声掛けようと思ったが、スヤスヤ眠っているスノーラを起こすのも悪いと思い、やめておいた。


「じゃあ、またマイコミでな」


そういうと、ルドは医療ルームを後にした。


「じゃあ、私も帰るね。またね夜光!」


夜光に手を振り、ルドを追いかけるようにセリナも医療ルームを後にした。


 その後、医師から診察結果に問題はないことを告げられた夜光は、誠児と共に寮へと帰宅することにした。



その日の夕方……。


ホームの屋上で、医療ルームを抜けて出したスノーラがベンチに座って台本を読んでいた。


「こんなとこで何やってんの?」

後ろから聞こえた声に反応して振り返ると、ライカがぶっきらぼうな顔で立っていた。


「ライカか。 お前こそどうした?」


「演劇の台本を忘れたから取り来たの。そしたら、慌てるスタッフ達があんたを探していたから、もしかしてと思って」


「そうか・・・ずっと寝ていて 特にやることもないから、台本を読んでいたんだ」


「そんなの医療ルームでやればいいでしょ?」


「医療ルームでは、この景色は見れないだろう?」

 

スノーラは夕日に包まれた街を見た。

そこには、まるで燃えているように真っ赤な世界が広がっていた。

ライカもスノーラの隣に座り、景色を眺めた。


「・・・少し変わったな。ライカ」


スノーラの急な発言に、ライカは「何よ・・・」と少し顔を赤くした。


「医療ルームの事もそうだが、お前が私達に向けてくる表情や言葉が以前と何か違う気がしてな?」


「何それ? 別にあたしは何も変わっていないわよ・・・まあ、もしそう見えるなら、すっごくムカつく親父に言いたい放題言われたのがきっかけかしらね」


 そう言うライカの目はとても優しい目だった。

スノーラはそれを見て何かを察したのか「・・・フッ・・・そうか」と詮索はしなかった。



 その後2人はスタッフ達が見つけるまで会話もせず、ただただ美しい夕日の世界を眺めていた。



 それから3日後……。


 ゴウマからの連絡でライカは朝早くから施設長室に呼び出された。


「失礼します」


 ノックと共に部屋に入ると、ゴウマが施設長席の引き出しから1枚の書類を取り出し、ライカの元へ歩みよった。


「すまないな。急に呼び出したりして」


「いや、特に予定もありませんでしたから。 それより、用件はなんですか?」


「まずはこれを見てくれ」


 

 そう言うと、ゴウマは先ほどの書類をライカに差し出した。

それは、就労支援の演劇プログラムの手続き書だった。

就労支援施設では、様々な種類の訓練があり、それを受けるにはこの手続き書がいる。


「でも確か、演劇プログラムは去年無くなったはずじゃあ」


 ホームが開いている演劇プログラムは、始めたころから徐々に訓練生が減っていき、すぐに自然消滅した。理由は単純に、演劇を学ぼうとする人がほとんどいないから。ホームメンバーは特性上、人前に立つことをいやがる者がほとんどだ。それに演劇では演技力やセリフなど、難しいスキルを要求されるので、役者を目指して就労に入る人間は今では1人もいない。


「実はな、演劇プログラムを再開するように、何度も申し出があったのでな。ワシも折れて、演劇プログラムの担当スタッフに頼んで、どうにか了承してもらってな?明日から再開することが決まったんだ。それを誰よりも先に君に伝えたかったので、わざわざ来てもらったんだ」



 役者を育成する施設は存在するが、障害者に配慮した施設は1つもないのだ。

それがこうして目の前に現れることは、 ライカにとっては夢のような話だった。

ただ、ライカには気になることがあった。


「あの、何度も申し出をしたのって誰ですか?」


そう聞くと、ゴウマは少しいじ悪そうな笑みを浮かべる。


「すまんな。本人の希望で名前は言えん。だが、心当たりはあるんじゃないか?」


 その瞬間、ライカの心にある人物が浮かんだ。




「確か、ここだったわね」


 手続き書を受けとったライカは、その足で夜光と誠児が住んでいるアパートに来た。

理由はもちろん、夜光に演劇プログラムの件のお礼を言うためだ。


「勢いで来ちゃったけど・・・あたし、男の人の部屋なんて入ったことがないわ。どっどうやって入ればいいのかしら・・・」


 アパートを目前とすると、ライカは顔を赤らめて足を止めてしまった。

これまで夜光とは何度も顔を合わせて話したにも関わらず、ライカは息を荒くし、心臓の鼓動が速くなるのを感じた。

それは緊張と似たような症状だが、明らかに緊張とは違うと確信できた。


「(ま・・・まさかあたし・・・あいつのことが・・・)」


 自分の夜光に対する気持ちを感じ取ったライカであったが、恥ずかしそうに首を横に振る。


「あぁぁ!! もうぉぉ!! たかがお礼だけで何やってんのよ!あたしは! 堂々としてればいいのよ!! 堂々と!!」


 盛大な独り言を撒き散らしたあと、再び足を進めるライカ。



 そして、夜光の部屋まであと2メートルくらいの所で、突然夜光の部屋のドアが開いた。


「じゃあね。昨日は楽しかったわ」


 そこから出てきたのは妖艶なオーラを纏った美女だった。


「・・・えっ?」


 かなり露出度の高い服で一目で遊び人だとわかる。

美女に続いて夜光も部屋から出てくるが、なぜかパンツ一枚だった。


「俺も久々に燃えたぜ。また、寂しくなったら指名するからな」


「お兄さんなら、次から半額にしてあげるわ。あんなに熱い夜はなかなか味わえないもの」


「嬉しいこと言ってくれるじゃねぇか。じゃあ次も頼むぜ?」


 そう言うと夜光と美女は名残惜しそうに熱いキスをした。


「・・・」


 その光景を見たと同時にライカの中で何かまがまがしいものが芽生えた。


「ふぁぁぁ。もう一眠りするか」


大きなあくびをしながら夜光が部屋へ戻ろうとした時、笑顔のライカが近づいてきた。


「お前こんな所で何してんだ?」

 ライカは無言のまま、ゆっくりと手を上げ……。


「死ね! このケダモノ!」


 顔を真っ赤にしたライカが怒りと嫉妬の混じった平手打ちを夜光の頬に喰らわせた。


「いてっ!! 何しやがるこのガキ!!」


「うるさい!! ちょっとでも、あんたに感謝しようとしたあたしがバカだったわ!!

二度とあたしにその不細工な顔を見せるな! このエロ親父!!」


 そう吐き捨てると、ライカは足早にその場を去って行く。


「待ちやがれ! このクソガキ!!」


 やり返そうとライカの後を追う夜光。

自分がパンツ1枚であることに気付いた時には、すでに通りかかった女性スタッフから悲鳴を上げられていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る