ふたりきりのはずが……

 夏の匂いが去年のことを思い出させるわけです。

 光命ひかりのみこととふたりきりでよく、公園に行ったことを懐かしんで、今日は、


 ふたりきりで出かけよう――


 としていたが、光命との子供、策羅さくらにまず見つかった。


「僕も行く〜〜!」


 しょうがないね。光命もパパになったってことだよ。


 三人で行くことになった。

 歩き出すと、明引呼あきひこがついて来ていて、


「肩に乗せてやっからよ」


 と言って、策羅を私たちから引き離した。


 お気遣い、ありがとうございます。


 光命と手をつないで歩いてゆく。

 がしかし、数歩も行かないうちに、子供たちが後ろからさらに、五人も追いかけて来た。


「僕たちも行く〜〜!」


 大人も一人来た。張飛が、


「俺っちが連れて来たっす!」


 しょうがないね。夏休みだからね。


 公園に到着して、孔明から電話がかかって来た。


「あれ? 来ないの?」

「倫ちゃん、ボク、風邪ひいちゃったみたいなんだよなぁ」

「何言ってるの? 病気にならない世界で、風邪なんか引かないでしょ? 疲れてるなら寝てよ」

「うん、そうする〜」


 変な電話だなと思っていると、張飛が、


「孔明、恥ずかしいっすよ」


 あぁ、そういうことか。

 あんなにクールなのに、恋わずらいの夫になるとはね。

 しょうがないな。


 孔明に電話をかけた。


「そんなに可能性、可能性いうのなら、いっそのこと逆の結論同士をごちゃ混ぜにしたら? 違うものが出てくるかもしれないよ」

「ふふっ」


 笑い声がもれると同時に、真っ白な薄手の布地がすうっと目の前に現れた。


「あ、孔明パパだ!」


 何だか、大人数の散歩になったなぁ〜。


 光命は策羅と音楽の話をしてる。

 張飛と孔明は並んで座って話してる。

 子供たちは走り回って遊んでる。

 明引呼……あれ? いない。どこに行った?


「おう! ガキ連れて来たぜ」


 また子供が増えて、チビたちは2組に分かれた。

 ということで、明引呼は子供と遊んでる。


 私1人ぼけっと、ベンチに座って空を眺める……。


 ――光命とふたりきりのはずが……。


 しばらくして、帰ることになり、


「チビたちは歩いて帰るの?」

「ん〜〜?」


 5歳だから、しょうがないと思う。

 だがしかし……。


「はい! 注目! 今はいいけど、自分の行動には責任を持とう。帰る時のことまで考えて、行動できるようにしよう」

「は〜い!」

「こっちは俺っちが連れて行くっす」


 お礼のために、張飛に頭を下げると、


「こっちはオレが連れてくぜ」


 明引呼が言って、子供たちを連れて、瞬間移動であっという間に消え去った。1人残った子供、策羅。


「もう歩けないよね?」

「うん……」

「策羅は仕方がないよ。まだ5歳になったばかりだから、体力もないし、今日が初めてだったし、先に言っておけばよかったね。遠いよって」


 孔明と光命しか残っていなかったが、明引呼がすぐに戻って来た。


「オレが連れてくぜ」

「あぁ、じゃあ、お願いします」

「行くぜ」


 ということで、子供たちは誰もいなくなり、張飛と明引呼はすぐに戻って来て、妻1人に夫4人。


 ――光命とふたりきりのはずが……。


 歩き出そうとすると、すぐ目の前に人が立った。


焉貴これたかさん……」

「俺も大人したいの」


 高校教師も大変だ。


「学校でも教師なのに、家でも教師だよね? これだけ子供の数が多いと」

「そう。教師のサガだからしょうがないんだけどね。休まないとね」

「じゃあ、行きますか」


 妻1人に夫5人。


 ――光命とふたりきりのはずが……。


 店に入っていこうとすると、焉貴が、


「何? お前、どこ行くの?」

「飲み物買うんだけど……」

「そう」


 売り場までやって来て、商品を見ながら、焉貴に話しかける。


「パイナップルがある!」

「お前、飲まないでしょ」


 背後から、陽だまりみたいな柔らかな声が聞こえて来た。


「きゃあ!」

「ん? 孔明さんの悲鳴というか、歓喜の声が……?」


 振り返った私は目を見開いた、見た光景が光景なだけに、


「何してるんですか!」


 釘付けになったまま、隣にいる夫の手をトントンと叩く。


「焉貴さん」

「何?」

「張飛さんが孔明さんをお姫さま抱っこして、くるくる回ってる」

「いつものこと」

「あぁ、そうなんだ」


 じゃれ合っている夫たちは置いておいて、私は焉貴と商品選びを再開した。


「じゃあ、やっぱり水? ジャスミン茶がないんだよね」

「そうね、ないね」


 もう1組いたよね? 夫たちは。

 あのふたりどこ行ったんだろう?


「そういえば、光さんと明引呼さ――!」


 後ろへ何気なく振り返ると、衝撃的な光景に出くわした。


「焉貴さん!」

「何?」

「明引呼さんが光さんを腕でがっちり捕まえて、キスしてる」

「やらせといて」


 何事もなかったように、妻は焉貴と商品をまた選び始めた。


「水じゃ味気ない――」

「お前、あれ」


 焉貴が指差した先を見て、目が輝いた。


「抹茶オレ!」


 緑色を目指して、ささっと歩みを進めて、値段を見てガックリと肩を落とす。


「高っ! 倍以上する!」

「いいから、買っちゃって」

「ん〜〜?」


 悩み続けている私に、焉貴から衝撃発言がやって来た。


「俺も飲むから」

「え……?」


 彫刻像のように彫りが深く、整った顔立ちを見つめる。髪は黒のボブだが、目は赤。


「洋風じゃないの? フルーツじゃないの?」

「抹茶は飲むから」

「じゃあ、これで」

「俺のとふたつね」

「はい」


 焉貴がまだら模様の声を、他の夫たちに無機質に響かせた。


「ほら! お前たち帰るよ」

「結局、教師なんだ」

「そう。夫夫ふうふ間でもそうなの。だから、大人したいの」


 店を出て歩き出す、わが家へと。だが、違和感を抱いた。


 あれ?

 ――光命とふたりきりのはずが……。

 どうして、焉貴と手つないで歩いてるんだろう?

 おかしいなぁ〜。


 そこで、なぜか、あの女装をする夫が脳裏をよぎった。


「そういえば、焉貴さん」

「何?」

るなすさんって思い浮かべるだけで、いつも『おや〜? 呼びましたか〜?』って言って、すぐに必ず来るんだよね」

「お前と月、心つながってんのかもね」


 ちょうどその時だった。凛とした澄んだ女性的な声が急に聞こえてきたのは。


「おや〜? 呼びましたか〜?」

「ほら、来た」


 妻1人に夫6人。


「月さんも息抜きですか?」

「えぇ、僕も少々休みたいんです〜」

「先生は大変だなぁ〜」


 ラブラブな4人はほっといて、歩き出す。焉貴の腕に捕まって、幽霊みたいにふわふわ浮いている人に、妻は疑問を抱いた。


「月さん、何でずっと浮遊してるんですか?」

「うふふふっ」


 あやしいなぁ。浮遊しなくてはいけない理由――あっ!

 光命と一緒か!


「たってる……ですね?」

「あ、そう。ちょっとお前、触らして」


 夫夫なので、何の遠慮もなく、色欲もなく、焉貴は手を当てる。


「あぁ、たっちゃってるね」


 焉貴の左手は私の手を握っているが、月命は焉貴の反対の右腕を組んでいる。ということで、


「焉貴さんとしたいんだったら、あの、全然連れて行って構わないですよ。私は――」


 疼くとか言うからね。月命は。

 焉貴が目当てだから、腕組んでるん――


「――君なんです〜」


 焉貴を間に挟んで、妻と月命は見つめ合う。


「あぁ、私をご指名ですか……。瞬間移動できないので、家に帰るまで待っててください」


 孔明は途中ではしゃぎ疲れて眠り、張飛とともに別の部屋へと戻った。


 複数プレイが好きな月命が主催ということで、


 光命、焉貴、月命、明引呼と私の五人で、です。


 そうして、ひとしきり終わったあとに、し足りなかった光命が、


「夕霧のところへ行って来ます」


 彼が部屋から出て行って、私は思った。


 あれ?

 ――光命とふたりきりのはずが……。


 2019年7月13日、土曜日

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