17/ 厄介な者たち 2

――コイツら……邪魔ッ!


 現在、『トイザらス』子育て応援コーナーにいるサナは正面からは警報を聞きつけた斧使いがエモノをぶんぶん振り回しながら走って来るのを見た。もたもた打開策を考えている暇はない。この警報を掻い潜る方法よりも、今は斧使いから距離を置く事が先決だ。

 サナは強引にミニカーやラジコンの群れを突破し玩具が散乱したコーナーに足を踏み入れた。おそらく小学生向けに設けられたのだろう。コーナーの角を折れて直進すれば出口は自ずとたどり着く。しかし、ここは主に小学生を対象に玩具が並ぶコーナーだ。つまり――


「うっわ……!?」


 前方からラジコンの群れが迫って来た。そう、ここはラジコンやらミニカーの根城とも言える場所なのだ。引き返そうにも背後には斧使いが迫っている。ならばすべきことはひとつ。


「強行突破ッ!」


 所詮は玩具。わたしの疾走を阻むことはできない。出口はすぐそこだ。サナは口角を歪ませた。ここから抜け出せばこちらに分がある。

 だがそれもつかの間。サナの顔から笑みが消えた。


「うっそ……」


 もう一体の斧使いが目の前に立ちはだかったのだ。姿形は異なれど、その手には相変わらず鉄の斧。ぶっちゃけ何体いても不思議ではないが武器を持っていない状態でのエンカウントは断固避けたかった。

 だがサナの闘志は完全には消えていなかった。奴らに知恵がないのなら打開策は必ず存在する。


『諦めたらそこで試合終了ですよ……?』とどこぞの偉人が言ってたっけ?


 サナは幼い頃に培った観察力を活かして辺りを見回した。すると如何にも神々しい雰囲気を漂わせる剣が残骸に埋もれているではないか。


「伝説の剣が折れてやがる……」


 当然、レプリカだ。これが本物だったら一掃できているのに。

 馬鹿な事を考えている間にも奴らは迫っている。万事休す。だからシンプルに身を低くして鉄兜で突進をした。虚を突かれた前方の斧使いは僅かに硬直。その隙に出口へ駆け抜けた。


「えッ!?」


 サナは驚愕を隠せずにいた。横からもさらに別の斧使いが走ってきている。


 何体いるんだよッ!? 


 後ろはもとより、左右の行く手を封じられたサナが選んだのは、


「やあッ!」


 正面だった。バリケードの向こうに道はない。だが自分でも信じられないくらい躊躇うことなく身を乗り出した。ここは二階だ。高さもそれほどではない。その上、甲冑も身に着けているので死ぬ事はないだろう。


「――――ッ!?」


 まぁ絶対死なないと分かっていても、飛び降りる事に抵抗がないと言えば嘘になるが。怖いものは怖い。

 瓦礫と廃材がクッションとなり、思っていた以上に痛みはない。「怖かった」サナは兜の中でぼそりと呟いた。

 だが呑気にしている場合ではない。サナはすぐさま立ち上がり、『トイザらス』の真下、スポーツ用品を扱うテナントへ駆けた。

 数時間前はマネキンの群れに追われて立ち入る事は叶わなかったが、今は隣のブティックに幽閉してあるためここにマネキンは一体もいないと言っていい。二階からは床を走る忙しい音がけたたましく響き渡る。だがここまで来るためには一度階段を降りなければならないため、僅かだが武器を探す時間を確保できるというわけだ。それこそ奴らがわたしみたいなダイナミックな行為をしない限りは。


――ま、ポルターガイストだしね。


 四体の斧使いがほぼ同時に落ちてきた。安否など確かめるまでもない。二階から飛び降りた程度の衝撃では蚊に刺されたように痛みすら感じないだろう。屋上からでも結果は変わらないかもしれないが。おまけにドローンも連れてきているし。


 サナは逃げながらもテナントを観察した。穴の開いたシューズやスパイク、革の破れたボールやスプレー缶があちらこちらに転がっている。


――目ぼしい物はいくつかあるんだけど……。


 ゴルフクラブは胴が細いため耐久性に期待が持てず却下。

 竹刀も割り箸のように折られてしまいそうで心許ない。


 ならばこれしかない。


 サナは瓦礫の下敷きになっていた金属バットを無造作に引き抜いた。少々重く感じるが、振り回す程度なら支障はない。上手くすれば攻撃を防ぐこともできるし一石二鳥。凹みが目立つものの今までで一番の武器だ。


「どーすっかなぁ……」


 金属バットを抱えるようにして柱の陰に身を潜めて様子を窺う。地上には四体の斧使い、そして上空からは数機のドローンが徘徊しており、まるで脱獄している気分。最悪、斧使いらはやり過ごしても構わない。しかしドローンは厄介だ。奴らが上空にいる以上、金属バットは地の利を生かす事ができない。


――撃墜してやる……!


 サナの立てた作戦はこうだ。

 得意とする投擲で警報が鳴る前に奇襲を仕掛ける。精密機械ゆえに衝撃にはめっぽう弱く、すぐに墜落すると耳にした事があった。そしてバランスを失ったドローンは地面に叩きつけられてジ・エンド。

 ただ問題があるとすれば、彼女の華奢な肩力で届くかどうか。制球力は抜群に秀でているが球速は並程度であまりパッとしない。不安要素が強い作戦を実行するわけにはいかなかった。

 身体を丸めてもう一度算段を立て直そうとした、その時。サナは天を仰いだ。いつの間にか一機のドローンが上空からサナを見下ろしていたのだ。


――鳴る……!


 衝動に駆られたサナは当初の作戦に賭けた。手に収まるサイズの瓦礫を拾い上げ、ドローン目がけてクロウホップ。


『Pr……』


 投じた瓦礫は弧を描いてドローンのブレードに命中した。ふらふらと空中でおぼつかない挙動を示し、やがて床に叩きつけられる。


――あ、届くじゃん


 これまでの戦闘で自然に地肩が鍛えられたのかもしれない。しかし何がともあれ警報が鳴り響く前に撃墜できたのは大きい。この調子で他のドローンも破壊せねば。


 柱から少し顔を覗かせて辺りを検めた。斧使いが近くを徘徊している。当分、この場から離れないほうが良さそうだ。サナは声を押し殺して僅かな物音も立てまいと努めた。

 そんな時、アクシデントが彼女を襲う。足元をかさかさと蠢く楕円形のシルエットは薄暗くてもその姿を認識できた。


「きゃあ……!?」


 どうやら徘徊していたのはポルターガイストだけではなかった。まぁこれだけ汚ければ奴らだって居つくだろう。当然、驚嘆と可愛らしさが混じり合った声は近くにいた奴の耳に届く。挙句の果てに柱の陰から飛び出してしまうし。植えついた嫌悪感に首を絞められるとは誰が予測できただろうか。


 しかし見つかってしまった以上、応戦せざるを得ない。幸い、周辺に奴らはおらず武器も入手済み。

 散々怖がらせてくれたお礼に、その脳天に金属の棒をぶち込んであげる。威勢の良さに反して、彼女の腰は引けていた。

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