10/ 水 3

 続いてサナが踏み入ったのは、惣菜コーナーの斜め前に位置する鮮魚コーナーだった。


「くっさ……!?」


 サナは咄嗟に鼻を摘んだ。コーナー内に強烈な腐敗臭が充満していたからだ。嬉々として飛び交う大量の蝿

 が嫌悪感に相乗効果を生み出す。


「ぅぷ……」


 鼻につく臭いが吐き気を促す。長居はしたくない。そこからは手早かった。冷蔵庫を開いては閉じる作業を繰り返す。だが結果は虚しく、食料の確保は叶わなかった。


「これは使えそう」


 サナは事務机の上に置いてあったライターを取り上げると、それを無造作にポーチへ収めた。これで火の心配はない。



 早々に、鮮魚コーナーから飛び出したサナは果菜コーナーへ赴いた。ここも腐敗臭が漂っているらしいが鮮魚コーナーにて嗅覚がマヒしていた彼女はこれといって嫌悪感を示さなかった。

 サナは手当たり次第に部屋を物色していく。ここでの収穫は残り少なくなったガムテープくらいしか使えるものはなかった。


 当然、水および食料はない。


 通路の奥へと進んでいき、たどり着いたのは倉庫だった。百円ショップ同様に段ボール箱が散乱している。足の踏み場もほとんどない。構わずサナは泳ぐように庫内は荒らしていった。


「うん?」


 するとサナの指先が何かに触れた。

 えい、と。引っこ抜いた途端、サナは目を爛々と輝かせた。


「た、食べものだあッ!」


 かつて真っ白だったと思われる切餅はカビに犯され緑色に変色している。削れば食べられる……はず。なにより腹持ちがいい。気分が良くなったサナは手早く物品を漁り続けた。



「これぐらいか」


 倉庫なだけあって目ぼしいものがいくつかあった。ほかにも金槌やカッターナイフ、麻縄などを入手できた。しかしサナは満足には至らなかった。肝心の水はなかったのだから。


「そうだ」


 サナは帯びたつっぱり棒の先端部分を外し空洞になった筒に金槌を刺してガムテープで固定させる。さらに盾の代わりに使っていた鍋蓋もまた、ガムテープで左腕に括りつけた。これでつっぱり棒が持ちやすくなる。攻守ともに耐久力に欠けるのが難点だが。


「ないよりは全然マシよね」


 サナは金槌付きのつっぱり棒を両手で縋るように握りしめて、陳列棚の陰に隠れながら隅をキープして動き出した。裏口が封鎖されていなければ危険を冒さず出れたんだけどね。


 それにしても、奴ら全然気づいてない。見向きもしないし、お馬鹿さん。

 サナはレジカウンターを抜け、ひっそりと食品売り場から姿を消した。


 ゴーレム? ガラクタ人間? 知らないよ、そんなの。


 願わくば、互いに潰しあっていて下さい。

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