05/ おばけやしき

「行列じゃん」


 案の定、どのテナントにも長蛇の列ができていた。その中で最も人だかりが多いのは『マクドナルド』。続いて『ミスタードーナツ』。さすがはファストフードの代表格だ。次々と最後尾が入れ替わり、列がまったく捌けていない。美味しいのは否めないけどそうまでして食べたいとは思わないかな。これにはアカリも同意らしいし。


「すんごい人。ここまでして食べたくないな」


「そだね。どうする? 帰る?」


 最後まで付き合うと言った手前、帰るのは気が引ける。が、ぶっちゃけ帰りたかった。朝から人ごみに埋もれっぱなしで、ぶつからないように気を遣いながら歩き続けて今に至る。上京して日が浅い田舎出のサナには些か酷だった。しかしアカリにその意思はないらしい。


「予約だけしてどっかで時間潰そうよ」


 やはり食欲には抗えないか。かくいうわたしもお腹が減ったのは事実だし。一時間くらい暇を持て余しても問題ないだろう。


「そうだね。そうしよっか」


 サナは引きつった笑みを浮かべて、気付かれないようにため息をついた。


――この過密モールを一時間も歩くのか……。


 都会、やはりおそるべし。




「何だろ? あの列」


 二階をぶらついていたふたりは、行列の原因を探るべく近づいた。


「なるほど」


「定番だね」


 というのも、立て札には不気味なフォントで『おばけやしき』の文字が。小学生以下を対象にして設けられた施設だとは思うが、中学生や高校生、成人のカップルもチラホラ窺える。それを見たアカリが拳をギュッと握り締めて意気込んだ。


「今こそ、当初の目的を果たすべき」


「当初の目的? それって……」


「そう、肝試し!」


――こんなところでッ!?


 サナはギョッとして隣を振り向いた。ショッピングモールでしかも子供向けの肝試しでいいのかしら。だが友人の決心は固く、手を引っ張られたサナは最後尾へ並んだ。

 ほどなくして、自分達の順番が訪れた。「入場券はお持ちですか?」と聞かれたので首を振って否定すると六百円を要求された。


――お金取るんだ……。


 小学生以下で無料、中学生以上は決まって同じ金額らしい。よく立て札を見てなかったわたしに落ち度があるが今さら引くに引けない。なにより友人の財布の紐は緩く、意気揚々として千円札をスタッフに手渡している。目を輝かせたアカリの気持ちを無下に踏みにじるわけにはいかない。サナは渋々、ぴったり六百円を支払ってから揃って暗闇の中へ身を投じた。


「結構、暗いね。さっちん、怖くない?」


「まだ平気だけど」


 まあ、暗いと言っても真っ暗ではない。隣にいる友人の顔くらいなら覗える。


「手、握ってあげようか?」


「いや、大丈夫だけど」


――本当に大丈夫だから。


「無理しないで」


「だから平気…………って、もしかして怖いの?」


「べ、別に怖くないし……!」


 本人は頑なに否定しているが、声が震えている。強がっているのは明白だ。

 仕方ないなぁ。サナはアカリの手を取ってギュッと握り締めた。まったく、子供向けの肝試しでビビるなんて高校生が聞いて呆れるよ。まぁ、わたしも余裕があると言ったら半分嘘なんだけどね。

 そして奥に進めば進むほど、アカリの握力が強くなっていく。


「あの……痛いです」


「女の子でしょ! 我慢しなさい」


 それは男の子への決まり文句だと思うが。

 やがて、折り返し地点を表す立て札に到達した。どうやらここが最奥のようだ。あとは光を目指すだけ。もう少しの辛抱だから。

 角を二回ほど折れただろうか。ようやく出口が見えてきた。


「ほら。もうすぐ出口だよ」


「ふぅん。まあまあだったかな」


 よく言うよ……。サナは呆れていた。でもクオリティもそんなに悪くなかったし、友人の意外な一面を知れたしで六百円以上の価値はあったのかな。そして光がふたりを包み込む――……。

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