04/ 超大型ショッピングモール

「相変わらず人が多いわ……」


 サナは参っていた。季節は夏。炎天下で忙しく行きかう人々を容赦なく照り付ける陽光が心底憎い。こうして一人暮らしをしていれば嫌でも分かる都心部の過酷さ。実家のある田舎の真夏日とは雲泥の差だった。


「いい加減に慣れなよ、さっちん」


 アカリはすました態度で言った。幼い少女のようなあどけない顔立ち。額には汗を滲ませているもその表情にはまだ余力があった。限りなく白に近い、淡い青色のカットソーにすらりと伸びたジーンズを着こなしている。


 それに比べて、わたしの服装はどう思われているのだろうか。


 薄い緑色の薄手のジップパーカーにデニムのホットパンツ、動きやすさを重視した安っぽいスニーカーをざっと一瞥してみた。同じカジュアルな服装でも都会と田舎では見劣りしてしまう自分が恨めしい。


「そう言われてもぉ……」


 生まれも育ちも東京のアカリと異なり、サナは上京して日が浅く空気に慣れていないのは当然だった。だが半年もあれば、今よりずっと気持ちが楽になる……はず。


「さ、着いたよさっちん」


 アカリと共にやって来たのは、近隣住民はもちろん観光名所として遠方から足を運ぶ者も少なくないテーマパークを模した都内随一の超大型ショッピングモール。正面入口のアーチにはでかでかと『RUTEMIS』と刻まれている。


「さっちん! 着いたよ、ルテモッ!」


 〝ルテモ〟とは〝ルテミス・モール〟の略称で都会の人は皆そう呼んでいるらしい。


「わたしの地元の御神木より大きいよ」


「そりゃ、高いお金払っているからね。田舎の木に負けるわけないじゃん」


 むっとしたサナは口を尖らせて言った。「それ褒めてる?」


「さーどうだろ?」


 笑ってごまかすアカリ。あ、これは遠回しに貶しているな、きっと。




「さっちん。レストラン街って何階だっけ?」


「確か……」サナは低く唸った。「二階だったはず」


「そっか」


「わたし、ここに来たの今日で二度目なんだけど。アカリのほうが詳しいと思うんだけれど」


「覚えが悪い頭でして、えへへ」


 よく言うよ。実力テストで学年十位以内に入るのにさ。


「ま、そうと分かれば食べに行こうよ! お腹減った!」


 それには同意を示さざるを得ない。ふたりは早々とモールに入っていった。


「『紅牙亭』って中華料理店の麻婆豆腐が絶品なんだよ」


「そうなんだ」


 それは良いことを聞いた――……って、記憶力いいじゃんッ!




 一時過ぎとは言え、モール内は人であふれていた。

 ざっと一瞥してみたところ、どうやら学生の比率が多い。夏休み期間なのはわたし達だけではないようだ。

 人ごみを避けながら歩くのは億劫だったが今朝の通勤ラッシュに比べれば易しいもの。しかしこれだけ人が多いとなるとレストラン街はすべて満席ではなかろうか。アカリの勧めた人気中華料理店ならなおの事。だが、高揚している友人に水を注すわけにはいかない。あえて何も言わずに二階のレストラン街を目指した。


 期待はせずに。

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