02/ 幼馴染 2

 幼馴染が失踪したという情報を耳にしたのは、彼が都会へ引っ越してから三年後の昼下がりだった。小学校二年生に進級したサナはニュースキャスターの言葉を聞いて唖然とした。


「……」


 サナは声はおろか嗚咽すら漏れる事はなかった。そんな視聴者の気持ちなどつゆ知らず、ニュースキャスターは淡々と告げる。


『昨日の昼頃、東京都内のショッピングモールで小学校五年生の男子児童ひとりが行方不明になりました』


 ニュースキャスターの発言に伴い、男子児童の顔写真が画面いっぱいに映しだされた。間違いない、彼だ。ご丁寧に名前と年齢まで表示されている。続いて提示された写真。三年前にふたりで撮ったもの。プライバシー保護のため、サナの顔にはモザイク加工が施されている。


『ショッピングモールで催された『おばけやしき』というイベントに友人ら四人と入場したところ、出てきたのは彼を除いた三人だけでした。その後、次に入場した男性と女性が彼より先に帰ってきたため不審に思った係員が中に入って詮索したところ発見には至らなかったとのことです』


 そんな……。サナは食い入るようにテレビを眺めていた。


『そこで我々は当事者にお話を伺いました』言葉と同時に画面が切り替わり、小学生が現れた。


『おれたち一列になって歩いた』と友人S。

 すかさず友人Aは、彼が『前から二列目だった』と証言。

 友人Hが『暗くてあんまり見えなかったけど一本道だしはぐれることはないと思う』そう告げる。

 係員も丁寧な口調で似たようなことを話していた。彼らの後に入場したカップルと思しきふたりにも問う。

 ふたりは口を揃えて答えた。『誰もいませんでしたよ』


 続いて見慣れた顔が映しだされ、サナは思わずハッとした。彼の両親だった。三年前と比べて皺が明らかになっている。当然と言えば当然だが。


『家出するような子ではなかった。クラス付き合いも良好で友達を家に招いたことも多い』


 サナに複雑な思いが募る。行方が分からなくなったのは心配だが、昔とちっとも変わっていないことに安堵を覚えたからだ。


 再度、画面がスタジオに切り替わる。


『現在、捜査員が総動してショッピングモールやその界隈を徹底的に調べ上げていますが、未だ情報は入っていません。続いて――……』


 サナはテレビを消した。背後で洗濯物を畳んでいた母が「大丈夫よ」と穏やかに言う。


「そ、そうだよね……! きっと見つかるよ……!」そう自分に言い聞かせた。強がりに過ぎないのは自覚している。しかしサナの表情は微かに曇っていた。それが妙な胸騒ぎによるものだと、あえて母に伝えなかった。



          §



 時の流れは無慈悲なもので留まる事を知らない。十六歳になったサナは東京に上京した。地元には美術部がなかったが故、都内の高校へ進学を決めた。

 五年ほど前から、彼の存在を強引に忘れようとした。嫌いになったわけではない。未だ発見に至らない彼を『死んだ』と揶揄されるたび、胸を締め付けられるからだ。しかし邪気を祓うように払拭しようと試みるも、サナにとって彼の存在はなんと大きいことか。


 その結果、忘れることができず、もやもやした気分は今も心を蝕んでいる。

 思い出に浸るサナを呼び戻したのはポップな着信音。スマホを起動させて通知を確認。着信元は高校の級友からだった。


「明日から夏休みだし、肝試しに行こうよ」

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