第26話 祭りその1
曇天の空の下、和彦や咲達は、車の部品の製造というやりがいがたいして求められるわけでもない仕事を、表面上では企業貢献だとかやりがいがあるだとか嘘八百の御託を並べ、やりたくないしつまらないという本音を隠し、ただ仕方がなく機械から出てくる部品を黙々と目視している。
休憩のベルが鳴り、彼等や作業員達は背伸びをして丸く筋肉が固まりかけている背中を伸ばしてストレッチをして、立ち上がり喫煙所や休憩所でコーヒーを飲もうと部屋を出ていく。
「なあっ……」
夜勤明けで出勤した為、眠たそうな顔をした一平が指でタバコを吸いに行こうという合図をしながら口を開く。
「?何だよ」
「明後日によ、音楽祭あるけど、お前と咲ちゃん出るのか?」
「あ、いや、行かないが……」
一平の核心を突くような問いかけに和彦は、つい本当のことを話そうかと思ったが、どうせ上の人間に話が伝わり、やめろと言われるのがオチだなと思い、口をつぐむ。
「ふぅーん……本当に?」
「いや本当だよ、出ないよ。てか、観に行くの?」
「あぁ、貴子と行くよ」
「そっか、行ってこいよ。俺行かないから」
一平達に観られて変な噂を流されたくないなと思いながら、興味がないふりをして話を切り上げようと和彦はしている。
「ふーん、咲ちゃんとは?」
「行……かないよ。あの子も用事があるんだよ」
学生の頃、教師達による、素直になれとの洗脳じみた言葉が頭に呪文のようにこびりついて離れない和彦は、つい素直に本当のことを話しそうになるのを抑えて、嘘を一つつく。
「ふぅーん、用事ねぇ……」
一平は、和彦達が本当は音楽祭に行くのではないかと疑いにかかっている。
部屋のドアが開き、咲が部屋の中に入ってくる。
「ねぇコーヒー飲みに行きましょうよ、休憩終わっちゃいますよ」
「あぁ、分かった、今行くから先行ってて」
咲は言い終えた後に一平の言葉を聞いて、部屋から出て行く。
部屋に一平と和彦しかいなくなり、一平は周りを見回して誰もいないことを確認して、再度和彦に口を開く。
「まぁお前さん達がなにやってっかは突っ込まねーがな、ただ、活動するんだったらな、顔出しや実名は出さないほうが良いぞ、今のご時世、些細な事で炎上するからな……」
一平は達観した顔で和彦にそう言って、部屋から出ていく。
(薄々感づかれてる、のか……やばいな、曲はできてるからいいが、バレないようにしねぇとな……)
和彦は新しくできた悩みをどうやって解決するか、取り敢えず目の前の仕事を終わらせてから考えようか、その前にタバコを吸おうと思い、部屋から出て行った。
♫♫♫♫
V駅から徒歩20分圏内のエリアに貸しコンテナがあり、そこが和彦と咲の秘密基地となり、秘密の練習が夜な夜な行われている。
勤務中の休憩の時に一平が話した事を、和彦は咲に話すと、咲も複雑な表情を浮かべている。
「どうすっか? これ……身バレしてまたなんかな、面倒くさいことになったらいやなんだがなぁ……」
「うーん、実は私も貴子さんに言われたんですよ、全く同じ事……」
「えーまじかー! やっぱ俺たちバレてるのかも知れねーな! ストリートで活動できやしねぇ! やばたにえんだな……!」
「やばたにえんって……フフフ! 女子高生みたい! ねぇそれってひょっとして、LINEニュースで知ったんじゃないですかぁ〜!」
「ギクリ……!」
「ギクリ、って……うわぁ〜お茶目ですねぇ! なんか可愛いですね和さん」
「そ、それは……まぁ、そんな事よりもだよ、バレないようにしなきゃだよ!」
和彦は、咲とのコミニュケーションを取りたくてラインニュースを見て余計な知識が身についてしまった年相応の言葉を発したことを少し後悔しながら、タバコに火をつけようとするが、タバコが全くないことに気がついた。
「やばいな、タバコないや、買いに行かなきゃな」
「私もトイレに行かなきゃ」
「んなら、ここ出て公園に行くか。てかあそこってなんか祭りでもあるの? 屋台が出てたが」
「あぁ、なんかね、それなりに大きな神社があるのでそこで祭りを毎月やってるんですよ。それが今日なんですよ、まだ18時なんで、屋台が出てるかも知れないですよ」
「ふぅーんそっか。俺この街長く住んでるけど、それは知らなかったなあ。てか、引きこもりだったから忘れてたよ。気晴らしに行くか、もう曲はできてるし、明日リハやるだけだ」
「そうですよね、晩ご飯は屋台のやつでいいや、焼きそばかお好み焼きを食べよう。行きましょっか」
咲は和彦の手を握り、扉を開ける。
和彦は、ボディタッチを最近何気にやってくる咲に、自分に惚れているのではないかと一瞬思うのだが、自分ではダメなんだと生来のネガティブな思考にすぐに戻り、部屋を出て行った。
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