第688話
情報部はウランベシカの再調査をすることになった。結界の属性はともかく、滅びた原因の調査のためだ。結界の属性は実際に触れた火龍に確認すれば簡単にわかることだ。
「とりあえず、結界はエルスカントの尾根にのみ張られていたんだよね?」
「はい。調査員が尾根に触れたのですが結界は尾根を覆うように張られていたと報告されています」
古くから尾根は神聖なものとされていたが、ウランベシカの国教となったことで信仰の象徴でもある。遠目からは黒光りするウロコをもつ龍が眠っているように見える。火龍の話では、その鱗のように見えるのは黒曜石だそうだ。
信者はその黒曜石に触れて神の存在を感じ、龍の偉大さを思い知る……らしい。
「らしい?」
「はい、国内ではそう言われていました」
「実際は?」
「尾根が龍に見えるのは確かです。そしてその黒龍は大地に属する一族であり、姿かたちから迫害を受けて倒された黒龍が大地に還った姿。
メッシュが数冊の絵本を机に載せる。そのどれもがエルスカントの尾根が龍だったという伝説を伝えるものだ。おじいちゃんがフィムに与えた絵本にもあった。
「火龍の話では、黒龍は寿命だったらしい。だからこそ大地に還った」
「……だよね〜」
言い伝えどおりの悪龍であるなら、一度目の討伐のあとには身が崩れた
「その腐臭や体液が、この世界に竜人を生み出した原因なんだから」
それが事実であるからこそ、その身を遺した黒龍は『龍であるが悪龍ではない』といえるのだ。
「そして、龍の血を受け継いだ竜人だからこそその身に遺された結界が効かず、出入りできるんだろうね」
同じ龍である火龍、そして悪龍と戦いその身を竜人に変えた人たちの子孫。彼らだけが通ることのできる結界。人から竜人に身を変えたダイバたちの祖先……この世界の英雄、勇者たちが迫害を受けずに生きられる場所を提供していたと思われる。
それは……黒龍からの謝罪と感謝も含まれているのだろう。
火龍の話では、悪龍と化した仲間の暴走を止めるために立ち上がり、多数の犠牲を払って倒してくれた。同族同士では互いに半死半生となるがトドメを刺すことはできない。黒龍は悪龍相手に半死半生となりながらも戦い、あとを人々に託したという……世界も悪龍のトドメも。
「たぶん……仮定の話なんだけど、自身の巨体を使って空間魔法を使い『龍の血を継ぐもの』を通す結界を張ったんだろうね。だから竜人が出入りできて、同種の火龍は抵抗を受けなかった」
「そんな魔法はあるのか?」
「ないよ。ただし、死を目前にして無限の力が発揮されたとしてもおかしくはないよね。だって龍だもん、それも火龍が自分より強かったと認めている神話ランクの黒龍」
悪龍が世界を滅ぼすと言われるくらい強かったという。その悪龍と同等の力を持つ神龍が黒龍。黒いからと言って悪い龍ではない、とだけ言っておこう。そして悪龍は神々しい銀色の龍だったこともあわせて付け足しておく。
「仲のいい
そう、悪龍こと銀龍と黒龍は夫婦龍であり……火龍の両親でもあった。
人の悪意が黒龍を襲った。銀龍を神と崇めると共に、黒龍を悪と見做した。
「神々しい神の龍の隣に寄り添うに相応しくない色」
「いずれは銀龍を闇に染めるだろう」
人はどこまで愚かなのか。
黒龍は死してのちに黒曜石に身を変えたというのに。月のない
しかし、当時の人間は愚かだった。
黒龍を襲い、
〈よくも我ら神龍を……!!! 赦すことなどせぬ!!!〉
黒龍と共に呪いをその身に受けた銀龍は悪龍と化した。一瞬で襲ってきた人々を消し去った。その中でも呪いをかけた者たちは、全身が腐食した状態で何度も生まれ変わった。
銀龍と黒龍が守ったもの、それは火龍たち幼き
「ダイバやアゴールたちから、懐かしい
だからこそ、ダイバたち竜人のために一生懸命になる。そして
ダイバたちが心配しているのは、ナナシの封印を取り出した場合、黒龍の死体が崩れるのではないかという点だろう。
「たしかにナナシの封印があの結界を作り出したんだと思う。でもエルスカントの尾根自体は黒龍が大地に還っただけ。大きな存在の遺骸が山脈になったって伝説は私の世界にもあったよ」
いまは火龍が
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