第609話


「ネージュたち生き残った冒険者が、ムルコルスタ大陸の封印された国に調査に行った」


コルデさんとアルマンさんが私の家出中にあったことを話してくれた。

襲撃を警戒して、馬車に結界の魔導具を設置して移動したそうだ。その冒険者の中にアクアやマリン、マーレンくんも加わったらしい。


「もう泣いて後悔することはしたくない」


ユージンさんは万能薬で喪失した右足が回復したとはいえ、いまもなおリハビリを続けている。失っていたのは足だけではなく肺機能なども低下していたのだ。万能薬で回復しても、それはすぐに動き回れるわけではない。蘇生させた組織は生まれたての赤ん坊と同じ。立つ・歩くという動きを覚えさせなければいけない。


「アイツらはフィシスから自分たちの出生を知ったようだ。その上で冒険者を続けると決めて『守られるだけの存在から卒業する』と宣言した」


死んだ仲間の分も魔物から人々を守ると誓った3人は、ルーフォートの復興に協力しているそうだ。


「結論から言うと、北の国は封じられた状態だ」

「範囲は?」

「国境線から変わらず入れなかったようだ」


コルスターナの湿地帯は封印になっているのがコルスターナ王家の血統者。じゃあ、北の国の封印は……?


「北の国は神の手で滅びたからなあ」


アルマンさんが「お手上げだ」と呟く。


「……あれ? アルマンさん。そういえば北の国ってあの交渉が決裂した怨恨から罪を犯して逃げたっていう王族の交渉人によって滅びたんだよね?」

「ああ、そうだ」

「国の範囲から考えたら、生き残っている人があの交渉人以外にもいるんじゃない?」


コルスターナにある湿地帯の封印はミスリアだけの気がする。それでも封印の範囲は何キロもある。


「北の国は大きかったよね。その範囲すべてを覆えるくらいを、たとえ不死人しなずびとになったとはいえたった1人の存在で封印できるとは思えない」

「じゃあ、その北の国の封印は別の存在だと言うことか?」


ダイバの言葉に頷く。不死人しなずびとは、はるか昔からある罰だ。しかし、その不死人しなずびととなった全員が永遠に彷徨さまよっているわけではない。


「反省すれば神にゆるされる罰だ。実際に何千年も続いている不死人しなずびとは北の国の王族だけだ」

「その交渉人だった不死人しなずびとって……どこにいるの? まだ不死人しなずびとのままでいるという証拠は?」


一度は国に戻っている。王都までたどり着いても国民も国王も誰もいなかった。そう伝説に残っている。不死人しなずびとにされて、誰もいない国でも戻りたくて……封印されて戻れなかった。いまもなお国境で嘆いているという。

そこで伝説は終わっている。追加情報もなく、誰もその不死人しなずびとを確認したこともない。


「証拠は………………ないな」

「ああ、『彼が死んだら封印が解かれる』と言われているが、その言葉は神の言葉ではない」


じゃあ、誰がその言葉を広めたのか。


「伝説がどこからきたのか。知らないといけない」

「エミリア、何を考えている?」

「……旧シメオン国の流民るみんは本当に追放されたの? 『ナナシの封印を解く手がかりを求めて各国を回り、大陸を渡って世界に広がった』って考えられない?」


それだと根本的な話が変わってくる。しかし、それがナナシの行方を知る手がかりになるだろう。

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