第590話


「ってことで、報告おっわり!」


ビシッと敬礼すると妖精たちも一緒に敬礼をした。


「「「ちょいまてーい!」」」

「おっ前たちはっ! 外で何をしてきたあああ!」


シーズルの目が吊り上がっている。ちゃんと報告しているのに……


「人助け」

《 エルフ助け 》

《 ハーフエルフ助け 》

《 妖精たちも助けてきたよ 》

《 植物も助けてきたよ 》

《 植物は妖精の庭に移した 》

《 貴重な植物もあったから大切に育てるよ 》

「そんなこと聞いてるんじゃなあああい!」


シーズルは何故かおいかり中。なんで〜? そんなシーズルをダイバが呆れたように息を吐いて止める。


「シーズル、まて」

《 シーズル、おすわり 》

《 シーズル、お手 》

《 シーズル、おかわり 》

「シーズル、伏せ」

《 シーズル、横回転ごろん


すべてに大人しく従っているシーズル。その様子に周囲が青ざめる。ピピンがニッコリ笑顔で黙って見守っているが、その笑みは……


「お前たちも怒っているのはわかったから。ピピン、そろそろ解除してゆるしてやってくれ」

「反省したら」

「……わかった」


ピピンの言葉にいかりが含まれているのを察し、ダイバは「当分無理か」と小さく呟いた。



「そうか、彼女たちは王族が処刑をまぬがれるための犠牲イケニエに引き出されたってことか」

「そ。違う大陸からパルクス国経由でサフィール国、当時はまだサフィール地方に入っていた行商人らしいよ」


戦争勃発前のこと。サフィールはエルフを捕まえてはサヴァーナに貢いできたらしい。


「パルクスとコルスターナ間で戦争が起きた。コルスターナはすでに滅びかけているよ。それで私たちは湿地帯の確認に行ったんだ、まだ中央部には入れなかったけど。……たぶん、あそこには何かある」


そしてパルクスから調査隊がきていた。やはり彼らも中央に向かっていた……入れなかったけど。


「それで、戦争が落ち着いてからサヴァーナに引き渡された。サヴァーナはすでに内乱勃発直前だったらしいよ。内乱が起きたら王族が処刑されるから、囲っているエルフやハーフエルフを犠牲にする算段をつけていた」

「そこに関係のないエルフの行商人がサフィールから送られてきたってわけか」

「そうそう。それで、操り水を研究してた薬師やくしたちだけど。すでに皆殺しにされて研究資料は廃棄ポイされていたよ」

《 ポイされたものはボクたちのものー♪ 》

「「ん?」」


妖精たちが報告会に加わってるのはよくあることだが……妖精服?


「キミはどこの子?」


所属を尋ねると、不思議そうに顔を傾けた。

妖精たちは受け持っている仕事によって洋服が違う。もちろん休日には妖精本来の服を着て《 今日はおやすみでーす 》とアピールしている。その妖精服もアラクネ製の糸で補強されている。……しかしこの子の妖精服にはその補強がない。


「サヴァーナからきたの?」

《 うん、そうだよ 》

「仲間たちは妖精の庭に行ったでしょ?」

《 もしかして、あちこちみてたら迷子になっちゃった? 》


そばに寄ってきた子に恥ずかしそうに頷くサヴァーナからきた妖精。新しくきた妖精は周囲が自分たちを視認していることに驚き、妖精たちの数にも驚く。国境を越えてくれば、種族や生活形式も変わる。観光地でツアー客が、気にいるものやお土産が目に入って足を止める。その一瞬ではぐれるのだ。


《 送ってくるねー 》

「いや、ちょいまち」

「聞きたいことがある」


私とダイバが止めると妖精たちは揃って右に頭を傾けた。



「こ〜んなに拾ってたんだ」

「エミリア、調査はあとにしろ」

「は〜い」


妖精たちに悪意はない。


《 落ちているから拾った 》

《 捨てられたからもらった 》


ただそれだけだ。しかし、今回はそれが吉と出た。これでサヴァーナの目的が何だったかがわかる。


「知らぬ存ぜぬで押し通し、全部の罪を薬師やくしに押し付けて処刑すればいいものを……なぜ皆殺しにしたのか」

「拷問で口を割られては困る内容を持っていたからか」

「それだけじゃないよ」

「ああ、なぜ『囲っていたエルフやハーフエルフを犠牲にしなかったのか』って点にも触れるんだな」

「たぶんだけど……囲っていたのはモウマットの隷妾れいしょうだったレイだけだと思う。レイ自身がいってたでしょ、『両性具有だから妊娠しないしはらますこともない』って」

「じゃあ、ほかの連中は?」

「山が崩れる前に妖精たちが回収して火龍に預けた。助けた2人と彼女たちの仲間たちは廃国に寄って騰蛇に預けた。火龍が預かったエルフたちも廃国内のどこかの村に閉じ込められてる」


エルフやハーフエルフたちが何をしていたかはわからない。ただ、植物を育てるために集められていたのではないだろう。植物に特化したエルフか地の妖精じゃないと育たない。そして水属性のエルフと妖精。……ハーフエルフは属性の能力が弱い。それなのに集められていたのだ。

騰蛇が有罪か無罪かを見極め、それが済んでから罰が決まる。それが決まったら教えてくれるそうだ。


「それで救い出したエルフたちはどうした?」

「回復させて預けた。心が壊れかけていたから」


処刑する前提でボッコボコにされて絞首台に引き摺り出されたのだから。そして人質として残された仲間たちが崩れた山に潰されたとも思った。


「その身に受けた傷もココロの傷も。癒されるまではアラクネが見守るって」

「完全に治療しなかったんだな」

「ちょっと気になることがあったから。もう少し落ち着いたらダイバも一緒に行って」

「ああ、分かった。ついでにコルスターナの湿地帯も調べに行こうな」


ダイバの約束。これは私に『一緒に行くから1人で行くな』というもの。遠回しに『俺を頼れ』と言ってくれている。1人より2人で見た方が、新しく気付くことがある。

だから、私は頷いた。

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