第571話


「ご苦労だった。ひとまず、いまは仕事がない。しばらくは休んでいてくれ」


シーズルがほとんど同行していたことで報告義務は免除された。そして私はバラクルに帰ったことを報告に行ったら……


「現在出産中?」

「ああ……。シーズルはなにも言わなかったのかい?」

「いますぐ帰ってこいとしか言わなかったぞ」


どうやら、前日に破水してもすぐに出産にはならなかったらしい。そして私たちが帰ってきたことを聞いたシエラがホッとしたと同時に陣痛が始まったそうだ。


「フィムたちは?」

「子育て室にいるぞ」

「じゃあ、私はそっちにいるから。あ、声だけはかけてこようかな」

「どっちにだ?」

「ノーマンに。『いつまでもシエラを苦しめていたら、出やすいように斬り刻むぞ』って」

「「「赤ん坊をおどすなぁぁぁ!」」」


コルデさんに聞かれてノーマンへの脅しを口にすると、オボロさんとシーズルに声を揃えて騒がれた。カウンターに腰掛けているエリーさんが不思議そうに、立っている私を見上げてきた。


「エミリアちゃん?」

「…………だってさ、これがほんとにでしょう?」

「……ああ、そうだな」


ダイバが私の頭を抱き寄せて自分の胸に押し当てる。

私たちはいつも騒いでいた。一緒にバカ騒ぎをしていた。


「もう……新しい人生を始めるんだよ。…………は、もう、いないんだ」

「ああ、生まれてくるのは……リド。そうだったな、シーズル?」

『やり直し』を意味するREDO リドゥ。そこから名付けられた名前だ。

「ああ……俺たちとバカなことをして騒いでいたノーマンはもういない。…………リドだ、俺とシエラの息子の」


シーズルがダイバごと私を抱きしめる。あのまま死を受け入れられたらよかった。でも、私たちの前に現れた。そのまま別れを迎えずシエラの中に……シエラの息子として私たちの前にふたたび現れようとしている。


「すまん。ダイバ、エミリア。お前たちの気持ちを無視して勝手なことをした。これが別の場所の知らない奴の息子に生まれ変わるなら……こんなに苦しめることはなかった。すまん」

「シーズルが謝るなああ! わるいのはぁ……だまっって、いなく……グス、なってえー、かあって、にぃ、死、んだああ、……ノーマンだあぁぁぁ……」

「……ああ。シーズルのせいではない」


大声で泣き喚く私を強く抱きしめているダイバの声も震えている。ダイバが感情を抑えるのは、私以上にツライのに感情的になればリミッターが外れて暴れてしまう。それは竜人のさがであり、アゴールが火龍を一瞬で倒した前例がある。

もしもこのままダイバがリミッターを外せば、相手はノーマンだ。誕生前ならシエラも襲われる。


「わかってる。憎む相手はノーマンをそそのかした女神だ」


私を抱きしめて、まるで自分に言い聞かせるように呟くダイバ。

しかし、その言葉に隠されているのは……『アウミも許すことはできない』という決意。ことで、あの名もなき女神から解放されるという仮説が成り立っている。

生きていたいだろうけど……ノーマンたちを殺した以上、許すことはできない。



階上から大きな泣き声が響いた。

その産声に、落ち着いてきた私は耐えきれずに声をあげて泣いた。……親友ノーマンに別れを告げるために。

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