第492話


「うわん!」

「お前は犬か」

「ううん、キマイラ」


そういって窓の外をみる。そこには珍しくキマイラがダンジョン都市シティの結界内に入っていた。

キマイラがぎゅーんっと駆け寄ってくるが庁舎の前でぴたりと停止する。


《 もーう、周りに影響が出るから駆け寄ったらダメッて言ったでしょ 》


ペチペチと叩かれるキマイラは小さく鳴いて落ち込む。風の魔法が効いていたから不思議に思っていたら、風の妖精がキマイラの周囲に風で壁を作っていたようだ。


「どうした」

《 ダイバ。あ、シーズルもいるね。大至急ファウシスに向かって! 》

「何があった」

《 ファウシスで内乱。ほら、そこの人の家族をアラクネが勝手に連れてきたでしょ? それが誘拐だなんだって騒ぎになってる 》

「ア、ラクネ……? 家族……」


妖精の言葉に声がもれる。


「先ほども申しましたとおり、操り水の解毒後もアフターフォローが必要です。たった今、治療院から連絡が届きました。『ご家族の面会を許可する』とのことです」


バンッと立ち上がって飛び出そうとした職員は「ぐえ……ぇ」リリンが止めていた。触手の一部が首を締め付けているため呼吸ができず。慌てて椅子に座ると首の触手が少しゆるんだのか荒い呼吸を繰り返す。


「最後まで座ってると自分で言わなかったか? ここで意識を刈り取ろうか?」


ピピンの脅しに青くなる職員。冷静ではないらしい。『ここで意識をなくして治療院で数日治療を受けるか?』と聞かれたのだ。周囲がそれに気付いて頷くものの、職員本人は気が付かない。


「ピピン……


シーズルの言葉にピピンが頷くと、リリンが首の後ろからトゲをつき刺して麻酔を注入した。カクンッと意識をなくした職員を、事情を把握している風の妖精が治療院へと運んでいった。


「家族のことで興奮して暴走しかけたため強制的に眠らせた。できれば家族のもとで療養させてほしい」

「了解しました」


シーズルの言葉に医局部職員が了承して治療院と調整をしてくれて、すぐに三日間の休養が認められた。

それとは別にダイバとシーズルはファウシスに向かう部隊の編成をしている。理由をどうするかなどの調整もある。


「ファウシスはいま混乱の最中さなかだ。入場規制されているらしい」

「じゃあ、様子をみてくるね〜」

「ちょっと待たんかあああ!」

「待ったな〜し! 行ってきま〜す」

「「「このお転婆むすめぇぇぇ!!!」」」


窓に掴まって叫ぶシーズルたちの声を背に受けて、キマイラの背に乗って結界の外へと飛び出す。


「このバカ! 一人で行くんじゃない!」


頭頂部にゴンッと痛みを受けた。


痛いいちゃい


気付いたら後ろに青ざめたダイバが座っていた。


「なんでダイバがいるの?」

「お、ま……はあ。風の妖精に頼んだんだよ」


そういえば、ダイバは風の妖精の魔法に弱いんだっけ。スライムに戻っているピピンがダイバにいやしの水をだす。すぐに自分のコップを取り出して入れてもらうと一気に飲む。


「ちょっと様子をみにいくだけだよ」

「それでも一緒に行くぞ。……一人で何でもしようとするな」


頭を撫でられる。心配してくれる家族がいることが、けど嬉しい。

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