第453話


「夢だと思って使った『エルフの祝福』。魂がエリー本人だったから、実際に祝福できたってことね」


ミリィさんの言葉が私たちの一番の疑問だった。エリーさんじゃなければ使えない魔法がなぜ使えたのかがわからなかった。ハイルたち、奴隷のエルフたちの話では、「エルフ族でも光魔法が使えないと祝福は授けられない」とのこと。エリーさんのエルフの里でも、回復系が使えるのはエリーさん姉妹だけらしい。


「エリーさん、ミリィさんにはちゃんとした祝福がかかってる?」

「ええ。それは大丈夫。失敗していないわ」

「だって、リリン」

「あら残念。フフフ」

「キャアアアアアアアア!!!」


真後ろに立っていたリリンが耳もとで色っぽく囁くと、エリーさんが悲鳴をあげた。椅子をガタガタさせるが、動かないように固定されているため逃げられない。


「ウフフフフフ」

「キャアアア! イヤアアアア!」


パニックを起こしているエリーさんは、背後にいるのがリリンだとわかっていないようだ。


「そういえば、白虎」

「はい」

「今のエリーさんって、白虎たちが進化したこと知ってるんだっけ?」

「眠ったときはまだ本人だったと思いますが?」

「起きたときにはすでに封印されていたはずです」

「鉄板焼き屋さんでお祝いしたときはね」

「ええ、大人しすぎました」

「アゴールが不在だったこともあるよね。正確にはアゴールの悪阻が酷くって、魅了の女神が絶対来ないのわかってたし。……ルレインはさ、もしかして『ワイワイ騒げる仲間』がほしかったのかなあ」


白虎が私の頭を撫でて慰めてくれる。


「ルレインはさ。エンリケがいなくなり、ひとりぼっちになって。記憶も消されてたみたいだし。……仲間たちを忘れたんじゃないかな? だから、きっとさ。私と仲良くなれれば、ダイバやシーズルたち、バラクルのみんなや、ミリィさんたちにエリーさんたちの仲間になれるって執着したし……。エリーさんに成り代われたら、きっと楽しいと思ったんだよ」

「……楽しそうに見えなかったな」

「だって……ルレインはルレインだもん。姿を変えてもエリーさんになれるわけじゃない。……みんなの目に映っているのは、エリーさんであってルレインじゃない。誰も彼女の名前ルレインを呼ばない」

「ん、ちゃんとルレインも言えればよかったのにな。『手伝ってくれ』でも『仲間に入れてくれ』でも」


ダイバがしゃがんで、私より目の高さを低くする。


「エンリケが言ってたとおり、ルレインはバカだったんだよ。エンリケのことも、俺たちにどこに行ったかを確認すればよかったんだ。都長とちょうという立場が、公私混同と勘違いしたのかもしれない」


シーズルの言うとおりだろう。王都に送られなかったエンリケたちは、ルレインの願いから私経由で騰蛇に預けられた。その後はキマイラやジズたちが棲んでいる岩場で日光浴をしつつ、回復とリハビリで鬼ごっこやかくれんぼをしていた。その頃にはルレインもすでに都長を交代していた。


「エミリアから話を聞いた私が、何度か情報で流していました。ですが、彼女は登録していませんでした」

「エンリケが登録していたんじゃない?」

「ああ、そうかもしれません。そうですね、登録していない人たちのことを失念していました」

「ダンジョン関係は、登録云々に関わらず関所ゲートで忠告している。確認したけど忘れてるやつとかいるからな」

「そうですね。以前エミリアから提案された掲示板を前向きに考えます」


メッシュは、ルレインが知らないのに気付いてて放置したことを、後悔しているようだった。

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