第433話


「龍の存在を人間たちから隠す理由はなに?」


私の言葉にダイバが唇を噛み締める。そしてふうっと息を吐き出すと苦々しい声で答えた。


ヤツらの主食は……人間だ」

「それは毎食?」

「いや、確か数ヶ月に一回。年に二回、妊婦が一回多い三回」


私の質問に答えたのはコルデさん。そんな話をお祖父さんから聞いていたらしい。


「アゴールは?」

「龍じゃないからな」

「アゴールが聞いたら泣いて怒るぞ」

「いや、彼女ならエミリアちゃんを抱きしめて離さないぞ」


ダイバの言葉にアルマンさんは笑いながら訂正する。たしかにその可能性の方が高い。


「さて、冗談はさておき。龍に関しては火龍の意見をもらうとして、アゴールの方はどうなっている?」

「アゴールにはフルーツガーリックの試食品を食べさせてる」

「アレを口にすると調子がいいらしい。ただ……あれは食い過ぎと言わないか?」

「ダイバ? エミリアちゃんの試作品でしょう?」


ミリィさんの言葉に「あー、まあ」と歯切れが悪い。そりゃあ、そうだろう。


「フルーツガーリックって果物の甘さが染み込んだニンニクのことだろう?」

「あれでね色々作ったんだよ。ガーリックトーストに、ガーリックライスに、野菜炒めに、唐揚げに……」

「それをすべて完食しているんだ」

「それも十人前をペロリ。ニンニクよりフルーツの香りや味が強いからさ……。デザートにフルーツの香りを活かしたゼリーを、ちょっと冗談でさ…………『バケツゼリー』を作ったんだ。ほら、バケツプリンのゼリーバージョン」

「それを……一人で完食したんだ」

「一応、普通のゼリー容器だと、五十人前くらい」

「を、アゴールのやつがペロリ。三十分もかからずに……」

「にも関わらず、いったんだよ……『おかわりはまだある?』って」

「……怖かったな」

「うん、怖かった。あの前にステーキ食べたのに」

「それも三キロもある……バーベキュー用のを」


私とダイバの怯えにコルデさんも青ざめながら遠い目をする。


「だから、エミリアちゃんがさっき聞いたんだ。『アゴールは人間を食うのか?』と。エミリアちゃんがそう誤解するほど食ったんだよ」

「ステーキ三キロ。ガーリックライス一升、寸胴鍋ひとつ分の魔獣肉のカレーがけ。フルーツゼリー五十人前。それでも『おかわり』したんだよおおおお」

「……エミリアちゃん、アゴールはさらに何を食べたの?」

「アゴール、怖い。アゴールの食欲が怖い」

「……エミリアちゃん?」

「おいおい、三人ともどうした?」

「それについて、私からよろしいでしょうか?」


私たちが何も言えなくなったため、ピピンが声をかけた。そして紙を差し出す。そこにはメニューがリスト状に書かれている。


「から揚げに竜田揚げにアヒージョ?」

「肉巻きおにぎりにペペロンチーノ。これが?」

「先日、アゴールが一食で食べられた量です」

「アゴール、怖い。アゴールの食欲が怖い」


さすがの量に、ミリィさんもアルマンさんも絶句した。

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