第432話


竜人とは……?


「はーい、龍の人型ひとがた!」

「エミリア……いや、それもあってるけどな」

「じゃあ、エミリアちゃん。竜人の特徴は?」

「強くて頑丈。白虎が踏み潰しても壊れない」

「それはルーバーでも同じよね」

「じゃあ、底なしの体力」

「それは確かだな」

「しかし、ドワーフ族の鍛治職人たちも徹夜で五日間火の番をするぞ」

「あの暑い中、よくやれるよね」

「エミリアが『温度調整ができる腕輪』を作る前までは、炉で何千度もあがる作業場で働いていた。それを考えるとドワーフ族も俺たち竜人と変わらないな」


竜人がどうみえているか。

そこから始まった竜人の特徴を私があげていく。それを別の種族とくらべているのだが……


「ねえ、竜人らしい特徴ってないね」

「ああ。だとしたら、共同生活している竜人たちをというんだ?」


セウルたち兄妹に住んでいたところの話を聞いたが、竜人と人間は完全に生活拠点が違っていたのか「竜人しかいなかったよ」とのことだった。ただ竜人には二種類いるらしい。


「大きな龍になるんだ。それで、龍になれる竜人は神様なんだから、言われた通りにしないといけないんだって」

「龍になれるんじゃなくて、龍にならないと魔力がコントロールできないだけだよ」

「どうちがうの?」


アリシアは小さすぎてわからないようだ。ポンッと水の球をだしてアリシアに持たせる。


「これが竜人だとするよ。みんなはこうしてちゃんと形ができているし、この形を保つ……えっと、このままの綺麗な球で手に乗せていられるように大事に持っていられる。ここまではわかる?」


そう聞くと、四人はコクコクと真剣な目を私に向けて頷く。そして今度は、同じ水の球でもウネウネと揺らぐものをアリシアの手の中にある水の球と取り替える。必死に揺れないようにするアリシアだったが、小さな手では上手くできないようだ。思わずキルヒがアリシアの手を庇うように覆う。そしてアリアスとセウルが水の球が揺れないように支える。


「今はどんな状態?」

「うまく、ささえられない……」

「ずっと手の中で蠢いてて……なんでさっきみたいに大人しくしていられないんだよー」

「僕たちの持ち方が悪いのかな」

「何でかな。強く抑えようとすると指の間から逃げ出そうとするんだ」

「じゃあ、どうしたらいいと思う?」


四人はお互いに顔を見合わせる。そして、最年長のセウルがキルヒと手の位置を変え、アリシアがそっとセウルの手の上に水の球が移されていく。アリアスもそっと手を離すと、水の球はセウルの手の上でウネウネと動くもののアリシアのときと違い一人でも持っていられる。


「エミリアさん、これが『龍になる』の答えですね」


セウルはジッと水の球を見ながら私にそういう。アリアスとキルヒも何となくだけど把握しているようだ。アリシアはジッと自分の手を見ている。


「おにいちゃんのて。アリシアのて。おおきさがちがうの」

「そうだね」


私が同意するとアリシアは顔をあげた。


「アリシアのてが、りゅうじん。おにいちゃんのてが、おおきなりゅう」

「この水は?」

「りゅう」

「龍の魔力は竜人より大きいのですね」

「龍の魔力は大きくて、竜人の姿では抑えられない。だから龍になる必要がでてくる。……じゃあ、なぜ龍は竜人の姿になるの? 龍の姿でいられない理由でもあるの?」

「僕たちも龍になるのかな?」

「いや、セウルたちは俺たちと同じタイプの竜人だから、そんなことにはならない」


ダイバの言葉にセウルたちは顔を見合わせて安心したように笑う。


「龍になった仲間の中には、竜人に戻れなくなった者もいるんだ。だから僕たちと違う広い場所に移るしかなかったんだ」


それが人と竜人との棲み分けの理由だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る