第422話


到底支払うことが難しいと思われた冒険者ギルドの借金は、その国の冒険者ギルドが共同で背負うことになった。それでも足りなくて、国の冒険者ギルドが保有する希少価値の素材も売れるものはすべて売り払った。そして件のギルドのマスターたちは、裁判を経て借金奴隷に身を落とした。


「なぜここまで支払いを放置した! そのままにしていれば支払いを逃れられると思っていたか!」


その国の国王が大変激怒したらしい。そりゃあそうだろう。ギルドは他国の窓口になる……ポンタくんのように。それはその国の顔になり、ギルドを通して遠くの国に名を売り友好関係を築いていく。

その面子メンツに泥を塗ったのだ。

私たちが召喚されて以降、世界の国は動き出した。国同士、大陸同士で話し合いがおこなわれるようになった。国王は交流で豊かになれるよう努力してきた。……それを王都のギルドが足を引っ張った。それも一番他国との交流が激しい冒険者ギルドが、だ。


「それも……ほかの大陸相手に! わかっているのか! お前たちはその大陸全土に『我が国は愚かだ』と、『規則も守れないお国柄だ』と証明したのだぞ!!!」


そこでようやくマスターたちは、自身たちがことが国を裏切り、国王を嘲笑の的にしたことに気付いた。


「判決を申し渡す。其の方らは犯罪奴隷として、錬金術士の塔専属の実験体の任につくこととする。人の役に立つ薬の精製に協力できたなら、社会復帰に一歩近付くと思え。また、残りの借金は私の私財から支払おう。このような重大な事案に気付かなかった私にも責任はある。以後、ギルドは問題が発生した場合報告するように。国が責任をもって問題解決に協力する」


マスターたちの家族は不問に付された。ただし、ギルドの職員は慰謝料の支払いを怠っていることを黙っていたため、全員が鞭打ちの刑を受けた。一律十回の鞭打ち、三日間の治療禁止。その間もギルドは通常業務を続けた。残った職員たちは、自分たちの犯した罪で冒険者や業務依頼者に迷惑はかけられないと、ミミズ腫れや切れて血が滲む傷口にガーゼをあて、痛む背を我慢して笑顔で接客し続けた。

そんな彼らは、国王の温情で翌日の昼に王城から治療師たちに回復してもらえた。彼らの頑張りが王都内に広がり、地面に落とされて踏まれて蹴られた看板が少しだけ見直されたことが理由だった。

さらに、定期的に行われている世界会議でエイドニア王国の国王に謝罪した。各国の王や重鎮たちの前で土下座したのだ。それをエイドニア王国の国王は不問に付した。


「たしかにギルド間で問題が起きました。ですがそれを見事にお治められたではありませんか。若輩者の私にはできないことにございます。ぜひ見習わせていただきたい」


災い転じて福となす。

両国の対応は各国に好印象をもたらした。年若い国王に土下座で謝罪できる国王と、若いながらも慈悲深い心をみせた国王。彼らに心を動かされた国は多かった。そして両国を中心として友好国・同盟国として繋がりが広がっている。



「あの土下座した国が、ダイバたちが生まれたバラクビル国なんだってね」

「あの心が広い国王が治める国が、エミリアたちを異世界から聖女として召喚してきた国か。……信じられんな」


フーリさんたちの食堂の名前は、母国バラクビルからとられている。意味は『多種多様な人種の集う国』。そこから『多種多様な料理をだす店』ということからバラクルと名付けられた。


「お袋たちの話だと、じーさんが隣国からの襲撃を指摘したときもすぐに動いたらしい」

「すっごいよね。ちゃんと国民の声に耳を傾けてくれる国王って」


それなのに、なぜ冒険者ギルドは怠惰な行動にでたのか。


「なんとかなる、と甘く見て放っておいたのかもな」


そのことがあってから、各国のギルドは規約を守らせることを第一に考えるようになった。そして今まで多かった大小のイザコザが激減した。罰則の重さだけが噂として先行していたが、延滞金の登場で『ケンカをするほどバカを見る』と理解したらしい。

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