第367話


「一般的に妖精なんて簡単に見つからないのだろう? どうやって捕まえたんだ?」

「最初は偶然だった。……王城の中で『生まれたばかりの妖精』が見つかった。第九王子が庭で見つけたんだ。王子はそのままにしたんだけど、それを周囲が放っておかなかった」


その結果、その妖精は捕まって『生きたまま解剖』された。死んですぐ生まれ変わったのをみて、結界内で何度も生きたまま解剖された。


「妖精たちは死んでもその周辺で生まれ変わる。王城内、それも結界に覆われた中では、生まれ変わった直後の妖精を見つけるのは簡単だ。……誕生から目覚めるまでの十分の内に捕獲してしまえばいいのだから」


それもその間は光の幕に覆われている。『妖精のたまご』と呼ばれるものだ。それが妖精を見つける目印になっていた。



それは偶然だったのかわからない。ただ第九王子がその研究室に現れた。結界が張られていたはずの扉を開いたのだ。そのため、死んだ直後の妖精は行方不明になった。

第九王子は国王から「途中経過を報告するように」という伝言を受けてきただけだ。それを聞いて慌てた研究員たちは責任者だけ報告に向わせた。そして第九王子が退室すると研究員たちは研究室その周りを探し回ったが……二度と妖精を見つけられなかった。

そのため、妖精たちを高額で購入することにした。その費用として、火の妖精みたいに『ほかと違う色の髪をした妖精』たちをビン詰めにして販売した。


「妖精たちを救出したあとでもわかる範囲でみつけて購入した。でも、最近でも奴隷市で見つかったんだ。まだ、どこかにいるんだ。ビン詰めになった妖精たちが……」

「エミリアちゃん、落ち着いて。大丈夫、大丈夫よ。探すのなら手伝うわ」

「見つからない……だってだから。倉庫に入っていたらわからない。個人が購入して持ち歩いていたら。持ち物に、ううん、テントの中にあったら……。妖精たちだって、各地で探してるのに……」

「エミリア‼︎」


ここにはいないはずのダイバの声がしたと同時に強く抱きしめられた。


「…………ダイバ?」

「どうした? また妖精たちのことか?」

「ふ、え……、妖精たちが、ビンに……」

「……ああ。商人ギルドに手配して探してもらっている。大丈夫だ」


そういって頭を撫でられる。

奴隷市でビン詰めの妖精を見つけてから、私も妖精たちも精神的に不安定だ。ビン詰めにされて売られていたひーちゃんの精神は特に。ビン詰めの妖精たちがどれだけ作られて、どれだけ売られたのかがわからない。……今は手探り状態なのだ。


「いないって、もうみんな大丈夫って。あの国の中をひと通り探して。もうビン詰めの妖精がないって思ってたのに……」

「ああ、あのときの商人は違法商品の販売を理由に捕まえて自供させた。そっちのルートは情報部も動いている」

「でも、何も見つかってない……」

「もうすぐ、遅くても来月には商人ギルドと職人ギルドで『取り扱い禁止商品』に指定される。そうなれば、ステータスの持ち物に入れられていても弾き出される。あとは集めて鑑定で真偽を調べられる」

「でも……でも……」

「奴隷市で見つかったのは偶然はいってしまった『妖精のたまご』だ。何年もはいっていたわけではない。……火の妖精が入れられていた頃のとは違う。……いい子だから、もうおやすみ」


ダイバの声を聞いていたら、抱きしめられる温もりと安心感。繰り返される背中を一定の速度で優しく叩かれる安らぎで、目が自然に閉じていった。

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