第360話
地面に両手をつけて意識を地下へと向ける。同調術で繋いだ地の妖精が地下深くまで降りていく。国境から地下深くまで光の壁ができているため、ゆっくり底まで降りていってくれる。早すぎると目を回してしまうからだ。
《 大丈夫? 早くない? 》
うん、大丈夫。それにしても深いね。
《 地の底まで続いてるね 》
長い封印の壁は地中でも光っている。それに沿って降りていった先にやっと光の妖精がいた。
《 ちぃちゃん、お疲れ様。エミリア、ここで最後だよ 》
一番下は光の底ができている。いびつなのは国境にあわせているからか。
《 これは国境にあわせているから? 》
《 うん、光の壁には穴はないよ。あるのは…… 》
《 あ、ちょっと待って。エミリア、気持ち悪いのがあるから。あとで戻ったら説明するから先に戻ってて 》
うん、わかった。二人ともありがとう。
はっきりしない、何か黒いものが蠢いていた。それは光の壁の中で影になっているのかハッキリと視認できない。それが何かを確認するために近寄ってもらおうと思ったが、その前に地の妖精が両手で目を覆ってしまった。それが『私が苦手なグロテスク』なのかも知れないし、『巨大な芋虫』なのかも知れない。
ただ、私のことを思って同調術を切り離すように言ってくれた。妖精から同調術を解除することもできるが、それでは私が受ける負担が大きくなる。もし「ヤダ」なんて言ったら、地の妖精は地上に戻って調査を光の妖精に任せただろう。地中だから、水の妖精か
同調術を解除すると、身体が前のめりに倒れかけた。そこに横から腕が差し出されて身体が支えられた。
「どうだった?」
「……封印自体には何も問題ないよ。穴もどこにも見つからなかった」
「そうか、お疲れ様。じゃあ休憩にしような」
ダイバはそういうと、ひょいと私を抱き上げた。私が疲れて立てないことを見抜いているようだ。
「うぅぅぅぅぅぅ」
「よしよし、よく頑張ったな」
足が痺れているのか感覚がない。それ以前にプルプルと小刻みに震えている。その足にダイバが『状態回復』をかけてくれた。
「三時間もあの姿でいたんだ。もう休んでいいぞ」
「……三時間? そんなに?」
「ああ、よその国でもエミリアのマネをして『地下に意識を飛ばして調べよう』として失敗した。ほとんど十分ももたずに挫折していたぞ」
「先週、一時間はできたよ」
「ああ、だからエミリアは偉い」
そう誉めて頭を撫でてくれるダイバ。
先週は自分一人で光の壁に沿って意識を地中深くまで沈めていった。でも疲れたかな? と感じたと同時に妖精たちに止められた。《 このままいけば精神に負荷がかかるから止めて! 》と。
意識を地上まで浮上させると、妖精たちの声を聞いたミリィさんとエリーさんに身体を支えられていた。そして地中深く意識をおろすときはゆっくり動かないと目を回すとお説教された。
「ゆっくり……じゃなかった?」
「え? エミリアちゃん、あれでゆっくりのつもりだったの⁉︎」
「うん。……早かった?」
聞きなおすとミリィさんが困った表情で抱きしめてきた。
「エミリアちゃん。今度はもっとゆっくり降りましょうね」
「今度……明日?」
「いいえ。五日間は休んでね」
「エミリアちゃん、本当だったら一週間は疲れて寝てしまうのよ。下手したらひと月は目覚めないくらい疲れてしまうの。だから、やめて……」
エリーさんの苦しそうな声と泣きそうな表情。
「エミリア、一週間しっかり休め」
「え〜!」
「俺のいうことを聞く約束だろ?」
プクッと頬を膨らませた私の頭を撫でるダイバは、私たちにしか聞こえない声で続けた。
「一週間我慢して、ちゃんと体力を回復させたら『視覚のみの同調術』を使うんだ。妖精たちならエミリアと違って加減がわかるだろう?」
「妖精のこと気付かれない?」
「先に地中にいて貰えばいいだろ? エミリアが地面に手を置いて、地中から手のひらに触れてもらえば同調術が使える。……だろう?」
「うん。……わかった」
「いい子だ。テントの中で遊んでいてもいいけど、ご飯は一緒に食べるんだぞ」
「は〜い」
そして、今日の調査方法になったのだった。
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