第353話


騰蛇に協力してもらった『目に見える牽制』は功を奏した。


「もっと前からやってもらえばよかったなー」

「ギルドが対策を怠ったからだ」

「耳が痛いなぁ……」

「すみません! すみません!」


商人ギルドのギルド長ヘインジルが苦笑する横で土下座を続ける男。


「それでさ、ポンタくんの話だと、どこぞかの冒険者ギルドが慰謝料の支払いを渋ってるんだって」

「すみません! すみません!」

「何なんだよ、それ。自業自得だろ」

「すみません! すみません!」

「それがさ、そのギルドから十三人分の慰謝料を支払うことになったらしいよ」

「すみません! すみません!」

「おい、エミリア」

「ん? なに?」

「……さっきからテーブルの下から聞こえる声はなんだ?」

「合いの手」


私の言葉にダイバの眉間にシワが寄る。私だって何なのか知らないもん。


「ねえねえ、ヘインジル」

「はい、なんでしょう」

「ギルドが支払う慰謝料って、悪いことをした張本人に借金を背負わせるという方法ができるんだよね」


「はい、そうですよ」

「すみません! すみません!」

「じゃあ、これはなに?」

「何なのでしょうねえ」

「ヘインジルのお連れ様じゃないの?」

「さあ? とりあえずギルドを出たときから付き纏われていますね」

「ふーん」


チラッと男を見て少し離れた席で食事をしている制服マンに親指を立てる。


「ヘイ、ノーマン。プリーズ!」

「もう呼んでいます」


タクシーを呼ぶようにノーマンを呼んでもらおうとしたら制服を着ている三人に苦笑された。彼らは守備隊の隊員だ。ただしダイバと同じ『ダンジョン管理部』の守備隊……関所ゲートの守備隊所属で、ノーマンが所属する『ダンジョン都市シティ管理部』ではないけど。



「エミリア、『変な男がいる』と聞いたのですが。ここで土下座している男で間違いないですか?」

「うん、間違いないよ」


ノーマンがきたのは「呼んで」と頼んでから数分。


「早かったな」

「ちょうど交代で食事に出たところでしたから」


私が思ったことと同じことをダイバがノーマンにぶつけた。じゃあ、食事の邪魔をしちゃったかな?


「おい、ノーマン。飯食っていくか?」

「いえ、大丈夫です。片付けてきますので。……エミリア、どうしました?」

「……食事の邪魔をしちゃった?」


それだけで、私とダイバが何を気にしているのか気付いたのだろう。


「大丈夫ですよ、休憩は二時間ですから。午前は書類処理だったので外へは巡視ついでに出てきただけです。ちょうど動きたかったので助かりました」


そういったノーマンはヒョイと男の腕を掴むと「では失礼します」といって連れ出していった。

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