第326話


反省してハイルに与えられた罰を肩代わりすると決めたエルフたち十二人を、あのまま隣の集会所へと連れて行ってハイルたちとご対面させた。


「叔父貴……」

「久しいな、ハイル」


あの一番偉そうにしていたエルフはハイルの叔父だったらしい。


「そっちにいるのはフリンクと……お前はベイルか。相変わらず一緒に組んでいるのだな」

「久しぶりです」

「ご無沙汰しています」

「大きくなったな」


彼ら二人はエルフの里を飛び出しただけなのでわだかまりはないようだ。


「ちょっと待っててくれ。……おい、入ってきてくれ」


ハイルが農場側の扉から外に声をかけるとゼオンが入ってきた。


「コイツはゼオン。俺たちの仲間で……ミリィと同じ巨人族だ」


自分に目が向けられたからか、ゼオンは緊張した表情でペコリと頭を下げた。口が動いたから「はじめまして」とでも言ったのだろう。いつもヤンシスの後ろにいて、ヤンシスがなんでも決めて振り回してきたため『自分で決めてやる』ことに不慣れ。それでも周りに見守られて、一歩ずつ前へ進んでいる。

安心させるようにゼオンの背を軽く叩いたハイルがエルフたちに向く。


「今の巨人族はミリィやゼオン、ルーバーもだが、他種族との混血がほとんどだ。エミリアさんは純血と会ったらしいが、彼らはミリィたちの方が進化した巨人族だといっている。……俺たちの方が古い考えに凝り固まっていたんだ」

「俺たちも、彼女にそう説明された」


叔父というエルフにそう言われて、ハイルとゼオンが私を見る。


「自分たちの愚かさを自覚して、ミリィさんに泣きながら土下座した。やることがハイルと同じの二番煎じだけど、ハイルの方は床に何度も頭を打ちつけたからなあ」


その直後に「お前は床を壊す気かー!」と怒ったダイバがハイルの背中を蹴ったせいで、ハイルが頭を床に叩きつけて床に大穴を開けた。そのあと同じセリフを放ったアゴールに蹴りを食らったダイバが頭を床に打ちつけて新たな大穴を開けた……

それを知っている私たちは、すでにダイバの魔法で修復された床に目を向けた。それはちょうど、エルフたちが立っている場所。そのため、エルフたちは顔を向けられて一歩二歩とさがった。



「彼らは隣の農園、こっちは妖精たちに任せている私のなんだけど、その境界に作ってある果樹園の管理をさせる。ただ、妖精あの子たちは厳しいからね。遠慮なく魔法を使うよ」


私に任された農園を妖精たちが大切に育てている。妖精たちだけで育てた農作物が、通常のものと違いがでるのか。その調査のため、私以外の侵入は禁止だ。


《 大きくなあれ 》

《 美味しくなあれ 》


妖精たちはそう言いながら育てている。もちろんイタズラは禁止。口にして害があるものができたら、二度と任せてもらえないことは理解している。その分、農作物以外に対してのイタズラに際限がない。制限も「殺してはダメ」というもの。痛い思いをしたくなければ関係者以外立ち入り禁止死んでも知らんよ〜の中に入らなければいい。

一度、農園に入ろうとした『ほかの地域から来た妖精の危険性を知らない冒険者』が、妖精たちに捕まって全身を切り刻まれた姿で発見された。ただし、刻まれたのは表皮だけ。風魔法『鎌鼬』で切られたのだ。

しかし、その冒険者はのちに受けた情報部の取材でこう証言した。「怖すぎる」と。


「なんだ、この程度で許されたのか」

「全身の骨が粉々になったことを考えれば……」

「いや、あれは砂よりも細かくなってたぞ」

「あの時は治療も大変だった。完治させるのに何ヶ月かかった?」

「妖精たちに髪を一本一本抜かれた奴もいたな」

「王族は毛根が死んだせいで、女も子供もツルツルだ」

「あれは『妖精たちの罰』だからな。まつ毛や眉毛を含めた全身の毛は二度と生えないぞ」


治療院で治療を受けていたが、その間に聞いた話は恐怖心を煽るものでしかなかったようだ。何よりそれを当然のように、まるで日常のように。妖精たちの行動に慣れている治療師たちが恐怖の対象だったそうだ。


『我々が、「妖精に対して恐怖心はないのか」と尋ねたところ、彼はいった。「妖精は気紛れで町や村、ときには国を滅ぼすことぐらい知っている。それ以上に、それに慣れた治療師たちに恐怖をもった。なぜ、妖精たちの気紛れが自分に向かないと信じられるのか」と。そのため、我々はこう返した。「妖精たちは気紛れでイタズラはする。しかし、それで傷付くことはありません」と。彼もまた、聖魔士と聖魔師テイマーの違いを知らなかった。知らないからこそ必要以上に怯えるのだ』


その記事は多数の人たちに共感され、各地、各国、各大陸に広まった。

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