第315話


最初の月が半月、そしてその翌月。奴隷八人の働きぶりをひと月半見てきた。その上で『現状のままで大丈夫』と判断した。やはり騰蛇がヤンシスをパックンしたことが大きいだろう。

そして、その騰蛇の登場と共に、南部へ送られた奴隷たちが大きな勘違いをしていたことも発覚した。


「ただの農民とするために奴隷を買い集めた、だとー?」

《 そうらしいよ 》

《 僕たちも聞いて驚いた 》

「それを聞かされた私も驚いた」

「さらに、それを知らされた俺たちも驚いた」


シーズルの驚嘆に妖精たちがウンウンと頷く。最近はこうして話し合いをするときは、同調術を使って妖精たちも参加する。おかげで通訳をする手間が省ける。


「エミリアに通訳を頼むと、色々と脚色するからな」

「それが面白いのに」

「重・要・な・話・じゃ・な・け・れ・ば・な!」

「笑いの足りない人生はツマンナイよ」

「お前が、だろ」

「うん!」


私とダイバのやりとりに、同席しているみんなも笑顔になる。


「そろそろ本題に入りましょうか」


ヘインジルの言葉で会議の開始が宣言された。それまでじゃれ合ってた私たちも妖精たちも黙る。


「まず、エミリアさん。そちらの奴隷が一人逃走を図ったことは間違いありませんね」

「ええ、間違いはありません」

「その奴隷はどうなりましたか?」

「農園の境界を越えた時点で騰蛇に捕まり地中に隔離されていました。その時点で自我を失っていたため治療院へ。治療院に入って三日後から少しずつですが自我が回復しました。完治したのは十日後。その時に治療師を誑かして、彼と婚姻を結ぼうとしました。そうすることで奴隷から解放されると思ったようです」

「エミリアさん。ヤンシスは女性奴隷だったのですか?」

「いえ、衆道です。あ、ゼオンとは衆道関係ではありません。治療院で治療師をたらし込むために衆道に手を出した、ということです」

「その奴隷は今どのような待遇になっていますか?」

「すみませんが、その前に治療院からの報告を先に報告してもよろしいでしょうか?」


右手をあげて治療院の事務局長が発言の許可を申し出た。それにヘインジルが頷くと「ありがとうございます」と頭を下げた。


「大変お恥ずかしい話でございますが、此度の治療師が治療対象者に惚れて揉めたのが今回が初めてではございません。以前いた治療院で騒動になったため、ここに派遣されました。当時は、その……最終的に『恋愛によるトラブル』で話し合いは集結しました」


事務局長の言葉を、この会議に参加している人たちは誰もが受けとっていた。


「つまり、賞罰がつかなかった、ということですね」

「それも、恋愛相手が貴族と見た。だから表向きは『恋に敗れて町を離れた』とした訳だな。追放処分となれば、相手の経歴にも傷がつく」

「さすが貴族だ。穏便に、かつ確実に目の前の障害を追いやる方法をとった訳だな」


事務局長は黙って俯いている。その様子から、彼らの言葉が正しいことを証明している。


「その治療師ですが、これが二度目。今回は奴隷に手を出したということで、治療師は処分されることとなりました」


私の声で静かになる。事務局長は発言を放棄したようだ。


「それは、エミリアさんが治療師の罰を引き受けたということでしょうか?」

「それが……バカ二人が離れるのを拒否した、というか……。『私たちは周りの反対を押し切って幸せになる悲劇の主人公なの〜』という舞台に酔ってる喜劇役者だから」


わざとらしく演技っぽくセリフをいったら、みんなが大爆笑した。


「ヒーヒー……。わ、笑える……」

「あー、おかしー」

「いや、マジで言ってそーだ……」

「うーん……。「私たちの愛は真実なのよー!」とか「真実の愛に目覚めた私たちを誰も止められないのー!」とか……。皆さん、お忘れかもだけど、どちらも、だから。セリフは野太い声でやってるんだからね」


ギャハハハハハハハハハハ‼︎

オエェェェェェェェェェェ‼︎


二種類の奇声がいつまでも響き渡った。

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