第302話


私はあのあと五人追加で奴隷を購入。ヘインジルも三十五人の借金奴隷を購入した。奴隷の総数は百二十四人。その約半数が購入されていった。行き場が決まらなかった奴隷は王都周辺の水路工事に回される。

冬眠の前後で食欲旺盛になっていた魔物に、各地に散らばった労働力の半数が襲われた。治療を受けて死者はでなかったが、恐怖は残り心に傷を負った。奴隷だからといって労働を強制しない。働かなければ解放が遅くなるだけだ。『労働三十年』と決められていても、それは毎日決まった時間を休みなく働いた場合であって、休めば休むほど労働期間に加算される。借金奴隷の場合は休めば借金が減らず。そしてどちらも逆に食費などが加算される。『働かざる者食うべからず』のため、労働した場合は無償提供される衣食住が借金となる。

ただ、労働力は多ければ多いほど作業がはかどる。しかし、昨年王都にいた王族や貴族たちが労働奴隷となったが『おさぼり奴隷』として労働期間を延ばし、日々の借金を増やしている。


「たしか十五年から二十年の労働奴隷なんですけどね」

「順調に労働期間を伸ばしてるけど……。死んだら魔物討伐の撒き餌になることくらい知ってるよね?」

「……知らない可能性もありますね」

「それより、働かなければ奴隷期間が延びるし借金が増えるという根本的なことを知らないかもな」


ということで、改めて奴隷たち全員に伝えられた。ほとんどの奴隷は黙って聞いていたらしい。ただ……やはりというべきか。王都で起きた神獣たちの騒動で、これまでの罪を暴かれて奴隷に堕ちた王族や貴族たちは驚いていた。


「今は大人しく労働に励んでいるそうだ」

「今年か、遅くても来年には水路が一本完成するよね」

「はい、次の水路は北方。農業用水路を作る予定になっています」


水路ができれば、あとは水魔法で水を流す。水路に不具合がなければ、魔導具が設置されて水量を調節して流し続ける。水源は水魔法を使える人たちが見つけて、労働者が井戸を掘っていく。魔法を封じられているからこそ必要な労働力。別の言い方をすれば『命令通りに動く肉体さえあればいい』のだ。


「何故だ……! そんなガキより俺の方が」


奴隷の子供たちを引き取りに向かった私に、売れ残りになっても諦めきれない二番が檻の中で騒いだ。

聞くに耐えない言葉の数々が暴力として私に向かう。


「無能で役立たずなど必要ない! っていうか永遠に黙れ、れ者‼︎」


私のいかりに慌てて口を閉ざした。しかし、すでに遅かった。同行してくれていたのはダイバ。私に向けられた破廉恥な言葉をダイバが許すはずがない。


「主人になれば、コイツを殺しても罪にならねえよなあ」

「ヒィィ!」


ダイバが檻の一部に力をいれると、鉄柵がグニャリと折れ曲がった。


「状態回復」


ダイバが魔法で檻を元に戻すと、二番はさらに驚きの表情になった。


「え? こんな簡単な魔法も使えないの? 役立たずやっくたったずぅ〜」

「エミリア、ダメだろ。本当のことを指摘したら」

「申し訳ありません。アレはすぐにでも片付けますので」


私たちにペコペコ頭を下げて謝罪する奴隷商。仕方がないだろう。奴隷商の中ではすでに私が聖魔師テイマーだということは、ダンジョン都市シティ内で問題を起こした奴隷商から広がっている。そして、二番には罪状が増えた。侮辱罪と不敬罪。奴隷の立場でそれを追加させた以上、罪は重くなる。

私への罪は侮辱罪と不敬罪と大陸法違反の三つ。それは五千万ジルとなり、四人の購入総額から差し引かれた。その差額は二番の借金に上乗せされる。ダイバにも侮辱罪と不敬罪の二つで二千万ジル。こちらは即金で支払われた。その額はもちろん二番の借金に追加だ。あわせて七千万ジル、白大金貨七枚が追加されて、二番の借金は総額一億ジルとなった。

私とダイバの金額の違いは、私に対しての大陸法違反が適用されているからだ。そして、さらなる借金を背負った二番はこれ以上の失敗を恐れて檻の隅に膝を抱えて蹲り震えていた。


「アゴールを連れてこないで助かったよ。アイツがいたら冗談抜きで死体が転がってたな」

「まず、頭が前後逆になって前に歩いているつもりが後ろに進んでいるでしょ。そうじゃなきゃ、顔が上下逆にひっくり返ってたよね」

「それだけで済めばいいがな」


私たちの言葉にさらに追い詰められていく二番だった。

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