第261話


塔や像がなぜダンジョンに埋れていたのかはわからない。しかし、これが『聖女様を召喚したときの失敗によってこの世界に現れた物』だとしたら問題である。


「フィシスに連絡するわ。城で召喚による記録が残っているかもしれないから回数を調べてもらう」

「しかし、エリー。『聖女様の存在』は知られたくない」

「ああ、もう遅いよミリィ。国王陛下と宰相たち側近には知らせてある。ただし、陛下たちはけっして口外しないことを約束された」


その上でエリーと『鉄壁の防衛ディフェンス』、フィシスたちやポンタ、そして宿屋の家族を含めた『エアと懇意だった者たち』は非公式で王城に招かれ、聖女様のご無事を伝えられてある勅命を受けた。


「聖女様のご無事を他の者にけっして知られてはいけない」


その時、張り詰めた緊張感に、四人の子供たちもそれが決して破ってはならない約束なのだと一瞬で理解したのだという。その上で、彼らは大人たちに告げた。


「今の僕たちは会えない。もっと勉強して、僕たちがそばにいても迷惑をかけないくらい成長してからじゃないと」


四人はそう言いきった。なぜそこまで頑なに……。そう思ったが、彼らなりに後悔していたのだ。


「結局、お姉ちゃんが前にでないと解決できなかった」

「あの人たちは被害者で、悪い人は別にいた。なのに、みんなで寄ってたかってイジメた」

「お姉ちゃん、弱っていたのに無理したから記憶をなくすことになった」

「お姉ちゃんにいま会っても、きっと足手まといになる」

「だから、いまはお姉ちゃんに会えない」

「うん。僕たち三人は、お姉ちゃんみたいに『かしこくて強い冒険者』になるって決めたんだ」


小さな三人の冒険者たちはエリーの座学だけでなく、様々な知識をスポンジのように吸収していき、同年齢の子たちより賢くなっている。

最年長の一人も、父親の手伝いをしつつ料理人として頑張っている。今では喫茶店のメニューを二割ほど任されるまでになった。彼なら休業する冬季に会いに行けると思われたが彼はその提案を固辞した。


「お姉ちゃんに会うときは四人一緒に会いたい」


そんな兄の言葉を聞いて、弟たち三人はさらに勉強と鍛錬に励むようになった。

そして、国王陛下はこう続けた。


「聖女様がお戻りになられるのでしたら我々はそれを受け入れましょう。ですが、聖女様がお戻りになられる意思がないのでしたら、どうぞ今のままで。そうでなくとも、我々は聖女様に感謝しきれないほど多くの加護を受け、謝罪しきれないほどのあやまちを犯してしまいました。聖女様には自由に生きていただきたい。そのための協力ならいくらでもさせていただきます」


この言葉が、四人の心を動かした。

無事を知り喜んだ四人は『すぐに会いにいきたい』と思った。しかし、国王陛下の言葉を聞いて自分たちの考えが幼稚で甘いと自覚した。このまま会ってどうするのか? 記憶を失ったお姉ちゃんに成長したと胸を張ることもできず、足手まといのまま会っても迷惑でしかない。ちゃんと自分でできることはできるようになり、お姉ちゃんに守ってもらわなくても自分たちで対処できるようになってから会いたい。

そう誓い合ったのだ。


今回も「会いにいくか?」と聞かれた。しかし、四人は声を揃えて断った。「いまはまだ会えない」と。


「お姉ちゃんなら、僕たちのことを忘れていてもきっと待っていてくれる。覚えていなくても僕たちが覚えているから。お姉ちゃんは、どんなに時間がかかっても待っていてくれる」


そういった子供たちは無理している様子もなく、爽やかな表情をしていた。

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