第247話


「さっさとカタをつけて、お昼ごはんを食べに帰ろ〜」

《 おー! 》

ガウッ!

「気をつけていってらっしゃい」

「うまいもん用意しておくぞ」

「母のこと、よろしくお願いします」


私が妖精や白虎たちと気合いを入れているそばで、ミリィさんとルーバーがお昼ごはんを作って待っていてくれると言ってくれた。その横で深く頭を下げるミスリア。彼女の囚われている母親を連れてくる約束をしたのだ。その代わりに所有権を求めた『聖魔士くずれの成れの果て』を引き渡す。


「いいですね。だけですよ」

「もちろん。王族や貴族たちに引き渡してくるだけだよ」


最低限の護身として魔道具で『男性の聖魔師テイマーの姿』になっている。あちらが男性と勘違いしているのだから、それをわざわざ訂正する必要はないだろう。さらに、女性の姿でいけば見下されてさらなるトラブルに発展する。


「王族とか貴族ってバカが多いんだよね。『後宮に入れてやる』とか『側室にしてやる』とか『愛人にしてやる』とか。なんの罰ゲームだ? って話だよね」

「「「申し訳ございません‼︎」」」


私の言葉に頭を下げる少年少女たち。王都の『髪が全滅しなかった』王族や貴族の子息子女たちだ。私が貸し出したマナーブックでちゃんとした教育を受けている。ちなみにこれはルーフォートで譲り受けた本だ。その本を元にして、ミスリアが元王女として身につけた知識や教養とともに、子供たちに礼儀作法を教えている。それはいい方向で彼らは吸い取り、礼儀正しい王族や貴族として育っている。正しい知識も身につけて、『両親の言動は恥ずべき行為』と理解している。

ミスリアが国を捨てる覚悟をしたのは、『自分でもできることがある』と知ったからだ。ただ、残された母親の身を案じた。


「だったら『交渉が成立して聖魔師テイマーが直接引き渡しにいく』と連絡すればいい」

「ですが、檻の代金が」

「一番安価な檻は?」

「それなら、あの男の所持品をすべて没収してもまだ足りない」

「じゃあ、強化した檻の代金が支払えないということで、檻を提供する代金と所持品を換金して、代わりに一番安価な檻を購入ということでは?」

「それなら……でも、一番安価な檻ってウサギやネズミほど弱い魔物用よ」

「でもが入る大きさはあるでしょ?」

「ええ。たしかに……」

「大丈夫よ。寝かせて連れていくから」


異形の姿となっても、元は人間。麻酔薬はかかるし眠っている間は一切危険ではない。そして寝ている間に引き渡しを済ませる。

……起きた後は知らん。バカな連中のことだ。まともな対応をするとは思えない。その結果がどうなろうと私たちには関係ない。


「取り引き終了後の尻拭いアフターフォローは別料金です」

「そんなことになる前に、とっとと戻ってこい」

「討伐依頼ならダンジョン都市シティの冒険者ギルドで受け付けます。ただし出張代金はいただきますし、討伐ではなく生け捕りの依頼でしたら高いですよ」

「最低はいくらから?」

「緊急クエスト扱いになります。討伐なら白大金貨五十枚。生け捕りなら白大金貨百枚。失敗の前例が出れば、危険な依頼としてさらに倍」

「討伐の報酬が五十枚ので白大金貨二千五百枚。生け捕りなら百枚のだから白大金貨一万枚……」

「エミリア、そっちのじゃない」

「いや、ダイバ。緊急クエストの『倍』はエミリアのいう通りだ」

「ウフフフフ〜。私なら簡単に生け捕りできちゃうよ〜」

「だからといって、逃してくるなよ」

「…………」

「に・が・す・な・よ」

「ハイハイ」

「ハイは一つだろ」

「は〜〜い」

「……伸ばしおったぞ、コイツ」


私たちの会話に笑いが起きる。

大丈夫。だって、私がわざわざ逃さなくても、率先して逃してくれそうな人たちがいるからね。

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