第226話


「コレも持っていってくれればいいのに」


すでに自我を手放した元王子は動物園の檻の中に入れられたライオンのように大人しい。


ダンジョン都市ここから外に出せば争いを生むからな」

「別に、好きなだけ争えばいいじゃん」

「エミリア。本音でもやめておけ」

「だって……。どんなに争っても、勝つのはキマイラでしょ」


私の言葉にシーズルが思いだしたように「そういえば、アレを一番狙っているのはキマイラだった」と呟いた。


「ダンジョン都市シティの外でやり合うんだもん。一応迷惑は被らないでしょ」

「しかしなー。まったく問題にならないわけでもないだろ?」

「なんで? 国境を越えてこれば外交問題だし、他国で暴れれば外交問題だし、争うために国境を越えたんだとしたら……」

「すべて外交問題、ということですね」

「さらに、王都が動くということは国家が動くということ。それを略奪するということは国を敵に回すということ。そうなれば、魔物の生き餌となるでしょう」

「それだけじゃない。他国の人間が略奪に失敗すれば、国家間の問題に発展する。……慰謝料だけで話が済めばいいが」


ここにいるみんなも、話が騒乱だけで済まないことはわかっている。ただ、それだけではない。


「誰かが捕まって『檻から半人半魔を解放し、国内を混乱に陥れようとした』と言われて、聖魔士ギルドやコルスターナをはじめとしたほかの国などが反論できると思う? 『違う』という証拠を用意できると思う?」

「いや。証拠はないだろ?」

「逆の話をするなら、『檻を襲った事実』があれば十分じゃない?」


私の指摘で誰もが顔を見合わせる。そう、さえあれば私欲だろうと興味だろうと『国家間の問題』にすり替えることは可能だ。そして、責めて攻めて責めて攻めて追い詰められれば「コルスターナに命じられました」と自供するだろう。

責める側はその言葉が出るのを待っているのだから。

そのあとは名前の出た国に対して抗議するだけだ。王都にとって、『半人半魔の有効活用』のために引き取りに名乗りをあげたのだ。


「一つ言うなら『この国の誰かに雇われて、檻を襲って他国の名をあげる』ことで優位に話を進めることも可能だよ」


私の言葉にざわつく。


「だからコルスターナに『キマイラに与える』と脅したのを知った王都が慌てて動いたのか」

「ここはだからね。国の命令を聞かないでいいんだもん。王都にしてみればここは他国と同じ。小国で強国なんだから脅威でしかないでしょ」

「……その代表が何を言っている」

「……あの檻、開けてきていい?」

「脅すな!」


私とダイバのやりとりに周りが笑いに包まれた。

それが冗談で済まなくなる事件が起きたのは二週間後のことだった。

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