第184話
プカプカと暗の妖精に運ばれてウォークインクローゼットへ。ここでイスに座らされると妖精たちに着替えをさせられる。ただ、今はダンジョンの中のため冒険者服一択だ。そしてブラシで髪を整えてから食事だ。
毎日、脱いだ服は状態回復で新品に戻しているため、起きてすぐ着替えても部屋が汚れることもないため問題はない。
《 エミリア。ここは新しい迷路だから、エミリアに起きててもらわないと地図が完成しないよ 》
「ここは地下何階?」
《 十八階。転移先は浜辺だから、クリアしたらまた砂浜で遊びましょう 》
《 あ……。それは違う 》
火の妖精の言葉を訂正する地の妖精。水の妖精も一緒に頷いている。
《 うん。ここは『未確認のダンジョン』だから、まだ転移石はないよ 》
「じゃあ、どうするの?」
《 ボス戦が終わったら、奥の部屋をチェックしてみて。転移石を置く場所に魔法陣が出てるから、そこから『入り口』に戻るから 》
「あの、水の中?」
私の言葉に火の妖精が《 イ~ヤ~ア~ 》と騒ぎだし、リリンに触手で頭を『空手チョップ』されて机に突っ伏した。
《 たぶん、最初の浜辺……? 》
「あれ? みぃちゃん、珍しく疑問形?」
水の妖精が困った表情で地の妖精を見ている。未発見だから自信がないのだろうか。
《 本来なら水の言う通りなんだけど……。ここのダンジョン、七通りあるから。たぶん全部回ることになると思う。だから、魔法陣で飛んだ先は同じような浜辺でも二つ目のダンジョンの可能性が高いよ 》
「それは転移石を置いてからも?」
私の質問に二人は左右に首を振った。
《 今回だけ 》
《 うん、今回だけ。全部の地図が必要だから 》
「このダンジョンの浜辺に転移石を置いた過去の人って、ここをリゾート地と考えたのかな?」
たしかに、日焼けしない太陽に青い海と茶色の砂浜。プライベートビーチを六日間貸し切ってのリフレッシュは幸せだろう。
《 昔の人はどうか知らないけど。ここに入るには『海水のない遺跡の中』にたどり着く必要があるからね 》
《 エミリアも見たでしょ? ダンジョンの入り口に水の膜が張られて水の中に埋もれたのを。あの膜がダンジョンを守る結界なの 》
「だから、『水がないこと』が前提なんだね」
ふと気付くとミントの香りがした。これはリリンの匂い。私の温室で植物の世話をしてくれているが、その中で気に入ったというミントの爽やかな香りを自身の体臭として体内で作り出すようになった。ただし、近くに寄らないとわからない。そして、私に何か言いたい時や気付いてほしいことがあると香りを強くする。
「リリン、どうしたの?」
私が聞くとゆらゆらと大きく左右に揺れた。
《 エミリア。リリンが『無理しないで』って。『クリアするのも大事なんだけど、エミリアが無理する必要はないから。疲れたらゆっくり休んで』って 》
《 そういえば……。エミリア、疲れてるよね? 朝も起きられなかったし 》
《 昨日も疲れてご飯も食べずに寝た! 》
《 どうする? 今日は一日休む? 》
リリンの心配がみんなに感染していく。
「白虎が乗せてくれるから大丈夫」
《 じゃあ、次の広場まで。そこでエミリアの体調をチェックしてから、今後どうするか考えましょう? 》
《 白虎と草原で昼寝でも、海やプールで遊ぶのもいいわよ 》
《 でも疲れない範囲でね 》
「ここの広さがわからない以上、一階だけでも地図をチェックした方が良くない?」
フロアの広さがわからない以上、マッピング作業が六日で済むだろうか? と思う。実際、今日はすでに二日目。……自分の体力のなさに落ち込む。
《 エミリア。日数が足りなければ一度二階に降りればいいの。それからまた一階に戻れば、六日間いられるようになるんだって 》
「誰がそんなことを……?」
《 昨日、エミリアが寝ている間に地がミリィに聞きに行ったの。それでミリィがダンジョン管理部に確認してくれたのよ 》
《 すでに、ここに未確認のダンジョンがあって、私たちが攻略に入っていることは情報部のニュースで知られているから。それと、ダンジョン管理部からエミリアの滞在制限を解除するって通知があるはずだよ。昔は新しいダンジョンが発見されると規制を解除されてきたから。ね? 心配しなくても大丈夫だよ 》
《 エミリア。ルーバーがエミリアに差し入れって『お好み焼き』をくれたから、お昼にでも食べよう 》
《 ミリィから「無理しないで」って伝言ももらったよ 》
みんなと話していると、ピタリとおでこに冷たいものが触れた。ピピンの触手だ。熱を確認しているのだろう。水の妖精も私のおでこに手を置いた。
《 うーん……。少しでも熱があったら休ませようと思ったけど……。平熱だわ 》
残念、と言いながら離れる水の妖精。ピピンも笑顔で上下に揺れる。
「じゃあ、早くお片付けをして探検にしゅっぱーつ!」
《 はいはい。白虎、今日はエミリアのお守りをお願いね 》
ガウッ
《 白虎、寝かせちゃダメよ 》
ガーウ
《 『だーいじょーぶ』だって 》
ガウガウ
《 あー。たしかに 》
《 それもそうだね 》
みんながクスクス笑う。
「えー? なに笑ってるのー?」
《 『初めて見る光景でハイテンションになって眠気も吹き飛ぶ』だって! 》
「あー! みんなしてひっどーい」
スパパパパパーン!
ピピンの触手……ではなく、珍しくリリンの触手が炸裂した。リリンはピピンと違って手加減をしない。そのため、妖精たち四人は完全に気絶していた。ちなみに白虎も叩かれたようで、床に伏せて両前足で頭を押さえて涙を浮かべている。
振り向くと、ピピンと水の妖精、暗の妖精が片付けをしてくれていた。ピピンと水の妖精は食器を泡洗浄して浄化。その水を一瞬で取りのぞいて乾燥まで。そして暗の妖精は重力を操作して食器棚へ……
リリンは一緒に水分を吸い取るお手伝いをしているけど、ピピンの手が離せないからリリンが代わりにきたみたい。いつもなら私たちもしているけど、今日は私を極力休ませるためにやってくれたんだと思う。
《 エミリア。アレをだして 》
暗の妖精に言われて、みんなとの思い出深い鳥籠を取り出した。その中に、リリンが気絶している妖精たちを投げ込んで鍵をかけた。そして、暗の妖精が暗幕で鳥籠を覆う。
「そこまでやる~?」
《 だって、騒げば魔物たちが襲ってくるのよ 》
《 そうそう。それに、エミリアもたまには魔法を使って魔力の循環をさせないと、身体に熱がこもって倒れちゃうよ 》
たしかに、ここにいる二人は自己管理がしっかりできるから、私が加減なく魔法を使ってもその威力をマネしようとはならない。
「じゃあ……久しぶりに遊んじゃおっかな」
私の言葉に、みんなが笑顔で頷いた。
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