第151話


「何で帰って来ないなんて思ったのよ」


《 だって・・・。会ったんでしょ? 》


「んんん~?・・・・・・ああ。エリーさんたちのことか」


《 そのまま行っちゃうって・・・ 》


「誰が?」


《 エミリア、が 》


「誰が?」


《 エミリアが 》


「誰が?」


《 だから!エミリアが行っちゃうって! 》


「だ~か~ら~。誰が言ったのよ。「帰って来ない」とか「そのまま行っちゃう」って。私、そんなことひと言も言ってないでしょ」


《 ・・・だって 》


「たしかに、思い出し始めているよ。でも、其処に感情はないの。・・・懐かしいって感情も、会いたいって感情すらもないんだよ。私にとっては『記録ほんを読んで覚えたことを思い出した』ようなものなの。そんな人たちと『何処かに行く』なんてありえないし。もし行くことになったとしても、みんなが一緒じゃないと。部屋の中やテント内ならともかく、外でも何度か倒れてるんだからね。私が倒れる理由を知ってるみんながいてくれないと、私が困るんだけど・・・。手がかかるだけの私と一緒にいるの、イヤになった?」


《 そんなことない! 》


《 一緒にいる! 》


ガウ!


みんなが全力で否定してくれる。・・・それだけでも嬉しい。


「それに、忘れたの?ミリィさんはすでに都市ここにいるんだよ?」


《 ・・・知ってる 》


《 でも、エミリアに『余計なこと』は言って来ない 》


《 見守ってくれてる 》


《 でも、あの人たちは・・・ 》


「大丈夫。『余計なこと』は言って来ないから。それに、今の私の仲間はだあれ?ピピンとリリンと白虎だけ?」


《 私たちも! 》


《 ぼくだって!他のみんなも一緒だよ! 》


地の妖精の言葉に全員が頷く。


「じゃあ。心配する必要はないでしょう?」


そういうと、ふたたび全員でスリスリしてきた。水の妖精と暗の妖精は涙目だ。




「・・・でも、心配だなあ」


《 な、何が!? 》


《 心配なことがあるの? 》


私の呟きに全員が大きく反応した。


「・・・本来、置き去りにされたり捨てられる側が私の方だってこと。だって、そうでしょう?みんなが『契約解除するバイバ~イ』って言えばそれまでなんだよ?」


《 そんなこと言わない! 》


《 私たちだって、契約解除したら、ちょっと強い風が吹いただけで『消えてしまう』んだよ! 》


「・・・でも。嫌になったら一秒でも一緒に居たくないでしょ?」


《 ・・・大丈夫だよ。エミリアのこと、ちゃんと最期までそばにいて見守ってあげる。ううん。私はエミリアが死んでもそばにいる。何時も『優しい風』を送ってあげる。『約束』するよ 》


風の妖精が私の頭を撫でながら『約束』を口にしてくれる。妖精の約束は誓約だ。たがえると一瞬で消滅してしまう大切なもの。


《 ぼくも誓うよ。エミリアが違う大陸に行くならぼくも一緒に行く。たとえエミリアが「来なくていい」って言っても、くっついて行くから 》


地の妖精がそう約束をして額に祝福のキスをしてくれると、他の妖精たちも次々と祝福のキスをしてくれた。


「・・・ありがとう。みんな」


目に浮かんだ涙をピピンと白虎が拭き取ってくれた。リリンが身体を震わせて『気持ちが落ち着くハーブ』の匂いを漂わせてくれる。リリンは『植物に特化したスライム』だ。地属性ではなく『植物』。こうして、私の気分を察知して香りを選んでくれる。

ちなみに『目覚めのハーブ』はミントで『おやすみのハーブ』はジャスミンやラベンダーです。

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