第133話


「おはよう。今日は何処か希望あるか?」


「おはよ、スワット。そうだねー、って。・・・これは何の騒ぎおまつり?実戦練習?」


まだ開門前のため入れないが視線の先に討伐隊がいる。しかし何時もより人数が多い。


「ああ。1番の5階で崩落事故だ。昨日の夜なんだがな。ちょっと魔物の強敵と戦った時に壁を崩しちまったらしい」


「夜に戦闘って『ルール違反』じゃん」


「ああ。その点については『強制退去の上、管理部で取り調べ』中だ」


ダンジョンではいくつか決められたルールがある。そのほとんどが1番から5番の『自分たち以外のパーティがいるダンジョン』に適用される。

例えば『夜間の戦闘は禁止』もそのひとつだ。

夕方には結界を張り野営をする。テントを持っていない冒険者が多いのは、ダンジョン内では雨露をしのぐ必要がないからだ。そんな冒険者たちがいるダンジョンで戦闘をすれば、迷惑がかかるだけでなく、戦闘で刺激を受けた別の魔物が暴れ出す。それはフロア全体に広がり大きな混乱をもたらす結果となる。

自分ルールでダンジョンを進みたいなら、6番以降のダンジョンに入ればいい。・・・有料だが、その分『他のパーティが入って来ない』ため、自分たちの好きに暴れられる。

そして、ダンジョンは管理されているため、何かあれば『転移魔法』で強制的にダンジョンから出される。

・・・日本のアトラクションみたいなものだろうか。


「崩落事故って言ったけど、魔力吸収とか衝撃吸収とかは?」


「そいつが効かなかったらしい。それで調べに入ることになった」


「5階の何処だ?」


ステータスでダンジョンマップを開いて5階を選択する。1番から5番までのダンジョンはすでに踏破済み。踏破済みのダンジョンなら、このダンジョン都市の何処からでも地図を開くことが出来る。


「報告では『地底湖の近く』だったぞ」


「うげっ!湖の鉱石を採りに行くつもりだったのに通行止めになってるじゃん。仕方がない。遠回りをして・・・って、あれ?」


「なんだ?」


「・・・湖が増えてないか?」


「そんなはずは・・・はあ?」


「・・・だろ?」


「お、エミリア。お前さんもダンジョンに入るんか?」


私たちが騒いでいたため顔馴染みになっている隊長が近寄ってきた。


「おはよ、ダイバ。ちょいと確認。1番ダンジョンの5階に湖は何個だ?」


「ああ?そんなの2個」


「現在3個ある」


「なんだとー!」


ダイバが慌ててダンジョンマップを開いたようで「なんなんだ!これは!昨夜ゆうべ見たのと変わってるじゃないか!」と騒いでいる。たぶん、事前の打ち合わせの時にマップを開いて確認したのだろう。ダイバの声に副隊長のアゴールも寄ってきた。


「隊長。何を騒いでいるんです。煩いです。近所迷惑です。口を縫われたいですか?あ、エミリアさん。おはようございます」


「毒を吐きながら呑気に挨拶するな!」


「アゴール、おはよう。で、ダイバ。この『崩落事故』近くにある湖の水は『何処から流れて来てる』んだ?」


「あ?たしか・・・あ!崩落で水脈が塞がれているのか!」


「じゃあ早く移動させないと壁が崩壊してダンジョンが水没するぞ!」


そう判断したスワットが1番ダンジョン内部にサイレンを響かせた。


「ダンジョン管理部より緊急避難命令。昨日さくじつ夜、5階層にて崩落事故が発生。調査のためダンジョンの封鎖が決定したため、5分後に全員を緊急脱出させます。繰り返します・・・」


スワットが1番ダンジョン内部にいる冒険者相手に放送を繰り返している間に、ダイバとアゴールが仲間たちの元へ戻りダンジョンに入る準備を早めている。冒険者が全員退避したら入れるようにだ。

5時ジャストに冒険者たちがダンジョンエリア内に強制転移されて来た。まだ寝ていたのか。結界を張った状態で寝袋に入って寝ている冒険者もいる。サイレンも放送も、ステータスから聞こえるようになっている。理由は結界内には声が届かないからで、このダンジョン都市独自の機能だ。

冒険者がダンジョンに入る時は冒険者ギルドで『ダンジョン使用許可証』を手に入れる必要がある。単純に言えば『ダンジョン内で魔物に倒されて死んでも冒険者ギルドに責任はない』と『他の冒険者に迷惑をかけない』。そして『他の冒険者が採取・採掘したものを奪わない』というものを『守ります』と宣言させる。冒険者ギルドの規約にもあることだが、それを守れない冒険者がいる。昨夜、戦闘をして壁を壊し、現在取り調べを受けている冒険者たちれんちゅうのように。

『ダンジョン使用許可証』は身分証に追加される機能だ。そのため、ステータスから緊急放送や強制転送などが可能なのだ。緊急脱出はともかくルール違反者を捕縛のためダンジョンから出したりってことにも使われている。

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